第37回:志賀高原にて思う(後編)
2020.11.25 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
“アメリカンの極み”みたいなマッスルカー「ダッジ・バイパー」とともに、志賀高原&万座&軽井沢を満喫。webCG編集部員が行った2泊3日の志賀高原行の顛末(てんまつ)を、かの地で思った、時事に関する益体もない思索とともにお届けする。
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湯釜に行けたためしがない
(前編に戻る)
ここまでの道程でもさまざまな景色を見せてくれた万座ハイウェーだが、(軽井沢方面から見て)ドンつきに位置する万座温泉付近で、最後に一層の盛り上がりをみせる。火山ガスや噴出物の影響なのか、白と茶褐色のむき出しの地肌と、草木の緑がまだらに入り交じるSF映画的景観となるのだ。
せっかくなので、そんなSF世界を借景に「万座しぜん情報館」の駐車場で記念撮影。ついでにこの先の交通情報を確認すると、なんと志賀草津道路(国道292号線)の草津側が通行止めとなっていた。なんでも火山性地震の増加が理由とのことで、さすがは草津白根山、警戒レベル2の活火山である。ホントなら草津側にも寄り道し、今回こそ湯釜を見てやろうと思っていたのだが、仕方ないので素直に志賀高原に向かう。
万座ハイウェーが志賀草津道路に突き当たる三差路で、バイパーのハンドルを左に切る。「縁起物だから」と渋峠の日本国道最高地点で碑を写真に収め、次いで群馬と長野の県境に位置する宿で遅めの昼食。横手山の山頂は、この渋峠と横手山ドライブインの間ほどにあり、道はその先から一気に下り始める。急峻(きゅうしゅん)なつづら折りが終わり、道の左右にスキーシーズンの盛り上がりを待つ宿泊施設を見るようになると、いよいよ志賀高原に来たなという気分になる。
後は北信州もみじわかばラインに入り、予約していた奥志賀高原の宿泊先に向かうだけ……だったのだが、ちょっとバイパーに問題が生じた。ガソリンの残量がおぼつかないのだ。今にもガス欠しそうというわけではないのだが、何せ嬬恋・三原からこのかた、まったくもってガソリンスタンドを見かけないのだ。明日や明後日のことを考えたら、ここで給油しておかないと間違いなく泣きを見る。
旅先での給油は計画的に
グーグルマップで調べたところ、志賀高原の一帯にガソリンスタンドはなし。そもそも昼食で寄った渋峠ホテルのスタッフさんも、「この先、志賀高原を降りるまでスタンドはないですよ」と言っていた。うーむ、観光地あるある。
仕方がないので一度志賀高原を通り過ぎ、その先の温泉街でヘビのエサを求めることにする。山坂道を下り、地獄谷温泉手前のスタンドが掲げるハイオクのお値段はリッター152円ナリ。出発時に給油した昭和シェルの16円高だ。今回は35.11リッター入れたから、だいたい普段の朝食1回分くらい飛んだ計算になるな。行楽地で無粋なことだが、編集部丸山が言っていた「GoToトラベルとかGoToイートだけじゃなくて、GoToガソリンもあればいいのにねえ」という言葉が身に染みた。
賢明なる読者諸兄姉ならもうお察しのことだろうが、今回、ケチで出無精な記者がこんな旅行を思いついたのは、GoToトラベルのキャンペーンがあったからである。クーポン込みで旅費の半額を補助してくれるというその内容に、「どうせ有給は取らにゃあかんし(前編参照)、出掛けるのもええか」となったのだ。
亡くなった方もいるので軽々なことは言いたくないが、世を席巻するコロナ禍も、今のところ記者の生活に深刻な影響は及ぼしていない。幸いなことに、記者も記者の身内も病にはかかっていないし、webCGの経営が傾いてお給金が減ったなんてこともない。そういう状況だからして、経済補助の恩恵に浴すのは気が引けたのだが、GoToについては地域振興が名分。それならばと思い切ったのだ。
