ジャガーFタイプRダイナミック コンバーチブルP300(FR/8AT)
時代が変わればクルマも変わる 2020.09.23 試乗記 「ジャガーFタイプ」のマイナーチェンジモデルに試乗。連れ出したのはオープントップモデル「コンバーチブル」の2リッターターボエンジン搭載車。実はこの比較的ライトなグレードこそが、ジャガーの導き出した令和の時代を走るスポーツカーの最適解だ。よりロー&ワイドなスタイルに
これほどまでに、いつの間に変わってた? と感じさせるクルマがあっただろうか。ジャガーFタイプが人知れずマイナーチェンジしていた。正確には改良型の日本での受注開始は2020年1月9日。ま、今年上半期は自動車メディアも取材がままならず、回顧録とコラムと「〇〇なクルマ5選」ばっかりだったしな。
フロントマスクが大胆に変更された。往年の「Eタイプ」にインスパイアされたであろうおちょぼ口グリル&つり目ヘッドランプだったのが、新型はそれを上から押しつぶしたようなロー&ワイドな顔つきになった。ちなみにタイヤのすぐ上からフロントフェンダーの一部ごとごっそり開くクラムシェル型のボンネットフードは、マイチェン前から逆アリゲータータイプ(←死語)だ。後ろ姿はさほど変わっておらず、リアコンビランプがLEDを用いた今風のものに。
Fタイプには「クーペ」と「コンバーチブル」がある。エンジンは今回のマイナーチェンジで最高出力が25PS引き上げられて575PSとなった5リッターV8スーパーチャージャーを頂点に、同380PSの3リッターV6スーパーチャージャー、同300PSの2リッター直4ターボの3種類が設定される。試乗したのは、2リッター直4を搭載したコンバーチブルだ。価格は1101万円。ハイブリッドシステムとの組み合わせを除けば直4エンジンを搭載したモデルとしては最も高価なクルマではないか。
ゆっくりでも楽しい
キーを渡され、試乗に出かける。着座位置が低く、ダッシュボードやドアに囲まれる。V8やV6のFタイプは現行モデルとしては最もエキゾーストノートの大きいクルマだが、直4の場合は普通。ただし排気音がチューニングされていて、吹かすと迫力のある音がする。音階は低いがヌケのいいむせび泣き系。文字にすると「クォーン」か。この音を立てるのはダイナミックモードを選ぶか、マフラーのイラストが描かれたボタンを押した場合のみなので、静かに走らせる必要がある場合にはそうできる。
山梨県の河口湖周辺のワインディングロードを走らせる。あらゆる操作に対する反応がよく、スポーツカーに乗っているなという実感に包まれる。長いノーズの向きをクイッ、クイッと変えてコーナーをクリアしていくのが楽しい。断っておくが、ここまで全然飛ばしていない。地元ナンバーの「トヨタ・ポルテ」に追従して走行しているときの印象だ。走行ペースにかかわらず、操作に対する反応のよさは喜びとなる。
令和の時代、公道におけるスポーツカーの楽しみ方はそのあたりに集約されると言っても過言ではない。もうぶっ飛ばす時代じゃないし、かつて許されたような(ホントは許されてないけど)行為が今では許されない。今後はゆっくり走らせても満足感を得られるスポーツカーがより高い評価を受けるようになるのではないだろうか。言うまでもなくクローズドコースへ持ち込んでハイパフォーマンスを思う存分解き放つのは、また別の素晴らしい楽しみだ。
隠されたレシピ
Fタイプはトップを下げても上げてもボディーのしっかりした印象は変わらない。駐車場入り口で1輪だけ段差を越えた瞬間にミシリという音を立てるようなことはない。今どきのオープンカーはたいていそうか。乗り心地は飛ばしても流しても渋滞に巻き込まれても良好。サスペンションが細かい入力でも丁寧に受け止める。連続的な入力にも対応するので舗装の悪い道路を走行してもドタバタしない。
直4といえども300PSあるのでパワー不足なわけではない。急な登りの峠道を元気よく駆け上がっていくだけのパワーを持ち合わせている。直4らしいややラフなフィーリングを伴い、ストレスなく6000rpm超まで回る。5500rpmを超えたあたりでタコメーターの盤面全体が赤く点滅し、ギアアップを促す。点滅しても焦る必要はない。右のパドルを一度引けばいいだけ。そしたらダンという音と衝撃の後、再び速度が上がる。レスポンシブでそれ自体が喜びとなる。ギアダウンも同様。左パドルを引くと即座に1段下がって回転が跳ね上がり、エンジンブレーキを得られる。ATセレクターを左に倒して「S」モードに入れれば、一切パドル操作をせずとも高回転を維持することができ、気持ちよく走らせることができる。実にスポーティーな8段ATだ。
半日運転して、高い満足感を得た。勘どころを押さえている。クルマのどこを固め、どこをしなやかにし、どこを動かし、どこを動かさないか。どの程度のレスポンスで、どういう音を立てれば、ドライバーが気持ちよくなるかというレシピが、本社の奥のほうにある部屋の、デスクの鍵付きの引き出しの中にあるのだろう。
