KTM 1290スーパーデュークR(MR/6MT)
完璧な猛獣 2020.02.22 試乗記 KTMの大排気量ネイキッドスポーツモデル「1290スーパーデュークR」が新型にモデルチェンジ。エンジンも車体も進化したオーストリアの「The BEAST(猛獣)」は、どのようなバイクに仕上がっていたのか? ポルトガル・アルガルヴェより、その走りを報告する。排気量は軽自動車2台分
KTMの新型1290スーパーデュークRに搭載されるエンジンの排気量は、1301ccである。つまり、車名の数字は実態より少し控えめだ。例えばドゥカティの「1299パニガーレ」のそれが1285ccであることを踏まえると、オーストリア人はイタリア人よりつつましいといえる。だからといって、ユーザーをビビらせないために逆サバを読んでいるわけでもない。なぜなら、そこに「The BEAST」というキャッチコピーを与え、いかにヤバいヤツかを前面に押し出しているからだ。
ヤバさの片りんは、その排気量をたった2つのシリンダーに振り分けているところに見て取れる。1気筒あたり650.5ccあるわけで、これだけでほぼ軽自動車1台分に相当。φ108mm径のビッグボアピストンが1万rpmを悠々と超えて回り、股の間でドカンドカンと爆発を繰り返しているのだから、よくよく考えてみるとちょっと恐ろしい。
実際、1290スーパーデュークRの初代モデル(2014年)は少々危うさをはらんでいた。野獣とまでは言わないものの、しつけられていない大型犬さながらの暴れっぷりをちょくちょく披露。リードをしっかり握っていないと体ごと持っていかれそうな緊張感があった。それが後に洗練され、2018年5月の試乗記で私は「従順」と評している。果たして、2020年モデルではどうなったのか?
“怖さ”より“楽しさ”が勝る
既述の通り、車名はそのままだが事実上のフルモデルチェンジである。エンジンの基本設計は踏襲されているものの、シリンダーヘッド、カムシャフト、燃調、インジェクター、吸気ファンネル……といった部分のきめ細かいアップデートによって、3PSの出力向上と1kgの軽量化を達成。低回転域で見せるスロットルレスポンスの穏やかさと、高回転域まで引っ張った時のスムーズな過渡特性にはちょっと驚かされる。
感覚的には900ccくらいのVツインといった印象で、つまり手ごろだ。もちろんライドバイワイヤを駆使して出力を落とし、優しさを演出することは容易だが、KTMがそれで終わらせるはずもない。ライディングモードのステージをレイン→ストリート→スポーツ→トラックと引き上げ、一方でトラクションコントロールやウイリーコントロールといったセーフティーデバイスの介入度を落としてパワーを開放すれば、200km/hの領域からでもフロントタイヤはリフト。200PSオーバーのスーパースポーツなら怖さが先行するものの、1290スーパーデュークRの180PSならそれを(ギリギリ)楽しめるところがポイントだ。電子制御の精度もさることながら、エンジンそのものの素性がよくなければこうはならない。
もっとも、ここまでならマイナーチェンジの範疇(はんちゅう)だ。今回注目すべきは車体の方で、クロモリパイプで構成されたメインフレームが一新されたことが分かる。より直線的に組み合わせられたそれは、従来フレーム比でねじり剛性が3倍に強化され、それでいて2kgの軽量化を実現。また、視覚的にも物理的にも低重心化が進められている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
当代随一の完成度
スポーツバイクにおける低重心化は運動性のスポイルとほぼ同義ながら、1290スーパーデュークRの場合はそれを安定性に変換している。コーナリングでは美しい弧を描くようなライントレース性を見せ、ハンドリングには落ち着きが与えられているのだ。試乗会場になったポルトガルのポルティマオ・サーキット(正式名称はアウトードロモ・インテルナシオナル・ド・アルガルヴェ)は、世界でも指折りの激しいアップ&ダウンが続く難コースだが、そこを初見で走れたのはしなやかな車体によるところが大きい。
そしてもうひとつ、リアサスペンションには新たにリンクが採用されており、これがタイヤの路面追従性と乗り心地のよさに貢献。特にストリートでの快適性は従来モデルを圧倒する。角度調整が可能なメーターディスプレイや4段階の中から選べるハンドル位置、ホールド性に優れる燃料タンク形状を含め、よりライダーフレンドリーになっていることがトピックだ。
「KTMはもっと攻撃的であるべきだ」と言うのなら、それを手に入れるのは比較的たやすい。純正アクセサリーとして用意されるチタンのフルエキゾーストやアルミ削り出しのステム、ステアリングダンパーといったキットパーツを組み込み、サスペンションを軽く締め上げれば、スリックタイヤも難なく履きこなす一級のスーパースポーツに変貌するからだ。
パフォーマンスを追求したビッグツインは多数存在するが、新型1290スーパーデュークRの完成度は現在最良の域にある。
(文=伊丹孝裕/写真=KTM/編集=堀田剛資)
![]() |
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1497mm
シート高:835mm
重量:198kg(燃料除く)
エンジン:1301cc 水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:180PS(132kW)/9500rpm
最大トルク:140N・m(14.3kgf・m)/8000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:217万9000円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。