第627回:逆境を乗り越えて今年も開催! 「オートモビル カウンシル2020」を振り返る
2020.08.16 エディターから一言![]() |
あまたの自動車イベントが中止に追い込まれる中にあって、延期を繰り返しつつも、ついに開催にこぎつけた「オートモビル カウンシル」。従来とは異なる雰囲気に包まれた会場でリポーターが感じたこととは? 心に残った展示とともに、今年のイベントを振り返る。
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多くの自動車イベントが中止となる中で……
年初に「東京オリンピック2020」の開催に思いをはせていたことさえ、今は懐かしく思える。世界の人々を震撼(しんかん)させた新型コロナウイルスの脅威は、いまだ収まることを知らない。感染拡大を防ぐため、東京オリンピックを筆頭に大小さまさまなイベントが延期や中止に追い込まれた。それは自動車業界も同様。2月下旬の「ノスタルジック2デイズ」を最後に、大型イベントが次々と“自粛”。7月22日には、年末恒例の日産自動車とNISMOによるファン感謝イベント「NISMOフェスティバル」も開催の見送りが発表されるなど、クルマ好きにとって暗いニュースが続いた。
その厳しい状況下で、どうにか開催にこぎつけたのがオートモビル カウンシルだ。当初の予定では4月3日~5日の開催であったが、まずはそれが5月に延期。その後、4月の緊急事態宣言発令やオリンピックの延期が決定したこともあり、こちらも開催期間を7月31日~8月2日へと再変更。一時は開催中止も懸念されたが、「コロナ禍にある環境下で、自動車文化を後世に伝えるという使命をまっとうする」(「AUTOMOBILE COUNCIL 2020開催のお知らせ」より)という実行委員会の決意のもと、晴れて開催されることになった。もちろん従来通りとはいかず、入場者数の制限をはじめとした多数の感染予防対策が講じられ、またステージイベントも中止となった。
実際に会場を訪れてみても、来場者の住所・連絡先や健康状態を確認する入場登録シートの提出、検温やアルコール消毒などの対応に、“withコロナ”の日常を実感。また、イベント主催者に加えて来場者自身が感染予防に配慮するのは大切なことであり、筆者も例年より取材相手との距離などに気を配りつつ、今回は展示車の撮影や鑑賞に重点を置いての取材とした。
このように、やや緊張を伴っての取材となった今回のオートモビル カウンシルだが、会場入りして多くの懐かしいクルマを目の前にすると、やはり心が躍り、いつの間にか前向きな気持ちを取り戻していた。
“ウイングマーク”のステアリングに見入る
オートモビル カウンシルの出展者は、クラシックカーを得意とする専門店が中心だが、自動車文化の継承にも力を入れるイベントであるため、国産自動車メーカーやインポーターも数多く参加する。
今年の展示で特に力が入っていたのがマツダだ。ニュース的には世界初公開となる「MX-30」のマイルドハイブリッド車が主役だが、個人的に好奇心が刺激されたのは、ずらりと並んだヘリテージカーの展示だった。戦後復興を支え、マツダが自動車メーカーへと飛躍するきっかけとなった三輪トラックをはじめ、マツダ初の四輪乗用車「R360クーペ」や、流麗なスタイルが目を引く上級セダンの初代「ルーチェ」などを出展。ロータリー車も、世界にマツダの名をとどろかせた「コスモスポーツ」、オイルショックや排ガス規制の後の新たなロータリー像を示した「コスモAP」、“マツダロケット”と称された初代「サバンナRX-7」などが飾られた。
皆さんもご存じの通り、今年はマツダの創立100周年にあたり、当初は広島での記念イベントが計画されていた。しかし、新型コロナウイルスの影響を鑑みてやむなく中止に。仕方のないこととはいえ寂しさを感じていただけに、「広島のマツダミュージアムの出張版」ともいうべき充実した展示内容に、大いに気が晴れた。ただ本心では、たとえ来年になろうとも記念イベントを実施してほしいのだが……。
ホンダも改良型「シビック タイプR」とともに、モータースポーツ活動の原点である草創期のレーシングモデルを展示。デビュー戦であった1967年のF1イタリアGPで、いきなり優勝を果たした「RA300」も見ごたえ十分だったが、より興味をひかれたのは、一本のステアリングホイールだった。ホンダがF1参戦のために試作した「R270」に装着されていたものだが、その中央にはなじみの“Hマーク”ではなく、ホンダ二輪の象徴である“ウイングマーク”が輝いていた。これは、当時のホンダがまだ四輪車を市販しておらず、研究所も完全な二輪車/四輪車の独立開発体制をとっていなかったためだ。ステアリングひとつにも時代背景が感じられるのは、まさに文化イベントならではといえるだろう。
