KTM 1290スーパーデュークR EVO(6MT)/1290スーパーデュークGT(6MT)
進化する猛獣 2022.08.13 試乗記 KTMスポーツネイキッドのフラッグシップ「1290スーパーデュークR」。その2022年モデルに、次世代型のWP製セミアクティブサスペンションを装着した「EVO」が追加された。よりハイレベルな走りを可能にした“THE BEAST”(猛獣)の実力を報告する。これ以上の速さは果たして必要か?
最新スポーツネイキッドのパフォーマンスはどれも凄(すさ)まじい。ハイパワーのエンジンで速さを追求するとしたらスーパースポーツのデザインのほうが理にかなっているのは当然のこと。カウルのないアップハンドルとなるとフロント荷重や高速での風の問題(フロントを持ち上げようとしてしまう)などいろいろ難しい点が出てくるのだが、それにもかかわらずスーパースポーツに匹敵するパワーを誇るものも少なくない。
今回紹介する1290スーパーデュークRにしても、最高出力は180PS。ストリートで全開にすることはできないし、サーキットでポテンシャルをフルに発揮させようとしたら、相応のライディングテクニックが必要になる。個人的には「もうこれ以上進化しなくてもいいんじゃないかな」と思うこともあるくらいなのだが、その歩みは止まらない。今回の1290スーパーデュークR EVOでは、ついに次世代のセミアクティブ電子制御サスペンションが装着された。
このサスペンションは「コンフォート」「ストリート」「スポーツ」のダンピングモードをボタンひとつで選択でき、プリロードも最大20mm、11段階の調整が可能。さらにオプションの「SUSPENSION PRO(サスペンションプロ)パッケージ」を購入すると、「トラック」「アドバンス」「オート」のダンピングモードが追加され、「ロー」「スタンダード」「ハイ」の3モードからなるプリロード自動調整機能と、アンチダイブ機能(ハードブレーキング時のノーズダイブを抑制する)が使えるようになる。このオプションの選択に際しては、新たに部品を追加する必要はない。専用のツールを使用してシステムをアクティベートすれば、セミアクティブサスペンションの性能をより引き出すことができる。
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セミアクティブサスの完成度に驚かされる
今回試乗したのは、このサスペンションプロパッケージ装着車両だった。これだけ調整できる部分が多いと、短い試乗時間ですべてのフィーリングを確認することは難しいのだが、セレクターの操作やモニターの表示が分かりやすく、直感的にセッティングが変更できることはありがたかった。
激しい走りを想定した大パワースポーツネイキッドとなると、サスペンションの設定もそれなりにハードになるのが普通だ。しかしそこはセミアクティブサスペンション。コンフォートモードに設定しておけば、ストリートでも乗り心地の悪さを感じることはない。低いスピードレンジでも前後のサスがよく動いてくれるので、交差点を曲がるような低荷重域の旋回でもバイクをコントロールしやすい。
スポーツモードにすればダンピングの設定が変化して無駄な動きが抑えられ、思い切った操作をしても姿勢が乱れることはない。アンチダイブの利き方は自然だから作動していることは分からないのだけれど、キャスターが立っていてライダーの着座位置が前のほうにあるスーパーデュークのようなバイクでは、ハードブレーキング時の効果は大きいはずだ。
他方で、モードを変えても常に感じられたのがフロントの安定感と素直なハンドリングだった。スーパーデュークが初めて登場した頃は、カミソリのような鋭さがあったものだが、進化していくごとにクセがなくなり、自然な感覚になっていった。このマシンではそれが高性能な電子制御サスペンションの恩恵で、さらに完成されたものとなっている。
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乗りやすくてもやっぱり“猛獣”
ストリートを走りだして、すぐに感じたのがエンジンの軽い回り方だった。KTMのエンジンは、どれもスムーズで俊敏な回り方をするのだが、1301ccも排気量があるとは思えないような軽やかさなのだ。ビッグツインで想像するような激しいトルクや鼓動感とは別物だ。最初はエンジンのパワーモードをストリートにして走っていたが、3000rpm前後を使って走っている時のスムーズさと気持ちよい回り方には感動を覚えるくらいだった。激しいスポーツネイキッドであることをまったく忘れてしまうくらい、心地よいフィーリングなのである。
スポーツモードに変えるとレスポンスは鋭くなるが、スピードレンジが低いタイトなワインディングロードでは、スロットルの開けはじめのツキが鋭くなりすぎて、ギクシャクしてしまうこともある。低速ギアで走るようなワインディングの場合は、ストリートモードのままのほうが扱いやすい。それでも十分すぎるくらいのレスポンスとパワーだ。