いかにも面倒くさいヤツの思考回路だが、性分なのでご容赦くだされ。10万円の定額給付金のときも乗り気ではなかったところ、知古の友より「変なところで律義を発揮するな」「払い過ぎた分の税金、取り返しとけ」との叱責(しっせき)を受けたのだ。むろん氏の言う払い過ぎた税金というのは、ダッジ・バイパーの自動車税のことである。
ポットパイを食って「ホンダe」を思う
後顧の憂い(ガス欠)を除いたところで、あらためて投宿先へと向かう。志賀草津道路を山へと戻り、先述の北信州もみじわかばラインに入るとにわかに道が悪くなった。舗装はきちんとされているのだが、ひび割れや補修跡などの凹凸が結構強烈なのだ。前295、後ろ345なんて幅のタイヤを履いているバイパーは、当然足を取られまくる。何かの拍子にタイヤ一つ分ぐらい、平気でリアが横に飛ぶ。そしてそのたびに思うのだ。「SUVっていいよなあ」 ……まあSUVでも、最近はこうした道をまともに走れないクルマがないわけではないのですが。
紅葉の美しさに方々で道草しつつ、走ること小30分。最後の最後にスキー場内(砂利道)に記者を導くというグーグルマップのワナにはまりながらも、どうにか宿に到着。都合260kmの旅の往路は、こうして終了と相成った。
後はGoToキャンペーンをやってくれた前政権に感謝しつつ、豪華な夕飯を満喫……と言いたいところだが、ステキなホテルでコース料理を選んだのがアダに。なにせ男の一人旅。料理と料理の間を、どう持たせればよいというのか? まわりで若いカップルや壮年のご夫婦が仲むつまじく舌鼓を打つ中、一人身のわびしさが身に染みた奥志賀高原の夜であった。
さて、かような記憶は大浴場に置き去りにして、2日目である。朝食をいただくと記者は早速宿を出て、琵琶池の周りを散策したり、横手山頂のヒュッテ兼パン屋さん(日本で一番標高の高いところにあるパン屋さんだとか)でポットパイをいただいたりと、柄にもなく人並みの幸せを満喫した。もちろん足はバイパーだ。
そしてふと思った。「ホンダe」はこういう観光地とコラボしたら面白いんじゃないかな? 話題性は十分だし、地域の名所巡りなら300kmの航続距離も問題にならないはず。観光客も「OK、ホンダ。田野原湿原に行きたいんだけど?」という問いに対する当意即妙な回答っぷりに、ジドーシャの未来を垣間見るに違いない。ホンダはイメージアップ、お客さんはモノより思い出(……は日産のキャッチコピーだけど)と、まさにWin-Win。どうでしょう? ホンダさん。
……などと自分のアイデアみたいに語っているが、実際のところはMINIがかつて新潟の芸術祭とコラボした例を覚えていたにすぎない。でも、いい案だと思うんだけどな。F1撤退でちょっと元気のないイメージがついてしまったホンダだけに、前向きな施策も見せてほしいところである。
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3年半越しのリベンジ
そんなこんなで志賀高原ツアー最終日。記者は11時のチェックアウト時刻よりかなり前に宿を出た。これを機会に行っておきたい場所があったのだ。
寄り道もせず、志賀草津高原ルート、浅間白根火山ルートを逆戻り。本当は嬬恋パノラマライン経由で北からアクセスするルートもあるのだが、確かその道は途中から未舗装路となるはずなので、バイパーではご勘弁。第一、そのルートでは最終的に“本来のコース”を逆走することになる。それはあまりに無粋ではないか。
浅間・白根・志賀さわやか街道を軽井沢まで戻り、1000メートル林道、浅間サンラインをひたすら西へ向かう。もうお気づきの方もおられるだろう。記者はチェリーパークラインに向かっていたのだ。2017年まで「浅間ヒルクライム」のコースとして使われていた道だ。
2017年の浅間ヒルクライムといえば、webCGより関青年が参戦。深紅の「ランチア・デルタHFインテグラーレ」で獅子奮迅の活躍を見せたのが懐かしい。……が、実はアレ、ホントなら記者がバイパーで出ていたはずなのだ。実行委員会に参加&取材の申し込みまでして、首をながーくしてお返事を待っていたところ、委員会からの連絡より先に海外出張が決定。泣く泣く参戦権を氏にゆずることとなった。
