第617回:乗用車より一足お先に電動化? ホンダが電動スクーターで仕掛ける宅配ビジネスの革命
2020.04.18 エディターから一言 拡大 |
ホンダが電動ビジネススクーター「ベンリィe:」の市場投入と、フリート車両向けのコネクテッドサービスの提供を発表した。車両(バイク)とサービスの双方でスタートしたホンダの新しい取り組みは、配送の現場に変革をもたらすのか?
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ビジネスバイクに電動化の波
ホンダのビジネスバイクといえば「スーパーカブ」を思い浮かべる人も多いだろうが、近年ではスクーターのベンリィが存在感を増している。市中から新聞や郵便の配達を知らせる遠心クラッチのサウンドが減ったのは、現場におけるスクーターの台頭を示す現象ともいえるだろう。今後はさらに大きな変化が訪れるかもしれない。ホンダが、ビジネス向け電動スクーターの投入を開始するからだ。
これまでベンリィには50ccと110ccの2タイプが存在したが、ホンダはそこに電動モデルのベンリィe:を追加。2020年4月24日に発売すると発表した。エンジン車のベンリィをベースとするが、電動パワートレインとバッテリーを搭載するため、各部に設計変更が行われている。モデル構成は“50cc以下”相当の原付一種「ベンリィe:I」と、“50cc超125cc以下”のクラスに相当する原付二種の「ベンリィe:II」の2タイプ。また、それぞれのモデルをベースに大型フロントバスケット、大型リアキャリア、フットブレーキなどを装備した「プロ」仕様も用意されている。
ベンリィe:の構造を簡単に説明すると、後輪に内蔵した駆動モーターで走行。動力源には、シート下のスペースに2個の着脱式リチウムイオンバッテリー「ホンダモバイルパワーパック」を搭載している。これは、2018年に発表された電動スクーター「PCXエレクトリック」に採用されているものと同じで、電動パワートレインについてもPCXエレクトリックと共通となる96V系のシステムを採用。重量増を嫌って回生ブレーキは非搭載となっており、電装品などを動かす12Vバッテリーにも、変圧器を介してモバイルパワーパックから電気が供給される。
静かなだけでなく、乗りやすい!?
シャシーや電動パワートレインなど、車両を構成する要素はe:I、e:IIで共通となっており、したがって125kg(プロ仕様は130kg)という車両重量も同じだ。ただ、制御によって電動パワートレインのアウトプットは変更されており、e:Iは最高出力2.8kW(3.8PS)、最大トルク13N・m、e:IIは最高出力4.2kW(5.7PS)、最大トルク15N・mを発生する。航続距離については、e:Iが87km(30km/h定地走行テスト値)、e:IIが43km(60km/h定地走行テスト値)とされている。
実際にベンリィe:に試乗してみた感想は、「想像するよりもずっと乗りやすい」であった。試乗したのは原付一種のe:I。操作方法は基本的に“普通のスクーター”と同じでシンプルだ。特徴のひとつとして、小さいけれど見やすいデジタルメーターが挙げられる。発進時は“クリープレス”だが、スロットルをひねるとスムーズな発進をしてくれる。四輪の電動車では強烈な加速がお約束だが、省エネ効果に加え、通常の原付と似た乗り味も考慮されたベンリィe:では、加速はわりと穏やかだ。回生ブレーキがないので、アクセルオフ時の強い減速とも無縁。自身によるアクセルとブレーキの操作“だけ”にそった加減速が、乗りやすさにつながっていると感じた。
50ccのエンジン版ベンリィとスペックを比較すると、出力が15%ほど低いので加速の伸びはこちらのほうが鈍いだろう。しかしトルクとなると話は一変、50ccエンジンの実に3.1倍もの力を発生する。街中でのストップ&ゴーを繰り返す宅配バイクの用途を思えば、e:Iのほうが素性は上といえそうだ。また、モーターによるバック(後進)が可能なのもユニークなところ。これもシンプルなモーター駆動が実現する機能のひとつである。
今夏からコネクテッドによる運行管理サービスも投入
