第622回:狙いは雪上性能の向上にあり ミシュランの新しい冬用タイヤ「X-ICE SNOW」を試す
2020.07.01 エディターから一言 拡大 |
ミシュランからスタッドレスタイヤの新製品「X-ICE SNOW」(エックスアイス スノー)が登場。新しいコンパウンドとトレッドパターンが実現した雪上&氷上性能はどれほどのものか。開発の舞台ともなった、北海道・士別のテストコースから報告する。
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間もなく到来する“冬用タイヤ選び”の季節
誰もが当事者となる可能性を含みつつ、今なお収まる気配を見せずに事態が進行中という新型ウイルスの疫病禍。世の中がそんな厄介な状況下で四苦八苦していても、なんとも無慈悲に進んでいくのが、季節の移ろいというものだ。
桜の花見もままならないというかつて経験したことのない春が終わり、灼熱(しゃくねつ)の季節が迫る今日の日本でも、もちろんそれは同様。そして雪国のドライバーにとっては、この先訪れる夏が終わると同時に、今年も準備しなければならないのがクルマの“冬支度”である。
特に「毎年必ず積雪がある」という地域で最も重要な冬用アイテムと言っても過言ではないのが、スタッドレスタイヤなるもの。ここに紹介するのは、ミシュランから新たにローンチされたアイテム、X-ICE SNOWである。
従来型である「X-ICE 3」のデビューから8年。コンパウンドは新たにしながらも、トレッドパターンを踏襲したことで名称を受け継いだ「X-ICE 3+」の登場からは3年ぶりの新製品となるのがこのモデル。今回は、コンパウンドはもちろんトレッドパターンも一新された、文字通りの“フルモデルチェンジ”ということになる。
フランス大手のタイヤメーカーとして知られるミシュランだが、スタッドレスタイヤの開発が行われるのは日本の地。豪雪地帯にも多数の都市が存在し、積雪路面が多くのクルマで磨かれる上に、日中に解けた雪が夜に再度凍りつくことで“ミラーバーン”と呼ばれる極めて滑りやすい凍結路面が発生しやすいのが、この国の冬の道路である。
世界的にもなかなか類を見ないこうしたシーンでは、日本のスタッドレスタイヤ、あるいは日本で開発されたスタッドレスタイヤでないと歯が立たないのは、今やよく知られた事柄だ。
ポイントは新しいコンパウンドとトレッドパターン
凍結路面では、タイヤと路面との間に発生する“ミクロの水膜”が滑りの原因であるらしい。であるならば、路面に接した瞬間にその水分をタイヤに吸い取り、路面から離れたら、次の接地までのわずかな時間に効率よくそれを排出。次の“貯水”へと備える。これが昨今のスタッドレスタイヤ開発における、各社に共通する基本的な考え方だ。
ミシュランの場合、従来品であるX-ICE3+では“表面再生ゴム”と名付けられたトレッドコンパウンドが、主にその役割を担ってきた。これは、路面に触れるとコンパウンド上の「Mチップ」と呼ばれる物質が溶け出すことで、微細な穴が無数に発生し、路面の水を吸い取るというもの。摩耗が進行してもこのサイクルが続くことで、タイヤライフを通して優れたアイス性能を確保するというアイデアを採用してきたのだ。
新タイヤであるX-ICE SNOWの場合も、「再生が続くコンパウンドを採用することで、摩耗が進んでも性能を劣化させない」という考え方は同じだ。ただし、新採用の「EverWinterGripコンパウンド」は、「従来品より剛性が高いポリマーベースの配合剤を使用したことでロングライフ性を向上させ、同時に表面により不均一で微小な凹凸が生成されることにより、ミクロの水膜を破った路面への密着効果と、雪中せん断効果の向上による雪上性能の向上が見込める」と、開発陣はそのように述べている。
ちなみに、今回も回転方向性が与えられた新デザインのトレッドパターンは、「28%増加したサイプ長によるアイス路面でのエッジ効果増強」や、「溝面積を増したVシェイプ採用によるシャーベット/ウエット路面性能の向上」「サイプの倒れ込み防止による雪中せん断効果向上」などがうたわれたもの。タイヤの交換時期を示すプラットフォームより深く刻まれたサイプにより、「使用限界末期までブロックがしなやかさを保ち、高い氷雪性能をキープする」という点も、この新タイヤの特徴とされている。
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雪上でのコーナリングに見る明確な“違い”
ミシュランのスタッドレスタイヤ開発の“ホーム”である、北海道・士別の試験場で開催された今回の試走会では、施設内に特設されたコースでのスラロームや定常円旋回、屋内・屋外氷盤路でのブレーキングチェックなどに加えて、施設周辺の一般路を用いてテストドライブも行うことができた。
「トヨタ・クラウン」や「レクサスRX」、そして旧「ハリアー」を用いてX-ICE 3+との比較を行うと、「誰もがはっきりと違いを感じとれる」というレベルで異なっていたのは、雪上路面でのグリップ感。特に定常円旋回時の滑り出し限界や、コーナーターンイン時のノーズの入り方が、明確に異なって感じられた。
かねて、スタッドレスタイヤにユーザーが最も期待するのは氷上性能と相場は決まっているもので、確かにドライやウエット路面に比べれば、いまだにどんなスタッドレスタイヤも、氷上でのグリップ性能は「まだまだ低い」というのは偽らざる実感である。しかし多くの場合、凍結路面に至る前後の過程ではシャーベットや積雪路面に遭遇し、しかもそうしたシーンでの走行のほうが圧倒的に多くの割合を占めることを考えれば、今の段階であらためて雪上性能をワンランク引き上げておくというのは、これはこれでひとつの見識だろう。
とはいえ、もちろん氷上性能もおろそかにはなっていない。気温が-10℃に管理された屋内氷盤路での「フォルクスワーゲン・ゴルフ」を用いた新旧タイヤの比較では、X-ICE SNOWは加速時におけるトラクションコントロールの介入時間が短く、減速時には停止寸前での減速Gが明らかに高いことも確認することができたのだ。
もちろん、限定された環境下での今回のチェックのみでは、耐ハイドロプレーニング性や舗装路面での剛性感など、多くのシチュエーションでの実力が未知数であることも事実。それでも、この期におよんでネーミングにあえて「SNOW」の文字を加えたところからも、新たな製品コンセプトがイメージできるミシュランの新世代スタッドレスタイヤであったことは間違いない。
(文=河村康彦/写真=日本ミシュランタイヤ、webCG/編集=堀田剛資)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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