ミツオカ・ロックスターSスペシャルパッケージ(FR/6MT)
路上のエンターテイナー 2020.06.08 試乗記 2018年に創業50周年を迎えた光岡自動車が、台数限定200台で発売した記念モデル「ロックスター」に試乗。ベースとなった「マツダ・ロードスター」譲りの走りと、2代目「シボレー・コルベット」を思わせるスタイリングの仕上がりを確かめた。元ネタはコルベット
ちょっと前に、デビューしたばかりだという若手ミュージシャンのインタビュー記事を読んでびっくり。10代後半の彼は「CDプレーヤーは持っていない」と発言して、「実家にはあったかも」と続けたのだった。もしかするとこの世代にとっては常識かもしれないけれど、オジサンとしてはミュージシャンがCDを聴かないことにかなりの衝撃を受けたのだ。
音楽を聴くのはインターネット経由がすべてで、すると何が起こるかというと、1960年代のザ・ビートルズも、2020年のグラミー賞で主要4部門を独占したビリー・アイリッシュも、音源を入手する方法は同じになる。クリックするだけだ。もはや、古いレコードやCDを苦労して探す必要はないのだ。
だから、音楽の世界では古いとか新しいとか、国境とか音楽ジャンルとかが意味を持たなくなりつつある。実際、海外では竹内まりやや杏里など、1970年代、80年代の日本のシティーポップが人気だという。冒頭の若手ミュージシャンも、60年代のジャズでも70年代のパンクでも、「いい曲だったらなんでも聴く」とのことだった。
光岡自動車創業50周年を記念して開発されたミツオカ・ロックスターを前にしてこのエピソードを思い出したのは、もしかするとクルマのデザインも古いとか新しいとかが関係なくなるんじゃないかと考えたからだ。
このクルマのデザインは、ご覧になればわかるように1963年にデビューした2代目シボレー・コルベット(C2)が元ネタになっている。エイをデザインモチーフにしたC2から、コルベットには「スティングレイ」のサブネームが与えられるようになった、という史実を思い出す。
乗り込むと、目の前には見慣れた光景が広がる。ご存じの方も多いように、このクルマはマツダ・ロードスター(ND)がベースで、基本的なインテリアの意匠は変わらない。
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好ましい走りはほぼそのまま
スターターボタンを押して1.5リッター直列4気筒エンジンに火を入れながら、新世代「MINI」や「ニュービートル」などのレトロなデザインが登場した時期に巻き起こった論争を思い出す。「カーデザイナーは、まだ見たことのない新しい造形に挑むべきではないか」「かつての名車をモチーフにして、懐かしさに訴えるのは安易ではないか」と糾弾されて、なるほどそうかもしれないと考えたこともあった。
けれどもいま、街でMINIを見かけると、素直にカッコいいと思える。音楽と同じように自動車デザインも一周して、古いとか新しいということが意味を持たなくなったのかもしれない。
6段MTのシフトレバーを1速に入れて、スタートする。マツダ・ロードスターは常に次期愛車候補に入っているお気に入りで、なかでも好ましいと思っているのがシフトフィールだ。例えば1速から2速にシフトアップするときに、最後の数cmのストロークが、スッと吸い込まれるようにキマる。ギアボックスのなかに妖精がいて、やさしくアシストしてくれるように感じる。
健康的な排気音を発しながら素直に回転を上げる1.5リッター直4のフィーリングも、マツダ・ロードスターと変わらない。ミツオカ・ロックスターはマツダ・ロードスターから全長が430mm長くなっているけれど、車重はほとんど増えていないのが立派だ。厳密には同じグレード同士を比べると80〜90kgほど重くなっているけれど、その程度に抑えているのは褒められてしかるべきだろう。
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ヴィンテージタイヤはいい雰囲気
中央道を西に向かって走っていると、八王子ナンバーの現行「シボレー・カマロ」がつかず離れずの位置で追いかけてくる。決して煽(あお)り運転というわけではなく、その車間距離のとり方に愛情を感じた。
屋根を開けていても80km/h巡航なら風の巻き込みはまったく気にならず、初夏の風が気持ちいい。サスペンションがきちんと動くことで、フラットな姿勢を保ちながら乗り心地のよさもキープするという、ロードスターの美点はそのままだ。
さっきのカマロだけでなく、ロックスターを追い抜くときに多くのクルマがスピードを落としてのぞき込んでいくから、ちょっと恥ずかしい気持ちと、「ルック・アット・ミー」という気持ちが半々ぐらい。いずれにせよ、路上の人気者であることは間違いない。みなさんの目を楽しませる、路上のエンターテイナーだ。