7000rpmを超えると180PSの豪快な加速を味わうことができるが、全開時に注意しなければならないのはライディングポジション。スーパースポーツに比べると乗車姿勢が立ち気味なことに加え、“アップハン”でのスポーツライディングを考えてステップが比較的前に取り付けられているので、加速する時はライダーがきちんと前傾姿勢を意識してやらないと、上体がのけぞってハンドルを引っ張り気味になってしまうことになる。そんな時でも完成度が高い車体とサスペンション、マネジメントシステムによって安定性は保たれているのだが、もしもスロットルを大きく開ける時は、180PSのモンスターであることを忘れてはならない。
クイックシフターはスポーティーな走りをサポートしてくれる装備で、特に4000rpmを超えたあたりからはスムーズな変速をみせてくれる。ただし、シフトアップはスムーズだがシフトダウンではエンジンがブリッピングするものの多少ショックがある。この部分のスムーズさが加わると、スポーツライディングの質がさらに上がることだろう。
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「GT」はもう少し穏やかであっていい
同じ日に試乗した「1290スーパーデュークGT」は、1290スーパーデュークRをベースとしたスポーツツアラーだ。カウルが装着されていることに加え、ポジションやタイヤが違うのでハンドリングがずいぶん安定している。コーナーでは体重移動をさぼってもマシン任せで旋回してくれるイージーさがある。
エンジンは最高出力がわずかに低い(175PS)反面、トルクは大きいので低中速ではRよりも若干力強い。低回転域でもツキがいいので、低速コーナーでスロットルオンした時、Rではまったく現れなかったギクシャク感が多少出てしまう。低回転域のフィーリングもRのほうがスムーズ(どちらもストリートモードで比較)。ツアラーとしての性格を考えたら、ストリートモードでのレスポンスをもう少し穏やかにしたほうが疲れは少ないだろう。
冒頭で、大排気量スポーツネイキッドはもうこれ以上進化しなくてもいいのではないかと思っていると書いたが、今回1290スーパーデュークR EVOに乗ってみて、ずいぶん考えが変わった。速さと乗りやすさを両立させているだけでなく、実用速度域での快適性や楽しさまでも感じられるマシンになっていたからだ。ハイパフォーマンスなマシンをおとなしく走らせると、マシンから急(せ)かされているような感じがしたり、あるいは本来の面白さが味わえなかったりすることにストレスを感じることも少なくないのだが、1290スーパーデュークR EVOの完成されたエンジンと電子制御サスに支えられた車体には、そういったストレスを感じることがまったくなかった。
しかし、どんなに乗りやすくなったとしてもスポーツライディングの楽しさをスポイルしないのがKTMのマシンづくり。それを実証したのが今回の1290スーパーデュークR EVOというマシンなのである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
KTM 1290スーパーデュークR EVO
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1497mm
シート高:835mm
重量:200kg(燃料除く)
エンジン:1301cc水冷4ストローク V型2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:180PS(132kW)/9500rpm
最大トルク:140N・m(14.3kgf・m)/8000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:5.6リッター/100km(約17.9km/リッター、WMTCモード)
価格:249万9000円
KTM 1290スーパーデュークGT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1482mm
シート高:835mm
重量:216kg(燃料除く)
エンジン:1301cc水冷4ストローク V型2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:175PS(128.7kW)/9750rpm
最大トルク:141N・m(14.4kgf・m)/7000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:5.7リッター/100km(約17.5km/リッター、WMTCモード)
価格:244万9000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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