アルピナB3 Sビターボ リムジン(FR/6AT)【試乗記】
ブレのないしなやかさ 2011.05.16 試乗記 アルピナB3 Sビターボ リムジン(FR/6AT)……1060万8000円
「BMW3シリーズ」ベースのプレミアムスポーツ「アルピナB3 Sビターボ」。3月に仕様変更を受けたばかりの最新モデルを試した。
大幅な“企業努力”
タコメーターの針が4000rpmに達したあたりで、「B3 Sビターボ」のストレートシックスは硬く締まった、耳に心地よい響きを伝えてきた。その“密度感”はベースとなったBMWのストレートシックス以上である。スロットルのレスポンスもターボユニットとは思えぬほど敏感で、ドライバーとクルマの間にとても緊密なコミュニケーションが成立している。だから、たった40km/hで走っていても楽しい。いい意味の緊張感がある。走らされているような気分になるクルマが多いなか、こんな気持ちになるのは、久しぶりのことである。
去る2011年3月に「B3 Sビターボ」が仕様変更を受けた。その内容をここでもう一度まとめておくと、今回新たにアルピナLAVALINAレザーのステアリングホイール、iDrive ナビゲーションパッケージ2(電話接続タイプ)、420Wで13個のスピーカーが装着されるハーマンカードンのサラウンド・サウンドシステム、そして19インチタイヤが標準装備とされた。これらの装備は合計で84万6000円に相当するが、価格は据え置きの999万円にとどめられた。
また同じ機会に、装備を省いて価格を抑えたエントリーグレード「B3ビターボ」が登場した。大きなところでは、レザーインテリア、ウッドトリム、iDriveナビゲーションシステムなどがオプション扱いとなり、タイヤも19インチではなく18インチが標準となる。こちらの価格は887万円。純粋にBMWアルピナの走りを楽しみたい人には魅力的なモデルだろう。
扱いやすい高性能
B3 Sビターボが搭載するツインターボの直6エンジンは、排気量は「BMW335i」と同じ2979ccだが、マーレ製のピストンを採用して圧縮比を10.2から9.4に落とし、それと引き換えに最大過給圧を1.2バールに引き上げて、410ps/6000rpm、55.1kgm/4500rpmへと大幅なパワーアップを果たしている。
そのフィールは、まるで排気量の大きな自然吸気ユニットのようである。ターボチャージャーによって明確にトルクが立ち上がるポイントがなく、あくまでリニアに力を上乗せしながら回転を高めていく。加えて、吹け上がりもまるでNAユニットのように気持ちがいい。もちろん速さも相当なもので、カタログには0-100km/h加速4.7秒、最高速度300km/hという数値がうたわれている。その絶対値もさることながら、BMW335iと何ら変わらない扱いやすさと両立されている点が素晴らしい。
一方で、トランスミッションはトルコンを持つオーソドックスなATにとどまるので、さすがにシフトスピードはデュアルクラッチ方式にはかなわない。しかし一般道で操るぶんには十分以上のレスポンスを備えており、取り立てて不満は感じない。ステアリングのスポーク裏に設置されたアルピナ独自のシフトボタン(スウィッチトロニック)のクリック感も良好だ。
しっとり滑らかな乗り心地
これだけの性能を備えながら、アルピナほど「ハード」という言葉が似合わないクルマもない。そこに貫かれているのは徹底的な滑らかさであり、乗り心地はその好例である。路面の不整を通過した感じから察するに、サスペンションのスプリングレートが取り立てて低い気はしない。しかし、微小域からスムーズに動くダンパーがそう思わせるのか、あいかわらず不思議なまでにしなやかに感じられる。バネ下重量の増加を嫌って、ランフラットタイヤを装着しないのはアルピナの流儀だが(テスト車にはミシュラン・パイロットスポーツが装着されていた)、それもおそらくしっとりとした乗り心地の一因になっているのだろう。
また、ハンドリングも同様である。適度な重さを伴うステアリングは、中立付近のレスポンスは過剰なほどクイックな設定ではない。操舵(そうだ)とともに、ごく自然なロールも発生する。そう言うと、やや腰の重いフットワークを想像するかもしれないが、それはちょっと違う。B3 Sビターボの名誉のために強調しておくと、全体として回頭性は十分にシャープだ。要は、いたずらに回頭性だけを突き出させるのではなく、車両の挙動をあくまでリニアに制御して、統一感というものを重視したセッティングになっている。
いまや世のサルーンには、「ダイナミック・ドライビング・コントロール」や「アダプティブ・ドライブ」のような走りの統合制御装置が当然のように付いていて、クルマのキャラクターがいかようにも変わるようになっている。その有用性は大いに認めるし、それがクルマの進化の方向として間違っているなどとはこれっぽっちも思わないけれども、アルピナのような強い信念をもってブレのないクルマ作りをしているメーカーに出会うと、ハッとさせられるのもまた事実だ。
(文=竹下元太郎/写真=高橋信宏)

竹下 元太郎
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。






































