第628回:安全性と快適性の両方に寄与 新型「メルセデス・ベンツSクラス」の革新技術を紹介
2020.08.28 エディターから一言 拡大 |
高級サルーンの世界的なベンチマークたる「メルセデス・ベンツSクラス」が、間もなくフルモデルチェンジ。新型の発表を前に行われたオンラインカンファレンスでは、どのような新技術が紹介されたのか? 安全性や快適性に資する新たな機能を紹介する。
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これからのパッセンジャーカーはどうあるべきか?
(前回のつづき)
新型Sクラスのワールドプレミアが迫るなか、メルセデスはこの7月から、その技術的ディテールを解説するオンラインのカンファレンス「Meet the S-Class DIGITAL」を重ねてきた。
その第2回、第3回が7月末と8月半ばに相次いで開催された。テーマは「インテリジェンス・イノベーション」「ラグジュアリー・ウェルビーイング」となっていたが、フォーカスされたのは乗員の安全性や快適性をいかに画期的に向上させたかということだ。そういう意味ではユーザーインターフェイスの進化に焦点を当てた初回のカンファレンスも然(しか)りで、新型Sクラスの大きなテーマは、自動運転技術が浸透しつつある今、最善のパッセンジャーカーとはどうあるべきかをテクノロジー的にもマインド的にも出し惜しみすることなく世に示すことにあるのだろう。そして新型Sクラスで提示された概念は、例によって「Cクラス」や「Eクラス」、その他のモデルへと順次展開されていく。
新型Sクラスに搭載されるセーフティーテクノロジーの注目点は、“アクティブ”と“パッシブ”の高度な融合だろう。ひいてはそれが、コンフォート性とも連携しているところにポイントがある。まさに近未来に自動運転車が登場するならば、実装すべき技術の見本市と言っても過言ではない。
そのコアとなるのが「E-ACTIVE BODY CONTROL」だ。これは2019年秋に世代交代した「GLE」系のSUVラインナップに設定されており、日本では「GLS580」に標準装備、「GLEクーペ400d」では77万円でオプション装着することができる、メルセデスにおいては最新のシャシーデバイスになる。
アクティブサスペンションを衝突安全に活用する
従来の「エアマチック」の各ダンパーに48Vの電動油圧式オイルポンプを組み合わせ、ダンパーのストローク量を瞬時に各輪独立制御するE-ACTIVE BODY CONTROLは、20を超えるセンサーとステレオカメラの情報を、5つのマルチコアプロセッサーを使って毎秒1000回の速度で分析処理し、路面状況に即した好適な姿勢制御を実現するというものだ。ロードサーフェスのスキャンデータを基に路面状況を“先読み”し、車高やダンパー特性を最適化させるなど、アクティブサスならではの柔軟な特性が特徴となっている。コーナーでは逆ロールをかけ、オートバイのようにリーンインしているかのようなコントロールをみせる「カーブモード」は、後席に乗せられる人にとっては不意不用な上体の動きが抑えられることに寄与するとみられる。
また、このアクティブサスは衝突安全性の向上にも活用されており、センサーで側方からの衝突危険性を感知すると、衝突車両からの入力を頑丈なサイドシルで受け止めるべく車高を瞬時に上げてインパクトに備える「PRE-SAFEインパルスサイド」が新たに開発された。
パッシブセーフティーにおいては前席背面から展開し、後席乗員の頭部や顔面を保護するエアバッグが世界初の装備として採用された。これはメルセデスが長年研究を重ねてきたもので、前後席間の距離に影響されにくいスクエア気味の展開形状やガス圧の分布などにも、独自のノウハウが詰め込まれている。
またシャシー関連の技術としては、新たにオプション採用される4WS(4輪操舵機構)も見逃せないところだろう。ZFなどがアッセンブルする4WSは他のドイツ系銘柄ではよくみられるものになってきたが、それらの多くの後輪操舵量は3°前後、積極的に介入させるアウディでも5°くらいが逆相の相場だ。対して、新型Sクラスではパーキングスピードレベルで最大10°の逆相操舵を実現している。車格とは裏腹の驚異的な小回り性能には慣れを要しそうだが、狭い所であれ“ドアtoドア”を求められるショーファーにとっては喜ばれる装備となるのだろう。また、同相制御は当然ながら旋回限界を物理的に高めることになり、そのぶんサスセッティングをコンフォート側に振れるというメリットもある。
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リラクゼーション効果を高める間接照明の演出
後席ゲストがくつろぐ車内は、チーフデザインオフィサーのゴードン・ワグナー氏が掲げるメルセデスのデザインフィロソフィー「Sensual Purity」、つまり「官能的純粋」というキーワードに沿って、ミニマルとグラマラスを多彩に使い分けるものとなっている。
全体的なテイストはボートやヨットのキャビンにみられるオーガニックな造作にインスパイアされているのだろう、前型にあたるW222型でアプローチされたラウンド感の強い後席デザインはさらに強調されており、オーナメントがクルーザー的な印象をひときわ盛り上げる。
またアロマディフューザーやエアバッグによるシートマッサージャーなど、従来のアメニティー機能は継承しつつ、空間演出的なアプローチについても一層腐心しており、その一例として、大幅に機能強化された間接照明システムが挙げられる。車内に張り巡らされたLEDチューブは夜間だけでなく昼間でも効果的なリラクゼーションをもたらすだけでなく、エアコンやオーディオなどの操作に応じて色や動きでインタラクティブに応答。また運転支援システム(ADAS)の反応によってはパッセンジャーにも警告を与えるべく赤点灯するなど、注意喚起などにも機能的に応答するようセットアップされている。
新型Sクラスの全貌(ぜんぼう)は2020年9月早々に予定されているワールドプレミアで判明する。まだアナウンスのないADASやパワー&ドライブトレインにどのような進化がみられるか。世界の自動車の範たる存在の、その進化は大きく注目されることになるだろう。
(文=渡辺敏史/写真=ダイムラー/編集=堀田剛資)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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