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トヨタ・スープラRZ“ホライズンブルーエディション”(FR/8AT)

三日会わざれば刮目して見よ 2020.08.24 試乗記 渡辺 敏史 デビューからわずか1年余りで、エンジンのパワーアップを伴う大きな改良を受けた「トヨタ・スープラRZ」。“いいものがあれば即座に使う”というGRならではのクルマづくりは、3リッター直6ターボの高性能スポーツカーに、劇的な進化をもたらしていた。

デビューから1年が過ぎたばかりだというのに……

登場から1年余り、GRスープラのトップグレードであるRZに、早くも大きな改良が施された。

最高出力は47PSアップの387PS――と、まずその数値のジャンプアップぶりに、好事家たちはどよめいた。よもやトヨタ系の銘柄が、たった1年余りでそんな無慈悲な改変を繰り出そうとは。4気筒エンジンの「SZ-R」と「SZ」については、「ペダル踏み間違い急発進抑制機能が搭載されてサポカー補助金が申請できるようになった」という、こちらのやる気を中折れさせるような安定のトヨタ的改変なこともあって、衝撃もひとしおだったわけだ。

新しいエンジンはBMWが主に米国市場向けに開発したもので、ベースは従来のB58系を踏襲。ヘッド一体型だったエキゾーストマニホールドを独立化して排気効率や熱特性を改善し、ピストン形状を変更して圧縮比を下げることで(11.0→10.2)高回転・高出力化を推し進めた。結果、387PSを発生する回転数は5800rpmと、従来の340PSユニットに対して800rpm上方に移行している。また、最大トルクは500Nmと数値的な変化はないが、その発生回転域も若干ながら高回転側に移行した。ちなみに、排ガスの後処理にGPF(ガソリンパティキュレートフィルター)を必要とするユーロ6d規制が適用される欧州域内では、従来の340PSユニットが継続されることになる。

なんにせよ、こんなエンジンを搭載できるチャンスをみすみす放っておくことはない。スポーツ性の高いGR銘柄の中でも、とりわけ量産ラインから横やりが入らないブランド独自のモデルについては、賛否はあれど今選べるベストなものを躊躇(ちゅうちょ)なくバンバン投入するのが、営業的にもベストではないか。「GRヤリス」の手のかかりっぷりをみてもそれが伝わってくるが、GR部門の仕事は、従来のトヨタ的な全体調和とは別感覚で事が運んでいるようにみえる。

2020年4月に一部改良が発表された「トヨタ・スープラ」。「RZ」の動力性能向上に加え、全グレードでペダル踏み間違い急発進抑制機能が採用された。
2020年4月に一部改良が発表された「トヨタ・スープラ」。「RZ」の動力性能向上に加え、全グレードでペダル踏み間違い急発進抑制機能が採用された。拡大
今回の試乗車は、販売台数100台の限定モデル「RZ“ホライズンブルーエディション”」。車名にもなっている同車専用の外装色に加え、各部にブルーのステッチが施された内装も特徴となっている。
今回の試乗車は、販売台数100台の限定モデル「RZ“ホライズンブルーエディション”」。車名にもなっている同車専用の外装色に加え、各部にブルーのステッチが施された内装も特徴となっている。拡大
新エンジンの最高出力は387PS/5800rpm、最大トルクは500N・m/1800-5000rpm。それぞれ340PS/5000rpm、500N・m/1600-4500rpmだった従来型より、高出力・高回転型の特性となった。
新エンジンの最高出力は387PS/5800rpm、最大トルクは500N・m/1800-5000rpm。それぞれ340PS/5000rpm、500N・m/1600-4500rpmだった従来型より、高出力・高回転型の特性となった。拡大
現行「スープラ」は「GRヤリス」と同じく、トヨタのスポーツモデル開発を担うTOYOTA GAZOO Racingの手になるモデルだ。
現行「スープラ」は「GRヤリス」と同じく、トヨタのスポーツモデル開発を担うTOYOTA GAZOO Racingの手になるモデルだ。拡大
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“タイヤひと転がり”で感じられるつくり込みの進化

GRスープラはこのパワーアップに合わせて、シャシーまわりにも細かな変更が加えられた。まずフロントストラットとコアサポートを結ぶアルミ材のブレースを追加。これは車台を共有するオープンカーの「BMW Z4」で既に採用されていた補強を継承したかたちだ。加えてサスペンションはダンパーレートやバンプラバーの特性を見直している。これは、単にアシを締め上げて大出力を受け止めるという話ではなく、過渡域の挙動を穏やかにドライバーに伝えていく目的での変更だという。併せて、後左右輪を積極的に差動させるアクティブデファレンシャルやボディーコントロールデバイスのVSCなども制御を見直し、電動パワーステアリングの設定も変更するなど、動的質感の追求は全体に及んでいる。

これらをもって、「A90」を名乗っていた2019年モデルに対し、「A91」と称することとなった新しいGRスープラは、その年次改良に合わせて鮮やかな青を内外装のテーマカラーに用いた「RZ“ホライズンブルーエディション”」を100台限定で販売すると発表。が、秋の本格デリバリーを前にウェブ商談の時点で既に完売したという。今回試乗したのはそのモデルになるが、性能面では通常モデルとの差はない。

乗り込んでみたところで特にA90との差異はなく、まぁエンジンの味付けが変わった以外はちょいちょいとした変更だもんな……と思いながらひと転がししたところで、あれ? と思った。なんだか骨格や節々から伝わる精度感みたいなものが、A90とはちょっと違う。劇的とはいわないが、手肌に触れる場所から伝わる直接的な微振動や、シャシーを通して伝わる曖昧な共振といったノイズ成分が明らかに減っている。「それは年次改良の効果というよりは、つくり込みが進んだことによる生産精度の向上が表れているのでは」という開発陣の指摘は恐らく正しく、こういう味わいの変化は欧州車に往々にして強くみられるものだ。