時代の変化を感じ取ったジャガー
トップは10秒ほどでスイッチひとつで開けられる。50km/h未満なら走行中でも開閉できるのがうれしい。取材後、そば屋に入るのに、到着直前にトップを上げ始め、到着と同時に完了させると、後続車を運転していたスタッフがうっとりしていた。わざわざ選んでオープンカーに乗るのなら恥ずかしがらず、そのブランドを背負っているつもりでカッコつけるべきだ。トランクの開口部はそこそこ広いが、全体的に浅く、凹凸があり、使いやすいとはいえないが、コンバーチブルとしては健闘しているといえる。
12.3インチの「インタラクティブドライバーディスプレイ」が標準装備となった。操作性は改善され、機能も充実している。もちろん「Apple CarPlay」や「Android Auto」にも対応している。かつてジャガー(とランドローバー)の弱点だったインフォテインメントシステムの使い勝手は、モデルチェンジを迎えたモデルから順次改善されてきている。大昔のジャガー(をはじめ英国車全般)の弱点は“電装系”という、実にドライバーを不安にさせるざっくりと幅広い範囲を指すものだったらしいが、今やそんな心配はなし。
ダッシュボード中央には「EST.1935 JAGUAR COVENTRY」とある。直4のFタイプの存在は、スポーツカーづくりの歴史が長いジャガーが、脱ピークパフォーマンスの世の中を敏感に感じ取った結果のようにも思える。これのコンバーチブルこそが、真の旦那スポーツカーだ。
(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ジャガーFタイプRダイナミック コンバーチブルP300
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1925×1310mm
ホイールベース:2620mm
車重:1670kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:300PS(221kW)/5500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1500-2000rpm
タイヤ:(前)255/35ZR20 97Y/(後)295/30ZR20 101Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.7km/リッター(WLTCモード)
価格:1101万円/テスト車=1467万0150円
オプション装備:ボディーカラー<ブルーファイヤーブルー>(17万2000円)/ライトオイスターウィンザーレザーパフォーマンスシート<エボニー/ライトオイスターインテリア>(33万6000円)/セキュアトラッカー(9万9000円)/クライメートパック(13万5000円)/ブレーキキャリパー<ブラック>(5万円)/ブレーキディスク<フロント380mm/リア376mm>(45万5000円)/タイヤリペアシステム(0円)/20インチ“スタイル6003”6スプリットスポークホイール<ダークグレー/ダイヤモンドターンドフィニッシュ>(13万4000円)/自動防げんドアミラー<電動格納+ヒーター&メモリー機能付き>(9万4000円)/エクステリアブラックデザインパック(55万6000円)/フル電動コンバーチブルルーフ<ベージュ>(7万4000円)/ウインドディフレクター(14万円)/ステアリングコラム<電動調整+メモリー機能付き>(0円)/パークアシスト(10万7000円)/サンバイザー<スエードクロス&バニティーミラー付き>(1万2000円)/地上波デジタルテレビ(13万1000円)/ヘッドライニング<エボニー/スエードクロス>(0円)/インテリアラグジュアリーパック(61万1150円)/インテリアブラックパック(12万3000円)/12ウェイ電動シート<ヒーター&クーラー+メモリー機能付き>(43万1000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1297km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:377.2km
使用燃料:48.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.8km/リッター(満タン法)/8.2km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
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