第615回:異次元のパフォーマンス! 筑波で「メガーヌR.S.トロフィーR」の実力に触れる
2020.03.14 エディターから一言![]() |
FF車世界最速の称号を持つ、ルノーの高性能ハッチバック「メガーヌR.S.トロフィーR」。国内屈指の名コース、筑波サーキットをどれほどのペースで駆け抜けることができるのか? タイムアタックの模様をリポートする。
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もはやスーパーカー級
2019年4月にドイツ・ニュルブルクリンク北コースにおけるレコードタイムを塗り替えたメガーヌR.S.トロフィーRはその後も、世界の名だたるサーキットでタイムアタックするプロモーションを展開してきた。そこにはわが国の鈴鹿サーキットも含まれており、その模様は『webCG』でもリポートしている。
そんな“市販FF車最速”のトロフィーRが、2020年2月18日、筑波サーキットのコース2000でタイムアタックを敢行した。ただ、上記の鈴鹿アタックは本国ルノー・スポールによるものだったのに対して、今回はルノー・ジャポン独自のもので、乗り手はwebCGでもおなじみの日本人レーシングドライバー、谷口信輝選手である。
今回設定された目標タイムは1分2秒台。実は2019年末の某自動車誌の企画で、谷口選手が駆るトロフィーRは1分3秒591を記録している。これですら2リッターターボ級(トロフィーRは1.8リッターターボだが)の市販車としては、駆動方式を問わずに驚異的なタイムといっていい。筑波では市販車の公式レコードを記録していないが、メディア企画などでのアタック記録を見るかぎり、メガーヌR.S.の宿敵である現行「ホンダ・シビック タイプR」や4WDの「スバルWRX STI」でも1分5~6秒が相場。これより筑波で速い市販車となると、それこそ「日産GT-R」レベルのスーパーカーしかないのだ。
しかし、2019年末のアタックで「条件を整えれば2秒台もいけるのでは?」との手応えを感じた谷口選手とルノー・ジャポンは満足しなかった。複数のタイヤセットやタイヤウオーマーを準備して、今回のアタックを企画したというわけだ。
限界レベルでずっと走れる
というわけで、その注目のアタック結果だが、当日のベストタイムは1分3秒984。残念ながら、目標達成とはならなかった。
谷口選手によると、とても寒くて路面も好条件だった昨年末と比較すると、今回は関東の冬としては気温が異例に高かったこと、前日に雨が降ったこと、当日は風が強かった……などの悪条件が重なったのが原因という。ただ、「いやあ、全然ダメでしたね」と谷口選手が苦笑する今回の1分3~4秒台でも、2リッター級の市販車としては異次元のタイムであることに変わりはない。
しかも当日、ベストラップ付近の1分4秒台前半を連発し続ける谷口選手のトッププロならではの正確無比のテクニックと、トロフィーRのタフさは素直にすごいと思った。谷口選手も「このように限界付近のタイムでずっと走れるクルマは普通ではない」とあらためて感嘆していた。
このメガーヌR.S.トロフィーRというクルマは最高出力300PSを発生する「トロフィー」をベースに、徹底的なダイエットを敢行したサーキットスペシャルである。その手法はまさに古典的。遮音材や後席、リアワイパーまでを取り去り、カーボンボンネットに薄肉ガラス……など軽量化策は枚挙にいとまがない。それでも飽き足らず、最後には6段デュアルクラッチトランスミッション(EDC)や四輪操舵(4コントロール)といった「メガーヌR.S.のレゾンデートル(=存在価値)」といえるアイテムまで取り去って、ベース比で-130kgという大幅な減量に成功している。
軽量化の効果は絶大
トロフィーRはその開発時に重要市場である日本でもテストしているが、谷口選手はそこでも協力しているという。そんな谷口選手はタイムアタック後に次のように語った。
「4コントロールの旋回性能は驚異的です。トロフィーRでその4コントロールを外すと最初に聞いたときは、本当に驚きました。クルマの“走る・曲がる・止まる”のうちで、4コントロールは“曲がる”を助ける技術です。でも、軽さは“走る(加速)”と“止まる(ブレーキング)”ではメリットがあるので、あとは“曲がる”だけを頑張ればいい……と判断したわけです」
「今回もギリギリに攻めると普通のトロフィーよりナーバスなのは事実ですが、サーキットではトロフィーRのほうが速いのは明白です。300PSのクルマにとって、-130kgはそのくらい絶大。サーキットでのタイム短縮という目的にはそのほうがアドバンテージが大きく、これは限定車ですし、割り切っているんですね」
「そうはいっても、このクルマをセッティングしたロラン・ウルゴンさんをはじめとする開発チームは神ですよ(笑)。こんなにソリッドな感触なのに気持ちよく攻められて。本当に速く走らせるにはウデが必要ですが、誰が乗っても楽しめます。自分が乗りたいようにセッティングするだけなら意外に簡単なんです。限定とはいえ、どこの誰が乗るかわからない市販車でここまで楽しめるように仕上げるのって、本当に大変だったと思います」
タイムアタック後に取材陣にチョイ乗りの機会が与えられたトロフィーRだが、そのパチンコ玉のようにはじかれる加速と、すさまじいばかりのブレーキ性能には、アマチュアの筆者も130kgの効果を思い知った。この珠玉のFFを手に入れられる人が本当にうらやましい。
(文=webCG/写真=ルノー・ジャポン)

webCG 編集部
1962年創刊の自動車専門誌『CAR GRAPHIC』のインターネットサイトとして、1998年6月にオープンした『webCG』。ニューモデル情報はもちろん、プロフェッショナルによる試乗記やクルマにまつわる読み物など、クルマ好きに向けて日々情報を発信中です。
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