富士五湖周辺のワインディングロードでは、ロードスターに比べるとちょっとだけモタっとした動きになっていると感じた。操舵に関するレスポンスがほんのわずかに遅れるというか、それでもスポーツカーとして十分に楽しめる範囲であるけれど、マツダ・ロードスターが透き通った湧き水のようにサラサラとしたドライブフィールだとしたら、少しだけ濁っている。
考えられる理由は2つ。ひとつは、前後オーバーハングが長くなっていること。もうひとつは、オプションの15インチヴィンテージタイヤ「BFグッドリッチ・ラジアルT/A」の195/60R15サイズを履いていたこと。ちなみに標準だと195/50R16で、こっちのほうがシャキッとするかもしれない。ただ、このクルマに興味を持つ方は、シャキッとするかどうかより、オプションのヴィンテージタイヤの白いレタリングが醸す雰囲気を選ぶだろう。
次作にも高まる期待
試乗を終えて、もう一度じっくりとミツオカ・ロックスターを眺める。細部までチリがきっちりとあっていて、同社のオロチにはあったハリボテ感はない。大道具さんではなくて、自動車職人がつくったと感じる。素直にカッコいいし、僭越(せんえつ)ながら光岡自動車の製造技術が向上したことを感じた。
で、ミツオカ・ロックスターを見ながら、クルマも音楽と同様、新しいとか古いとか関係なくなるという思いを強くした。ロックスターは音楽におけるサンプリングの手法、つまり過去の楽曲のフレーズやベースラインを自分流に解釈して、別の作品にしているのだ。パクリとサンプリングがどう違うのかは音楽業界でも議論されているようだけれど、大切なのはネタ元への敬意があることと、新しい表現になっていることだろうと思う。
その点、ロックスターはC2をリスペクトしつつ、現代的なイカしたライトウェイトスポーツカーになっていると感じる。大成功だと思う。
というわけで、「光岡自動車、もっとやれ」と思うのだった。限定200台のロックスターはすでに完売だというから、次は「アルファ・ロメオ・ジュリアTI」をサンプリングしてほしい。ベースは「マツダ3セダン」でどうだろう。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ミツオカ・ロックスターSスペシャルパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4345×1770×1235mm
ホイールベース:2310mm
車重:1120kg
駆動方式:FR
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:132PS(97kW)/7000rpm
最大トルク:152N・m(15.5kgf・m)/4500rpm
タイヤ:(前)P195/60R15 87S M+S/(後)P195/60R15 87S M+S(BFグッドリッチ・ラジアルT/A)
燃費:--km/リッター
価格:507万6500円/テスト車=700万2160円
オプション装備:セーフティーパッケージ<クルーズコントロール、ドライバーアテンションアラート、交通標識認識システム、マルチインフォメーションディスプレイ>(7万7000円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルフルセグTVチューナー+シートヒーター(4万4000円)/i-ELOOP+i-stop(8万8000円)/15インチヴィンテージタイヤ&ホイールセット(27万5000円)/カラードソフトトップ<キャンバス生地>(40万7000円)/カラードAピラー(6万6000円)/カラードドアミラー(4万4000円)/フロントエンブレム<七宝焼き>カラー(2万2000円)/レザーシート<本革>(32万4500円)/インテリアレザーセット<本革、インパネレザー&ドアトリムレザー&ステアリングホイール&シフトブーツ・ノブ&パーキングブレーキブーツ・ノブ>(49万5000円)/カラードドアアッパートリム(8万3160円)
テスト車の年式:2019年型
テスト車の走行距離:2285km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:304km
使用燃料:30.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.8km/リッター(満タン法)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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