第646回:頑丈なのはドイツ車で劣化しやすいのはやっぱり……? 大矢アキオが自動車バッジの耐久性を調査
2020.03.13 マッキナ あらモーダ!BMWがロゴデザインを一新
独BMWは2020年3月3日(現地時間)、新しいブランドデザイン(ロゴ)を導入した。
新デザインは、開放性と明瞭性を示し、カスタマーを従来にないほどBMWの世界にいざなうものと説明されている。
新デザインへの移行は2021年5月31日までかけて行われ、これからオンライン&オフラインのコミュニケーションや国際的なトレードフェア、そしてイベントなどで用いられる予定だ。
主要自動車メーカーの新ブランドロゴという点では、2019年9月のフォルクスワーゲン(VW)に続くものだ。参考までに、実はメルセデス・ベンツも2009年にスリーポインテッドスターを二次元化したロゴデザインを使用開始したものの、現在は以前のものに戻されている。
VWとBMW、両ブランドの新作はいずれも、従来の図柄をより二次元化し、金属製バッジ風の立体感を醸し出す陰影が消えている。
かつて筆者がブランドデザインに携わる人物に聞いた話では、使用色が多くなったり複雑な図柄になったりするほど、4色製版の版ズレといった刷り上がりの検査工程が増えてしまうという。加えて筆者の出版社への勤務経験から言えば、雑誌の編集部も広告クライアントのロゴが正しい色で刷れているかというも、気遣いが増えるに違いない。
そうした意味でVWとBMWの新しいロゴは、さまざまな人々の手間を省略することに貢献するだろう。
ただし、両社の新ブランドデザインの運用には、決定的な違いがある。
最善の方法は全裸?
VWは早くも新ブランドデザインを反映したバッジを、8代目「ゴルフ」や電気自動車の「ID.」シリーズに採用している。
対してBMWは「従来のロゴを補完するものであり、自動車および販売店の内外装には既存のロゴを引き続き用いる」としている。
なお、新ブランドデザインと同時に発表された「コンセプトi4」の内外装には新デザインのバッジが装着されているので、厳密には「市販車および販売店の内外装」と解釈するのが正しいと思われる。
筆者の個人的好みからいえば、BMWにはその斬新な新デザインのバッジを市販車にも導入してほしい。だが、それが難しい理由も想像できる。その理由とは「透明」であることだ。
透明プラスチックを操作パネルに使用した家電製品を思い出すといい。経年劣化により、本体と透明プラスチックとの間にほこりが侵入してしまうのである。
自動車は屋外に置かれることが多く、外気をふんだんに浴びて走行するものだ。新車時はともかく、年月を経るごとにバッジの透明部分に入るほこりの量は家電の比ではないだろう。雨水や泥も侵入する。
そもそも工場の艤装(ぎそう)工程で車体にバッジを貼り付ける時点でも、ほこりの混入に通常以上の注意が必要になる。
なぜそれに気づいたかといえば、少し前、東京・渋谷の家電量販店で、スマートフォンの画面に貼るガラス保護フィルムを購入したときの経験からだ。
店頭貼り付け代行サービスの標準料金は500円。対して、筆者の「iPhone11 Pro Max」の場合は、その3倍の1500円だという。画面の面積が広いから高いというのが理由だった。
自分で貼ることにした筆者は、店員に「素人がフィルムと本体との間にほこりを混入させない最善の方法は?」と聞いてみた。すると店員はひとこと「マッパです」と教えてくれた。一瞬「フォード・マスタング マッハ1」が頭に浮かんだが、そうではなくマッパとは真っ裸、つまり全裸のことだった。「ほこり侵入の大敵である服の繊維の飛散を防げる」のだという。
「この店のサービスコーナーでは店員が全裸で貼ってるのかよ」という突っ込みが喉まで出かかったが、ぐっとこらえた。そして宿泊先に帰ってから、入浴するわけでもないのに、インストラクションどおり“マッパ”になって貼り替えを敢行したのだった。
その苦労を味わった筆者ゆえ、BMWの艤装工程で働く人に、マッパでエンブレムを貼れとは到底言えない。
そのような戯言はともかく、今回はイタリア在住の筆者の視点で経年変化に「強いバッジ」と「弱いバッジ」を観察してみた。
劣化しないドイツブランド
撮影のために赴いたのは、筆者が住むイタリア・シエナにあるいくつかの青空駐車場である。
なお、ここで扱う劣化に強い/弱いは統計的なものではなく、あくまでも過去20年にわたって筆者がイタリアで行ってきた観察に基づいたものであることをお断りしておく。
