三菱eKスペースG(FF/CVT)
まるでフレンチコンパクト 2020.07.13 試乗記 フルモデルチェンジで2代目に進化した、三菱の軽スーパーハイトワゴン「eKスペース」に試乗。内外装の質感向上や装備の充実に加え、後席の居住性や利便性を追求したという新型の仕上がりを市街地と高速道路を舞台に確かめた。広さや使い勝手は競合に引けを取らない
ご存じのように軽自動車には規格というものがあって、全長×全幅は3.4m×1.48m以下に定められている。したがって車内の広さを求めるなら、マンハッタンや香港のビルのように上へ上へと伸びていくしかなく、全高1.7m以上のスーパーハイトワゴンと呼ばれるカテゴリーの軽自動車が人気となっている。
三菱が新たに投入したそのスーパーハイトワゴンがeKスペースと、いわゆる“電気シェーバー顔”の「eKクロス スペース」で、今回試乗したのは前者。2019年に登場した「eKワゴン/eKクロス」(ルーフレール非装着のFF車)より140mm背が高くなっている。
乗り込んでまずびっくりするのは、その室内の広さ。運転席に腰掛けると、たっぷりとした頭上空間と広々としたフロントウィンドウ、そしてやや高めの着座位置のおかげで、軽自動車とは思えない開放感が味わえる。
なるほど、と思って走りだす前に後席に座ってみて、ここでもびっくり。スライドドアが大きく開き、しかもフロアが低いことと天井が高いことの合わせ技で、スムーズに乗り込むことができる。
足を踏み入れてすんなり後席シートに腰を下ろすことができるアクセスのよさは、高級なセダンやSUVをはるかにしのぐ。後席スライドドアを目いっぱい開いた時の約650mmという開口幅と、約1400mmという室内高は、スーパーハイトワゴンの中でもトップレベルにあるという。
後席に座って一番後ろまでシートをスライドさせると広大なレッグスペースが出現。この状態だと荷室に荷物を積むスペースがほとんどなくなるけれど、大人が余裕をもって足を組むことができる空間が確保されているのは間違いない。
反対に、後席を一番前に出すとかなり運転席に接近する。このシートポジションは、後席に座るお子さんを信号待ちなどでのタイミングでケアすることを考えてのものだという。ちなみに後席シートのスライド量は約320mmで、この値もクラスでトップレベルである。
スーパーハイトワゴン市場は、「ホンダN-BOX」「ダイハツ・タント」「スズキ・スペーシア」という強豪が集う激戦区であるけれど、広さや使い勝手については三菱eKスペースも引けは取らない。
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完成度は相当に高い
では、走ってみるとどうか。三菱eKスペースで感心したのは、市街地での乗り心地のよさだ。「背が高い」→「グラっと傾く」→「傾かないように足が突っ張る」という連想をしがちであるけれど、このクルマはそんな素振りを見せない。
全然突っ張らないどころか、むしろしなやか。サスペンションがよく伸び縮みして、路面から伝わるはずのショックの角を丸くしている。路面からの突き上げをうやむやにする感じや、ちょっとした浮遊感を覚えるライドフィールなど、フランスのコンパクトカーを思わせる。
ただし軽自動車の場合、市街地では乗り心地が良好でも高速道路で馬脚を現すことが多いから、高速走行を試すまで判断を待ちたい。
市街地では、パワートレインにも好印象を持った。ハイブリッドシステムが組み込まれた660ccの直3エンジンは、低回転域からスムーズに車体を引っ張る。遅いとかかったるいと感じることはなかった。アクセル操作に対するピックアップのよさには、CVTも大いに貢献していると感じる。エンジン回転が上がってからしばらくしてパワーが追いかけてくるような、CVT特有のイヤなフィーリングをほとんど感じないからだ。
エンジン回転をそれほど上げずに済む市街地では車内も静かで、しかも前述したように乗り心地は快適だから、軽自動車に乗っていることを忘れそうになる。軽自動車に乗っていることを忘れそうになりつつも、Uターンやコインパーキングでの駐車時にはくるくると小回りが利く軽自動車のありがたみを感じる。価格を見れば、なんやかんやで200万円コースだからこれくらい走って当然ともいえるけれど、内装の仕立てのよさといい、完成度は相当に高い。
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高速走行でも乗り心地は穏やか
ここで高速道路へ。ハイブリッドシステムを組み込むとはいえさすがに660ccの3気筒エンジンだから、本線への合流ではブン回さないといけなくて、振動は感じないけれどそれなりのノイズが耳に入る。また、高回転域では市街地では感じなかったCVTの“ラバーバンド”感が顔を出す。けれどもシンドいと感じるのは加速時だけで、巡航状態では十分に静かだし、滑らかだ。
驚いたのは、高速走行でも穏やかな乗り心地が保たれていることで、サスペンションはしっかり仕事をしている。高速コーナーも安定したコーナリングフォームでクリアするし、横風を受けてもふらふらしないから安心してハンドルを握ることができる。
といった基本性能の高さを確認したところで、オプションの「MI-PILOT(マイパイロット)」を試す。マイパイロットの機能は、大きくふたつ。前を走るクルマと適切な車間距離を保ちながら追従するアダプティブクルーズコントロールと、車線の中央を走るようにハンドル操作をサポートする機能の組み合わせだ。
マイパイロットは、ステアリングを握る右手親指の2アクションで作動するインターフェイスのよさが魅力で、加減速もナチュラルだから安心して使うことができる。取材時には渋滞に遭遇しなかったけれど、アダプティブクルーズコントロールは、仮に渋滞にハマって先行車が止まっても、停止後3秒以内なら自動で追従を続ける。
マイパイロットの完成度がこれだけ高いのも道理で、その中身は「セレナ」などに積まれて定評のある、日産の「プロパイロット」なのだ。順序が逆になったけれど、三菱eKは日産との協業から生まれたモデルで、その経緯を簡単にご紹介したい。
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グローバルモデルの知見を投入!?