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ヤナセの目玉は“ポルシェ博士のメルセデス・ベンツ”
もちろん、専門店による展示車も見どころ満載だ。日本でも有数の専門店が参加するだけに、各ブースは名車ぞろい。しかも、ここでしか見られないような“激レア車”も散見される。
特に文化的見地からして興味深かったのは、ヤナセクラシックカーセンターが出展した1936年の「メルセデス・ベンツ170H」だった。同車の存在を知らなかった私は、「ベンツなのに、“ビートル”そっくり」と思っていたら、なんと基本設計を手がけたのは、開発当時ダイムラー・ベンツ社に在籍していたフェルデナント・ポルシェその人とのこと。ビートル以前から理想とする乗用車像を追い求めていたのかと、ポルシェの情熱の深さに思いをはせた。
一方で、クルマ好きの欲望を大いに刺激してくれたのは、手の届きそうなプライスタグのネオヒストリックカー群だ。1994年式「ジャガーXJS 4.0クーペ」は、なんと168万円。ピニンファリーナデザインの美しすぎるクーペ「プジョー406クーペ」は、2001年式でたった100万円。ポルシェジャパンが持ち込んだ2004年式「ポルシェ911カレラ4S」は、ティプトロだけど、なんと418万円! いや、印鑑持ち歩いていなくてよかった。しかし、いろんな妄想が膨らんだのは本当の話。友人や恋人、家族と会場を訪れたクルマ好きの中には、そんな夢に会話が盛り上がった人もきっといたことだろう。
開催を重ねるごとに、こうした“誘惑のクルマ”も増えているように思う。ため息しか出ないような名車の展示のかたわらで、そんな楽しみも提供してくれるあたり、出展者もまた、私たちと同じクルマ好きなのだろう。
1760万円の「Mini」を前に思う
これらに加え、個人的に「見られてよかった」と思っているのが「DAVID BROWN MINI Remastered(デビット・ブラウン ミニ リマスタード)」だ。日本での代理店ができたことで、ついに実車が日本上陸を果たした。この展示車は、本来であればジュネーブモーターショーに出展するためにつくられたものだというが、やはりコロナ禍の影響を受け、その舞台は日本の自動車イベントに変わることになったという。
「デイトリッパー」と名付けられた現車は日本で販売されるというが、その価格はなんと1760万円(!)と大変高価。しかし、英国の職人が1400時間をかけて製作し、特別なカスタムを施したものとあらば、その価値を理解できる人には十分に魅力的な存在といえるだろう。「あの名車が、もし現代的なアップデートを受けて新車状態で手に入れられたら?」というクルマ好きの夢が具現されたものだけに、大変興味深い一台だった。
このように、今年も魅力的な展示車が数多く見られたオートモビル カウンシルだが、このイベントも2016年の初開催から今年で5回目。出展者や展示車両に、ある種の安定が見えてきたようにも思える。思いつきだが、今後は出展各社に協力を願い、全体で共有する“今年のテーマ”があっても面白いかもしれない。まだまだ成長段階にあるイベントだけに、ぜひ来年の開催と内容にも期待したい。もちろん、そのころには他のイベントも開催可能となっていることを、いちクルマ好きとして強く願わずにはいられない。
今回のオートモビル カウンシルについては、展示車の数々に加え、厳重なコロナ対策がやはり印象に残った。入場者数に対して会場が広いオートモビル カウンシルでさえこの厳戒態勢だったのだから、たとえそれが野外開催のイベントであったとしても、やはり多くの人が集まる催しの開催は厳しいはずだ。
しかし、このままでは自動車の楽しさを仲間と共有する機会は減るばかりだ。小さなことだが、一人ひとりが感染拡大を防ぎ、一日も早く平穏な日々を取り戻すための努力を続けなければならないと、あらためて思った。
(文=大音安弘/写真=webCG/編集=堀田剛資)
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大音 安弘
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