第674回:【Movie】それぞれの思い出を胸に ちょっと古いルノー&シトロエン車の週末ミーティング
2020.09.24 マッキナ あらモーダ!イタリアでフランス車が人気上昇中の理由
筆者が住むイタリア・シエナ郊外に、古いフランス車専門のパーツショップが開店したことを知った。
“ひとり店長”は、1984年生まれのマッシモ・デ・マルコ氏だ。16年にわたって近くの空冷フォルクスワーゲンパーツ店に勤務していたが、以前から愛好していたフランス車への思いを断ち難く2019年10月に独立・開業したのだという。
その彼が「今週末にミーティングをやるから、ぜひ見に来てよ」と誘ってくれたのが、今回の動画である。
彼にとっては独立後、最初にオーガナイズする記念すべきイベントだ。
2020年9月19日朝、集合場所であるシエナ県ポッジボンシにある15世紀の城塞(じょうさい)を訪れた。すると、色とりどりの「ルノー4」や「シトロエン2CV」をはじめとするフランス車が次々と登場した。草原をぽんぽんと飛び跳ねながら走り、列に加わっていく。
ところで、なぜイタリアでフランス車ファンが? その疑問にマッシモ氏はルノー4を例に解説してくれた。「荷物がたくさん積めることから、農家や左官工といったプロからの絶大な人気を誇ったんだ」
確かに、同年代のフィアットにはワンボックスの「850T」があったが、こちらはリアエンジンで荷物スペースに限界がある。また「127」にはハッチバック仕様が存在したが、あくまでも乗用車である。
そうしたルノー4の多くは、週末には家族車としても使われた。「彼らの息子や娘たちにとって、少年少女時代の自動車体験といえばルノー4だったんだよ」
同時に今回の参加者からは「シトロエンの2CVや『ディアーヌ』、そしてルノー4は、1960年代後半~70年代初頭のヒッピー世代だけでなく、その後のディスコ世代にとっても、自由のシンボルだった」という話を何度も聞いた。国境を越えたカルチャーだったのである。昨今の若者たちによる80年代への憧憬(しょうけい)も、これらのクルマが再び脚光を浴びるきっかけになっている。
イベントには初日だけでも約90台が集結。国内だけでなくドイツやポーランドなどから駆けつけた熱烈越境ファンも見られた。
会場に到着した途端にサイドウィンドウが落下するという、漫画のような参加車もあったが、マッシモ氏がいるので安心だ。
面白いのは、一見話しかけるのがはばかられそうな風貌のオーナーであっても、クルマ談義をし始めた途端に、距離が縮まるということだった。
ついには「俺のクルマ、運転してみてよ」というオファーまで飛び出した。
彼らは自分の愛車と他車とを比較しようというそぶりを決して見せない。それは動画の中であるオーナーが証言しているように、各車がそれぞれのオーナーの思いを反映しており、1台たりとも同じクルマがないためだ。
マッシモ氏のプロデュースによってその週末に出現したワンダ―ランドの様子を、とくとご覧いただこう。
ちなみに、彼のお客さんの6割は、こうしたちょっと古いフランス車をメインのクルマとして日常使いしているという。さらに近年は「社会的に成功した人が、貧乏だった駆け出し時代に乗っていたクルマを思い出して買うこともあるんだよ」と教えてくれた。
往年のフランスのサンダルは、隣国イタリアで新たなストーリーを紡ぎ始めているのである。
【ルノー&シトロエン・クラシック・ミーティング】
(文と写真と動画=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/動画=大矢麻里<Mari OYA>/編集=藤沢 勝)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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