概して劣化が少ないのはドイツ系ブランドといえる。今回の撮影で見つけたメルセデス・ベンツ車にはバッジが劣化したり、欠損したりしているものがなかったし、過去にも、いたずらによるマスコットのはぎ取りや、カスタマイズで取り外したと思われるものを除き、そうした例をほとんど見たことがない。
アウディもしかりだ。ただしアウディのブランドロゴ「フォーシルバーリングス」の場合、劣化とは別の意味で困るポイントがある。かつて東京の学生時代に乗っていた「アウディ80」は、円と円とが交わる部分に洗車用洗剤が残ってしまい、そこを丹念にふき取るのに手間がかかったものだ。
それはさておき、特筆すべきは今回発見した3代目「BMW 3シリーズ」(E36)である。最終販売年が2000年だから、最低でも20年ものである。さらにヘッドランプユニットの破損およびその放置状況からして、オーナーは決してクルマをいたわるタイプではないことが想像できる。しかし、エンブレムの輝きは限りなく保たれている。
いっぽう、経年変化したバッジがたびたび見られるのは、ずばりイタリア車である。
フィアットが2006年から使用しているロゴも、アルファ・ロメオの伝統的なバッジも、イタリアを走っている古いモデルを見ると、かなりの確率で退色している。特に後者はミラノの紋章である十字部分の退色が激しい。
答えは簡単だ。いずれも退色しやすい「赤」を用いているためである。
ガレージやカーポートを使っている日本のユーザーには、あまり関係がないかもしれない。
しかし、イタリアの路上でクルマを強い直射日光にさらしていると、赤い部分は想像よりもずっと早く色あせてしまうのである。
汚れやすくシワになりやすい白い麻のスーツを常にきれいに着るのが粋であるように、古くなったらバッジを交換するのが正解なのかもしれないが、イタリアでそこまでバッジにお金を投じる人はいない。
アルファ・ロメオの場合は、第2次大戦直後の一部モデルに見られるように単色――実はこちらもワインレッドであったのだが――を次のブランドロゴにしてみるのも一考に値するのではないか。
だが個人的な観察と経験のなかで、最も残念に感じているのは、フィアットでもアルファでもない。
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バッジが次々と落ちてゆく
もうひとつのイタリアの名門ランチアである。
こちらではバッジが著しく劣化しているランチア車をたびたび発見できる。ファンならご存じのとおり、このブランドのシンボルカラーはブルーなので、色は言い訳にならないだろう。バッジそのものの耐久性の問題と思われる。
ランチアといえば、筆者が20年以上前にイタリアで最初に手に入れた中古の初代「ランチア・デルタ」では、テールゲートのバッジに泣かされた。
土台となる銀色のプラスチック製プレートの上に青いプレートが載っているという2パーツ構造であり、デルタの場合は左が「LANCIA」で、右が「1300」だった。
しかし、ある日気がつくと1300の青いプレートがなくなって、土台だけになっていた。
幸い、後日解体工場で同じものを見つけて貼り付けたものの、今度はLANCIAのほうがなくなってしまった。走行時の振動やテールゲート開閉時の衝撃が繰り返し発生するうちに、はがれ落ちてしまったに違いない。
当時路上を走っていた他のデルタにも同様の例がたびたび見られた。さらに、同時期につくられたランチアの他モデルでも、グレード名のプレートがなくなっているものをよく発見したものだ。筆者の中古デルタならともかく、フェラーリの8気筒エンジンを搭載した「テーマ8.32」といったモデルに乗っていた人は、もっと泣けてきたことだろう。
バッジの品質は、ユーザーの満足度にも影響する。新ブランドデザインやそれを基にしたバッジ制作に関わる方々は、新車時のスタイリッシュさだけでなく、ぜひとも将来をも見据えた色彩とマテリアルを選択していただきたい。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、BMW、フォルクスワーゲン/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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