ホンダ・フリード ハイブリッド モデューロX Honda SENSING(6人乗り)(FF/7AT)
五臓六腑にしみわたる 2020.08.31 試乗記 ホンダの人気ミニバンを“匠の技”で磨き上げたとうたうコンプリートカー「フリード モデューロX」に試乗。空力にこだわったというそのフットワークはまさに圧倒的。ひとたびステアリングを握れば、ベース車とのちがいをだれでも感じ取れるはずだ。価格差は実質50万円弱
2019年10月にマイナーチェンジを受けたフリードにモデューロXが復活したのは、約7カ月遅れの2020年5月のことである。念のために繰り返しておくと、モデューロXとはホンダ純正アクセサリーの開発・販売を本業とするホンダアクセスが手がけるコンプリートカーで、同社が開発した専用カスタマイズ部品を量産工程で架装されるのが特徴だ。もちろん、ホンダの正規販売店で普通のフリードと同様に購入できる。
フリードのモデューロXに用意されるパワートレインは1.5リッター直噴エンジン車と1.5リッターハイブリッドの2種類あり、どちらのパワートレインでも6人乗りと7人乗りが選べる。ただ、4WDの用意はなく、駆動方式はFFのみとなる。
今回の試乗車であるハイブリッドの6人乗りの場合、本体価格は325万6000円。その額面だけを見ると、標準モデルの上級「G」グレード(の同じパワートレインとシート配列)比で約70万円高の設定である。ただし、モデューロXには側突系エアバッグや「Cパッケージ」相当(シートヒーターはのぞく)の装備、そして通常は販売店オプション(=ホンダアクセス取扱商品)となるフロアカーペット(これも専用品)が標準装備となる。これらの装備を差し引くと、実質的な価格差は50万円弱といった計算になるだろうか。
で、その50万円弱で追加されるモデューロX専用装備には、外装ではフロントグリルにフロントエアロバンパー、サイドとリアのロアスカート、LED前照灯類、ドアミラー、15インチアルミホイール、内装ではシート表皮とステアリングレザー、そしてサスペンション(スプリングとダンパー)などがある。これらの純正アクセサリー分の対価と考えれば、モデューロXの本体価格はそれなりに割安ともいえるし、そもそもこれらモデューロX専用装備は単品購入できない。
ミニバンらしからぬフットワーク
ホンダファンならご記憶のとおり、マイナーチェンジ前のフリードにもモデューロXは用意されていた。また、フリードにおける今回のマイチェン内容も、メカニズム的に公表されているのは、「ホンダセンシング」とCVTのアップデートのみ。というわけで、新しいモデューロXもサスペンションやアルミホイール&タイヤも含めて、マイチェン前からの変更はないという。
これだけ小さい全長と全幅で、背丈だけが高い……というコロンとしたプロポーションを考えれば、標準のフリードでもそこそこ快適で、高速や山坂道での足取りも感心するほどしっかりしたものがある。しかし、モデューロXのフットワークは、それに輪をかけて優秀である。これはお世辞ぬきでの話だ。
普通のフリードと乗り比べると、その乗り心地が一段と引き締まっているのはご想像のとおりである。ただ、このクルマ単独で乗っているかぎり、ちょっとイカツめのビジュアルから想像するよりもその肌ざわりは望外に柔らかく快適で、乗り心地が硬めという感触は皆無。運転感覚は典型的なコンパクトハッチバックのそれであり、全高1.7m超の背高モノを走らせている意識はまるでない。山坂道に乗り入れても、そのステアリング反応やロール感、あるいはコーナリング姿勢に“ミニバン感”はほとんどない。
まあ、たとえば「フィット」と実際にならべて乗り比べれば、まったく同じとはいえないだろう。しかし、繰り返すが、あくまで単独で乗っているかぎりは、運転操作にミニバンだから……重心が高いから……という心構えやコツはいっさい不要で、普通のコンパクトカーとまったく同じに扱える。それどころか、“ヨーロピアン(ホットハッチならぬ)ウオームハッチ”と呼びたくなるくらいの、確かで正確で、そして快適な味わいなのだ。
矢のようにまっすぐ走る
このようにシャシー関連はキャリーオーバーだが、ベースモデルのマイチェンによるフロントフェイス変更に合わせて、フロントバンパーを中心とした空力性能を進化させたのが、新しいモデューロXの最大のキモらしい。なるほど、新デザインのフロントバンパーにはサイドにエアロフィンが成形されており、床下先端には積極的に空気を取り込むスロープが、その奥にもエアロボトムフィンが複数設けられている。
資料によると、サイドのエアロフィンには「旋回性の向上」、床下先端のエアロスロープには「直進性向上」、ボトムフィンには「乗り心地向上」という効能がそれぞれあるそうだ。他社の類似技術での効果も考え合わせると、サイドのエアロフィンは主に車体全体を左右から押さえつける効果を、そして床下のスロープやフィンは主に揚力低減効果を生み出していると想像される。
