MaaSのレベルが上がればマイカーユーザーにも
このように、MaaSアプリは公共交通機関の利用者にはメリットがあるが、マイカーユーザーには必要ないものが多いのが実情だ。地図アプリを除けば、基本は公共交通の使用を前提にしている。では、マイカーユーザーにとってMaaSは不要かといえば、そうではない。“現段階”ではそれほどでもないだろうが、将来的には必要になる可能性があると筆者は考えている。
スウェーデンのチャルマース大学の研究者が提唱した、MaaSのレベル分けがある。「レベル0」は何もない状態。鉄道やバスといった交通機関や地図情報など、それぞれが独立して存在するイメージだ。そして、「レベル1」が情報の統合(複数モードの交通提案、価格情報)、「レベル2」が予約、決済の統合(1トリップの検索、予約、支払い)、「レベル3」がサービス提供の統合(公共交通に加えてレンタカー等も統合)、「レベル4」が政策の統合(データ分析による政策)と、だんだんと複雑になっていく。現状はレベル1が成熟し始め、レベル2が始まりつつあるといったところだろう。
今後、MaaSのレベル2やレベル3が広がると、マイカーユーザーにもメリットのあるサービスが増えてくるのではないかと思う。例えば、MaaSは物流にかかわってくる可能性がある。郊外で人口が少なく、ドライバーの確保が難しいような地域では「貨客混載」が検討されている。鉄道の駅や道の駅などを回るコミュニティーバスを走らせるとして、道の駅で販売する商品を鉄道の駅で積み込むといった使い方が考えられる。
あるいは、MaaSは街づくりとも直結するものであり、ゆくゆくは中心部のにぎわいのために、欧州などで行われているゾーニングが導入される可能性もある。鉄道の駅周辺に必要な公共施設や商業施設を集積し、そのエリア内は許可されたクルマ以外は入れないようにする。マイカーユーザーはゾーンの外側にある駐車場にクルマを止めて、徒歩や公共交通でエリアに入っていく。そうなると、マイカーユーザーも何らかのMaaSアプリを使うことになる。例えば、公共交通の乗り換え案内やゾーン内の案内や決済、駐車場の利用などはおそらくアプリ対応になるだろう。
さらに、MaaSのレベル4は政策の統合(データ分析による政策)として、国・各自治体による交通政策が統合されていくという。あまりに未来感のある話で、正直本当にそうなるのかは分からない。ただ、政策の統合に意義があるのは間違いなく、そうなることを一市民としてささやかに願うばかりだ。
なお、ここまでほぼアプリの話が大半だが、言うまでもなくMaaS=アプリではない。重要なことは「利用者にとっての一元的なサービス」であること。多数の事業者が連携してサービスを運用しているが、ユーザーから見たらひとつのアプリで全部済んで便利! と思えるようなデザインでなければならない。また、こうしたアプリは利用する行為そのものに課金しづらい。どうやってMaaSを運営していくのか、ビジネスとしてはまだまだ議論の余地があるという。
マイカー天国の地方都市にMaaSは必要かーー答えはYESだと筆者は考えている。交通社会が健全で、より良いものであるように、マイカーを含めたすべてのモビリティーのためのMaaSが待たれる。
(文=林 愛子/写真=西日本旅客鉄道、国土交通省/編集=藤沢 勝)
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