ヤマハTMAX560 TECH MAX ABS(MR/CVT)
アンチも脱帽 2020.10.30 試乗記 普段使いでの機能性はもちろん、ツーリング性能や操る楽しさをも追求したヤマハの“スポーツコミューター”こと「TMAX」シリーズ。その最新モデルにあたるのが「TMAX560」だ。新エンジンを得たビッグスクーターの雄は、“アンチ”を黙らせる実力の持ち主だった。これがスクーター!?
TMAXはスクーターでありながら、バイク並みの走行性能を追求してきたモデルだ。スクーターは利便性に優れる反面、走りを追求しようとしても難しい部分があった。フレームの剛性を上げることができず、小径ホイールは安定性を高くすることが難しい。エンジンとリアホイールが直結されたユニットスイング構造のためにリアサスペンションの性能も制限を受けてしまう。TMAXは独自のデザインでこれらの問題に対策を講じ、モデルチェンジを繰り返すたびに性能を向上させてきた。
テスター自身は、スクーターがあまり好きではない。TMAXに関しても過去のスクーターに比べれば桁違いの走行性能を有していることは分かっていたが、それでもなじめなかったというのが正直なところ。ところが現行のTMAXは、そんなスクーター嫌いが夢中になってしまうくらいの走りを見せてくれた。
走りだしてまず感動してしまったのは、エンジンのスムーズさとパワー。ゼロスタートこそクラッチ付きのバイクのような飛び出し方はしないけれど、一度動き出せば最大トルクを発生する5000rpm付近をキープしたまま力強く加速していく。不快なノイズや振動は皆無。体に伝わってくる360°ツインの小気味よい鼓動感と排気音を味わいながらの加速が楽しい。電子制御スロットルのレスポンスも違和感がなく、力強さと優しさが調和したエンジンである。
ハンドリングも素直でスクーターとは思えない安定感がある。特に素晴らしいのはハードブレーキング時。車体がよじれる感じは皆無で、急減速しながらコーナーに進入するような乗り方をしても全く不安がない。強力なブレーキングでかかる荷重をサスと車体ががっちりと受け止めてくれるので、気持ちよくコーナーに進入していくことができる。深くバンクさせた時も車体は安定している。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
同価格帯では出色の出来栄え
スクーターに慣れていないテスターが不安なく走ることができたのはポジションによる部分も大きい。減速時はステップに足を踏ん張っていられるから、急な減速でも下半身で支えることができるし、コーナーではふくらはぎでホールドできる。ストリートを実用的な速度域で走る限り、乗りやすさ、運動性はオンロードバイクを超えている。「スクーターもついにここまできたか」という感じだ。
快適性に関しては文句のつけようがない。クッションの厚いシートは長時間乗っても腰が痛くなるようなことはないし、リラックスしたポジションで疲れも少ない。 サスペンションの動きも良好。コーナーでのシッカリした動きと乗り心地を両立させている。
試乗していて気になったのは、ペースを上げてコーナリングしている時、ギャップに乗ると突き上げがあり、車体が若干振られたこと。そしてABSが作動した時のキックバックが大きくてレバーが強く押し戻されることくらい。どちらも普通に乗っている分には気にならないのだが、足つき性の悪さは別だ。シート高が800mmあり、シート自体も幅広。一般的な体格のライダーが乗ったらつま先立ちになってしまう。ローダウンシートやローダウンサスキットなどもあるが、この素晴らしいハンドリングを楽しみたいのであれば、まずはシート交換で様子を見ることをオススメする。
今回試乗した「TECH MAX」は、税込みで141万9000円と決して安くはないが、この同じくらいの価格帯で快適性、走行性能、楽しさ、利便性の高さなどを総合的に考えてみるとTMAXを超えるマシンは見当たらない。一人(タンデムでも)の移動手段として考えたら理想的な乗り物かもしれない。ここまで完成されてしまうとスクーター嫌いも脱帽である。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2200×765×1420mm
ホイールベース:1575mm
シート高:800mm
重量:220kg
エンジン:561cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:48PS(35kW)/7500rpm
最大トルク:56N・m(5.7kgf・m)/5250rpm
トランスミッション:CVT
燃費:22.1km/リッター(WMTCモード)/31.7km/リッター(国土交通省届出値)
価格:141万9000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。