トヨタ・ハリアー 開発者インタビュー
和製ハンサムSUVのつくり方 2020.06.13 試乗記 トヨタ自動車Mid-size Vehicle Company
MS製品企画 ZD 主査
小島利章(こじま としあき)さん
1997年の誕生以来、根強い人気を保ち続けるトヨタの都市型プレミアムSUV「ハリアー」。4代目となる新型は、日本的なセンスと乗り味を武器に、世界に打って出るグローバル商品となるという。開発を主導したキーパーソンに、そんな新型の“キモ”を聞いた。
新型は“日本発”のグローバルカーになる
――今回のフルモデルチェンジのトピックに、グローバル商品化が挙げられると思います。
小島利章氏(以下、小島):そうですね。先代は日本専売車種として開発され、後期モデルは左側通行の一部仕向け地に少数輸出されていました。が、今回は左ハンドル仕様をつくり、米国では「ヴェンザ」として展開します。アジアでも展開地域は増えるかもしれませんが、検討中です。
――仕向け地が増えると、おのおのの事情が絡んで明快な商品企画が難しくなるのではないかと思います。
小島:そこは相当悩みました。特に米国市場はパイも大きいし、彼らの意向もくまなければならない。ただ、それで趣旨が狂っては意味がない。議論を重ねて、結果的にはあくまで日本的なセンスでつくったハリアーを仕向け地で試してみようということになりました。
――日本的な感覚のハリアーとは?
小島:ともあれデザインコンシャスであること。トヨタ車って欲張りで、どれもこれもそこそこに収めようとするんです。いわゆる80点主義的な。今回のハリアーでは、それを一切抜きにして、カッコよくあることを最優先にしました。お客さまにもいろいろと話を伺ったんですが、「多少不便であろうがカッコいいから許せるのがハリアー」という意見をいただいて、それも踏ん切りのきっかけになりましたね。
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文字通りの“デザイン至上主義”
――確かに、形状には端々に斬新さを感じます。例えばリアゲートまわりの強烈な絞り込みなどは、相当こだわったんだろうなとか。
小島:開発当初から生産技術部門や工場から専任のメンバーを出してもらい、生産可能性も含め、新型ハリアーのデザインをデザイナーと一緒に検討してもらいました。開発人員のアサインを先出しすることで、自らも企画者としての自覚が高まる。いわゆるワンチーム的な開発といいますか、ハリアーではそこをすごく意識しましたね。
――室内のつくり込みも見どころのひとつでしょうか。
小島:人間工学の部門からも早期に担当者を出してもらい、使い勝手や視認性のところも、デザインの側に譲ってもらえるギリギリのラインを導き出しました。ボタン類が見づらいとか荷室床面が高くてゴルフバックも3つしか入らないとか、不便を感じられるところもあると思います。でも今回は、専門家の意見を参考に、ユーティリティーに関してはできるだけ割り切った感じです。
――そこまで割り切れたのは、同じアーキテクチャーを持つ「RAV4」があるから?
小島:まさにそうですね。さらに米国でいえば、同じTNGA系で3列シートSUVの「ハイランダー」もあります。これらが持っていないものをハリアーでは提供する必要がありました。だからリソースは思いっきりデザインや設(しつら)えに振り向けたわけです。
――だとすれば、4WD性能も追い求める必要はなかった?
小島:そこはもう、真っ先に切りましたね(笑)。でも、エンジニアの性(さが)なんでしょうね。4WDも後席居住性も荷室容量も、全部二の次で大丈夫……とこちらがバッサリ明言すると、かえって怖くなっちゃうのか、担当者はやれる範囲内で精いっぱい工夫してくれるんです。だから出来上がってみると、それほどひどいものにはなっていない。そういう仕事のしてもらい方もあるのかと、私も勉強になりました。
――エンジニアはMっ気の強い人が多いのかもしれませんね(笑)。
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走り味のコンセプトは「雅」
――ところで、動的性能についてはどのようなキャラクターを目指したんですか?
小島:まずはビシッと真っすぐ走るクルマを目指しました。長い直線を延々と走り続けても修正舵が少なくて疲れない。いいクルマの第一条件はそこだろうと。
――「基本のき」ですがまずそれを明言する方はなかなかいらっしゃらない。
小島:ライドフィールやハンドリングについては、われわれが“匠(たくみ)”と呼ぶ実験部のエキスパートに、早期からデザインを見せてイメージを膨らませてもらいました。このクルマならこんな走りがいいだろうと、その中で彼らが出してきたキーワードが「雅(みやび)」というものです。
――「雅」ですか?
小島:わかりにくいですよね?(笑) まぁ走りだしや旋回感にしっとりと滑らかなゆとりがあって……と、そんな言葉を重ねていくうちにクルマも仕上がってくると、「ああ、確かにこの走りは雅な感じだなぁ」と、われわれも納得するようになりましたね。
――今日は限定的なシチュエーションでしたが、静かさや滑らかさ、懐深さみたいなところは感じることができました。
小島:ハリアーを担当した匠は、実はRAV4やハイランダーの動的デザインも担当しています。つまり「GA-Kプラットフォーム」のSUVはすべて同じチームが動的キャラクターを決めているわけです。ファミリーを鳥瞰(ちょうかん)的にみることができたから、ハリアーの個性はより明確化されたのだと思います。
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静かで、すっきり、気持ちよく
――他社のSUVもいろいろと検証し、参考にされたんですか?
小島:ええ。特にSUVクーペ的なカテゴリーのモデルは軒並みチェックしました。でも個人的には、走りのテイストという点ではクーペ系ではない「アウディQ7」のそれが気に入ってました。とげとげしくないけどダルくもなく、スキッと転がってくれる感じ。そこに和の所作が加わると、ハリアーらしい感触になるのではないかとイメージしてましたね。
――店頭でモデルに触れるお客さんに注視してほしいところなどがあれば教えてください。
小島:内外装のデザインや設えはもちろんですが、乗り込んでドアを閉めて、スッと静かになる感触を味わってほしいと思います。気持ちが落ち着くというか心が整うというか、そういう空気感を目指したつもりです。実際の試乗では転がり始めの穏やかさや滑らかさ、荒目のアスファルトやマンホールを踏んだ時のすっきりした減衰感、交差点では舵角が自然に決まって気持ちよく曲がれるところなどをチェックしてみてもらえればと思います。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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