こうしたパワートレインの電動化とともに動きを見せるのが、バイクへの通信機の搭載だ。ホンダは車載通信機による法人向けコネクテッドサービス「ホンダ フリート マネジメント」を2020年夏ごろに開始する予定で、同サービスでは「位置情報のリアルタイム把握」「運転特性レポートによる安全性の向上」「業務日報の自動作成や各種管理の業務効率化」「定めたエリアへの接近・通過・到着のお知らせ」の主に4つの機能が提供される。通信機を搭載すれば、電動車でもエンジン車でもサービスを受けることが可能で、導入のメリットとしては、データに基づく運用車両の効率化や、社内安全運転講習への活用、正確な記録に基づく業務日報の作成などが挙げられている。
このシステムはホンダ独自のものではなく、ITベンチャーであるスマートドライブとの協業によるものだ。同社は通信を活用した走行データを取得し、蓄積・活用する「モビリティーデータプラットフォーム」を展開しており、さまざまな企業に車両の運行管理サービスなどを提供している。
しかし、ホンダにも通信機能を備えたナビゲーションシステム「インターナビ」がある。なぜ他社との協業に踏み切ったのか? ホンダによれば、既存のシステムはカーナビを使用する四輪車に特化したものであり、データを運行管理などに活用する二輪車とは用途も狙いも異なる。そこで、専用車載機を開発し、それを活用した新しい仕組みを生むために、スピーディーな対応が可能なスマートドライブに声をかけたのだという。一方、スマートドライブは他社に提供している運行管理などのシステムがあり、それをホンダの要望に応える形でカスタマイズ。これまでの経験を生かした実用性の高いシステムを、素早く提供することができたというわけだ。
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電動化とITがもたらすビジネスバイクの未来とは?
ホンダでは、これまでも安全・安心・高耐久なバイクをビジネス市場に提供してきた。しかし、“売る”から先へとサービスの幅を広げようとすると、コネクテッドの存在が重要になるという。通信機能があれば、適切なメンテナンス時期のお知らせや、安全運転教育など、新たなサポートが提供できるようになるからだ。それをホンダ車とセットで販売することで、新たな価値を創出することが狙いなのだ。
もちろん、電動スクーターの運用でもコネクテッドサービスは重要な役割を担う。ベンリィe:では、バッテリーの残量や劣化の進行度合いなども把握されるので、例えば今のバッテリー残量では目的地に到着できないことを運行者に知らせたり、劣化の進行したバッテリーの交換を促したりと、多方面での車両運用のサポートが可能になるという。
スクーターの電動化は、環境負荷低減が第一の目的だが、それ以外にもユーザーメリットはある。まずはエネルギー問題だ。ガソリン車には給油が必要となるが、昨今のガソリンスタンドの減少から、ルート上や拠点のそばに必ずしもスタンドがあるとは限らない。わざわざ給油に向かうとなれば、余計な時間だけでなく、交通事故のリスクも高まることになる。また電動パワートレインはオイル交換の必要がないので、メンテナンスの回数も削減できる。さらに、ベンリィe:ではバッテリーが脱着式のため、駐輪場ではなく室内で充電できるのもメリット。このため、ホンダでは交換用バッテリーのみの販売も計画しているという。
一方で、避けられない最大の課題はコストだ。日々のエネルギー代だけみれば電動のほうが有利だが、車両価格に2.6倍~3倍もの差がある現状では、断然ガソリン車のほうがトータルコストが安い。電動ビジネススクーターの普及については、この差をどれだけ早く現実的な範囲に収められるかが勝負となるだろう。現状では、普及は難しいというのが私の本音だ。
ただ、モーターの圧倒的な静かさを思えば、例えば住宅密集地における早朝深夜の配達に従事する業者などは、ベンリィe:に価値を見いだす可能性はある。登場したばかりの電動ビジネススクーターであるが、まずはそうしたところから浸透していくのかもしれない。
(文=大音安弘/写真=本田技研工業、大音安弘、webCG/編集=堀田剛資)

大音 安弘
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