日産と三菱は、それぞれが50%ずつ出資をして2011年にNMKVを設立した。これは「Nissan Mitsubishi Kei Vehicle」の略で、社名からもわかるように軽自動車を開発するための組織だ。2019年に登場した三菱eKワゴン/eKクロスと、「日産デイズ」が兄弟。そしてこの三菱eKスペース/eKクロス スペースと、「日産ルークス」が兄弟ということになる。
ここで興味深いのは、webCGでも紹介している通りこの2兄弟の開発を主導したのが日産で、生産するのが三菱という役割分担だ。なぜ興味深いのかといえば、日産がゼロから軽自動車を開発するのは、これがほとんど初めてといっていいからだ。
今回、三菱eKスペースに試乗して、これをファーストカーに使ってもいいんじゃないかと感じるぐらい、よくできていると思った。では、軽自動車の開発の経験がほとんどない日産が、なぜこれをつくることができたのか。以下は筆者の推測である。
軽自動車はいうまでもなく日本専用で、ガラパゴス的な進化を果たしてきた。ライバルのスペックを詳細に分析して、競い合ってきた。日産も、もちろん広さや使い勝手の面ではそれをやったはずだ。ただし、操縦安定性や安全性については、日産のグローバル基準で開発を進めたのではないだろうか。なぜって、軽自動車の評価基準は持っていないから。それが、軽自動車としてはオーバースペックとでもいうべき乗り心地やハンドリングに表れているのではないか。また、グローバルを視野に入れて開発したプロパイロットの出来がいいのも、当然といえば当然だ。
ここまで書いて、ひとつ思い出した。この冬、まだコロナ禍の前の北海道で、日産の雪上試乗会に参加した。その時、VDCをオフにした日産デイズが、雪の上で抜群のコントロール性を披露したのだ。あれは驚いた。軽自動車とは思えなかった。
ガラパゴスの中で進化してきたこれまでの軽自動車に対して、まるでグローバルからやって来たようなNMKVがリリースする一連のモデルは、軽自動車市場における黒船のような存在ではないか。あと、いろいろと大変な日産であるけれど、現場にはこれだけのクルマをつくる力があるんだと感心した。……って、三菱の軽自動車の試乗記が日産の話になってしまった。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
三菱eKスペースG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1780mm
ホイールベース:2495mm
車重:950kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:52PS(38kW)/6400rpm
エンジン最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/3600rpm
モーター最高出力:2.7PS(2.0kW)/1200rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/100rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:20.8km/リッター(WLTCモード)/27.2km/リッター(JC08モード)
価格:154万2200円/テスト車=223万2098円
オプション装備:ボディーカラー<ミントブルーメタリック×ホワイトソリッド>(6万5000円)/先進安全パッケージ(9万3500円)/先進快適パッケージ(7万1500円)/運転席側ハンズフリーオートスライドドア(5万5000円)/セパレートパッケージ(1万6500円)/安心パッケージ(4万4000円) ※以下、販売店オプション オリジナル9型ナビゲーション(22万8668円)/フロアマット<プレミアム>(2万5652円)/ETC2.0車載器(4万0656円)/ビルトインUSBポート(1万0230円)/ドライブレコーダー(4万0392円)/三角表示板(3300円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:3630km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:319.6km
使用燃料:21.9リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.5km/リッター(満タン法)/15.1km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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