そんな因縁のチェリーパークラインを、バイパーはぐいぐい登っていく。1300mの標高差も、オーナーの心の機微もお構いなし。故小林彰太郎氏は「かつてのアストンマーティンは、朝と昼さがりでエンジンの音が違った」と言ったらしいが、こやつはそうした情緒とは無縁である。
前さえ空いてりゃどこでもご機嫌なバイパーとともに、当時ギャラリーが詰めかけていた高峰高原ホテルのコーナーを抜ける。そして大会本部があった懐かしのアサマ2000パーク……の前を記者は行き過ぎた。「あれ?」と思ってUターンし、現場の前を往復してようやく気づく。工事中だったのだ。看板が撤去された入り口は見る影もなく、それはヒルクライムの参加者がマシンを並べていた駐車場も、ケータハム ジャパンのジャスティンさんが同乗体験会でドーナツターンをかましていた広場も同じだった。
哀れ鉄パイプに捕らえられた、パーク入り口の目印だった鹿の像を見やる。旅の最後にはこれの前で記念撮影を、なんて考えていたのだが、これでは仕方ない。敷地の片隅にバイパーを止めて、缶コーヒーとブラックサンダーで一服する。
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クルマ好きは永久に不滅です
記憶とは違うアサマ2000パークの姿に、おセンチな気分を抱えて山を下る。最後は拍子抜けというか予想外の展開となったが、いずれにせよ、これにて今回の志賀高原行で行きたい場所はすべて巡った。後は東京に帰るだけだが、せっかくなのでGoToキャンペーンの地域共通クーポンを使い切ってから去ろう。
チェリーパークラインの見晴台にバイパーを止め、クーポンが使えるお店をスマホで検索。すると、逆に山を登ってきた「ホンダ・アフリカツイン」の紳士に声をかけられた。いいクルマですね。ありがとうございます。でもボロだから、あんまり近くで見ないでやってください。これからどちらへ? もう帰るところです。そちらは? 毛無峠とか、これからいろいろ行ってみようと思います。写真撮っていいですか? どうぞどうぞ。せっかくなので紳士にクーポンが使えるお店を聞いたところ、軽井沢を抜けた先のステーキ屋さんは使えるらしい。考えるのも面倒なので、最後の食事はそこに決めた。
アフリカツインにまたがり、さっそうと去っていく紳士を見送る。気持ちよさそうなその姿と、小気味いい並列2気筒の快音に思った。次はトライアンフで来よう。ケーヒンキャブの英国製3気筒なら、峠の高低差や時間による温度の変化に情緒ってもんをみせてくれるかもしれない。バイパーはちょっと、モダンでマッチョすぎたな。
それにしても、今回の旅でバイパーについて声をかけられたのは、これで4回目。どこに行ってもクルマ好きはいるものである。コロナ禍のせいで一時は全滅の様相を呈したイベントの類いも、「オートモビル カウンシル」の断行を機に潮目が変わり、特にクラシックカーラリーやモーニングクルーズといった“草の根系”のイベントはかなり元通りの感がある。当地でも浅間サンデーミーティングが継続されているし、後日聞いたところだと、来年のオートサロンも開催の予定だとか。編集部にどしどし届く取材案内を見るにつけ、クルマ好きは今後も(「ニューノーマル」って言葉は嫌いです。なんかダサくない?)クルマを楽しもうって肚を決めてんだなあと、つくづく思う。
ニッポンは自動車文化に理解がない国、なんて言われるが、そこで冷や飯を食わされてるクルマ好きのしぶとさは、世界に冠たるもんだと思う。コロナ禍を耐えた暁には、ホンダeや新型「日産フェアレディZ」をお借りして、取材がてら浅間のイベントに参加してみよう。不屈のカーマニアに栄光あれ。
(webCGほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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