「RZ」のフロントに備わる、ブレンボ製アルミ4ポッド対向キャリパー。今回の改良により車名のロゴが施された。
「RZ」のフロントに備わる、ブレンボ製アルミ4ポッド対向キャリパー。今回の改良により車名のロゴが施された。拡大
フロントのストラットタワーとラジエーターサポートのアッパー部をつなぐアルミ製のブレース。
フロントのストラットタワーとラジエーターサポートのアッパー部をつなぐアルミ製のブレース。拡大
細かいところでは、冷却系のレイアウトが変更されたことから、左ロワグリルの左端が4気筒モデルと同じように閉口された。フロントブレーキキャリパーのロゴと並ぶ、外観における数少ない変更点である。
細かいところでは、冷却系のレイアウトが変更されたことから、左ロワグリルの左端が4気筒モデルと同じように閉口された。フロントブレーキキャリパーのロゴと並ぶ、外観における数少ない変更点である。拡大
フロントの剛性アップに合わせて足まわりも再調整。バンプラバーやリアダンパーの特性が変更された。また姿勢制御装置やアクティブデファレンシャルなどの設定も見直されている。
フロントの剛性アップに合わせて足まわりも再調整。バンプラバーやリアダンパーの特性が変更された。また姿勢制御装置やアクティブデファレンシャルなどの設定も見直されている。拡大

一段と力強さを増した直6ターボ

走りだしても、A91のライドフィールはその印象のまま、微細なノイズが一段と取り除かれてフィードバックがよりクリアになった。乗り心地自体は相変わらずバネ下の突き上げが粗めの時もあるにはあるが、ほかの雑みが抑えられたぶん、操舵でのねじれ感や減速時のつぶれ感など、タイヤの表情もより奇麗に伝わってくるようになった。ハンドリングではパワーオンでのオーバーステア感がやや抑えられ、きちんとテールを沈めて踏ん張って蹴り出す感覚が表れてきたのが大きな変化だろう。言い換えれば、セオリー通りの姿勢がつくりやすくなったようにも感じられる。387PSという火力を思えば、これは至って本筋なセットアップになったということだろう。

果たして、387PSをポルシェになぞらえれば、現行「911カレラ」をやや上回り……というところだ。ちなみに0-100km/h加速も911カレラより速い4.1秒となっている。トランスアクスルでもないFRなのに、よくトラクションがかかるもんだ……と感心する以前に、GRスープラとはレクサスも含めたトヨタ銘柄では最強、世間的にも相当な動力性能のスポーツカーであることをあらためて思い知る。

そのエンジンのフィーリングは、記憶にあるA90のそれよりもやはり一段と力強く、生き生きとしている。中・高回転域のストレート6らしい滑らかな摺動(しゅうどう)感、そして澄んだサウンドはなんだかんだ言ってもこのクルマの核心だろう。個人的には、従来型でもパワーやレスポンスにまったく文句はないが、エキマニまわりの変更はよりチューニングに対する適性を高めることにもなるかもしれない。

そういえば、GRスープラはZ4とのメカニズム的な共通項が多いこともあって、ドイツでもその素材として注目されており、既にマンハートやACシュニッツァーなどの重鎮がコンプリートカーを仕上げている。日・米・独の同時進行でチューニングが活性化すれば、GRスープラの輪は今までのスポーツモデルとはちょっと違った楽しい広がりをみせることになるかもしれない。

(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

「従来モデルは(スポーツカーにしては)乗り心地がよすぎて、『まだマージンがあるのでは?』と感じられた。今回は、よりサーキット寄りに改良した」というのは、開発責任者である多田哲哉氏の弁だ。
「従来モデルは(スポーツカーにしては)乗り心地がよすぎて、『まだマージンがあるのでは?』と感じられた。今回は、よりサーキット寄りに改良した」というのは、開発責任者である多田哲哉氏の弁だ。拡大
マットブラック塗装のアルミホイールは特別仕様車「RZ“ホライズンブルーエディション”」の専用装備である。
マットブラック塗装のアルミホイールは特別仕様車「RZ“ホライズンブルーエディション”」の専用装備である。拡大
これも「RZ“ホライズンブルーエディション”」の専用装備となる、アルカンターラとブラックの本革を組み合わせたコンビシート。標準仕様では、本革の部分はレッドでコーディネートされる。
これも「RZ“ホライズンブルーエディション”」の専用装備となる、アルカンターラとブラックの本革を組み合わせたコンビシート。標準仕様では、本革の部分はレッドでコーディネートされる。拡大
一部改良を受けた「スープラRZ」の発売は2020年10月ごろを予定。なお「RZ“ホライズンブルーエディション”」については既に全数が成約済みで、現在は注文受け付けを終了している。
一部改良を受けた「スープラRZ」の発売は2020年10月ごろを予定。なお「RZ“ホライズンブルーエディション”」については既に全数が成約済みで、現在は注文受け付けを終了している。拡大

テスト車のデータ

トヨタ・スープラRZ“ホライズンブルーエディション”

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1865×1290mm
ホイールベース:2470mm
車重:1530kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:387PS(285kW)/5800rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1800-5000rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 96Y/(後)275/35ZR19 100Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:12.0km/リッター(WLTCモード)
価格:741万3000円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:307km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

トヨタ・スープラRZ“ホライズンブルーエディション”
トヨタ・スープラRZ“ホライズンブルーエディション”拡大
渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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