今回のフリードを含めたモデューロXでは、そうした効能は机上の計算やシミュレーションだけでなく、ホンダ本体(≒本田技術研究所)の実車風洞施設や鷹栖テストコースでの実証実験や走り込みによって開発されたものである。このあたりはメーカー直系ならではのエピソードだが、他社の例を見ても、いかに純正コンプリートカーでも実車風洞まで使った開発例はそう多くない。これだけでもモデューロXには価値があると思う。
従来型モデューロXも直進性はけっこう高かった記憶があるので、新しい空力部品の効果がどれほどかを正確にお伝えできないことはおわびしたい。ただ、この新しいモデューロXが、素直に感心するほど高速でビシッと直進するのは事実だ。しかも、パワステ設定もまた適切なのか、そこから伝わってくる接地感も濃厚なので「まっすぐ走っている!」という実感がリアルにもてるのがいい。それによってドライバーは自然と肩の力がぬけて、不要な修正舵がさらに減る……という好循環が生まれる。
「文句なし」だからこそ
また、まっすぐ走ってくれるだけでなく、過酷な目地段差や凹凸をシレッといなすフラットライドも印象的である。少なくとも高速道では、ひとクラス上のCセグメントを思わせる信頼感と疲れにくさ……とまでいうと、ほめすぎだろうか。市街地での乗り心地や山道での操縦性にも感心するモデューロXだが、このように高速道でスピードが増すほど、だれにも分かりやすい効能が発揮される。
モデューロXだけに単独で乗っていると、どこまでがフリードというベース車両の基本性能で、どこからがサスペンション、そしてどういう部分が空力によるものか……は、われわれ素人には判別不能な部分も多い。ただ、クルマの空力はそれこそ車速20~30km/h程度でもなにかしらの影響を生じさせるものなので、新しいモデューロXはあらゆる場面でよくなっているはずである。さほどクルマに興味のない人でも、高速で乗り比べればそのちがいに気づくのは間違いないし、敏感な人なら街中を転がしているだけでも、なにかしらの差を感じ取れるだろう。
操縦性はもちろん、乗り心地についても、モデューロXがフリードシリーズの中で最優秀であることは間違いない。価格を度外視すれば、フリードでは圧倒的な最良推奨物件である。クルマのダイナミクス性能に一家言ある好事家でありながら、家族構成や住宅事情、あるいは積載能力などの条件で「フリード以外に選択肢はない」という向きには、とくに文句なしの太鼓判だ。
いや、実際には、クルマにさして興味がなかったり、運転を苦手に思っていたりする人ほど、この直進性や乗り心地は五臓六腑にしみわたるはず……とも思うのだが、安価なグレードでは本体価格200万円を切るフリードにおいて、50万円という“モデューロX費用”はハードルが高い。少なくとも空力の知見などは、標準モデルにも即座かつ安価に導入できそうな気もするが、そうもいかない大人の事情もあるのだろう。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダ・フリード ハイブリッド モデューロX Honda SENSING(6人乗り)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4290×1695×1710mm
ホイールベース:2740mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:110PS(81kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:134N・m(13.7kgf・m)/5000rpm
モーター最高出力:29.5PS(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:160N・m(16.3kgf・m)/0-1313rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:--km/リッター
価格:325万6000円/テスト車=350万2400円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイトパール>(3万3000円) ※以下、販売店オプション 9インチプレミアムインターナビ+フロントドライブレコーダー<ナビ連動タイプ/駐車時録画機能付き>(21万3400円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1908km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:506.9km
使用燃料:29.1リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:17.4km/リッター(満タン法)/17.2km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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