第36回:志賀高原にて思う(前編)
2020.11.24 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして![]() |
コロナ禍による鬱屈(うっくつ)した日々に耐えかねて、逃げ出した先は風光明媚(めいび)な志賀高原。webCG編集部員が、排気量8リッターのマッスルカー「ダッジ・バイパー」とともに日本アルプスを爆走。爆音&生ガスとともに、観光名所を駆け回る。
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動機はコロナ禍の憂さ晴らし
2020年10月14日の朝6時、記者は毎度おなじみ、伏見通り沿いの昭和シェルでバイパーに給油をしていた。なんで平日のこんな時分に? というと、3日ほど有給を取って志賀高原に行くことにしたから。なんでこのタイミングで有給を? というと、今までずっと取り損ねていたからである。
かねてワーホリの称号をほしいままにしていた当方。正直なところ、+αの休みなどなくとも一向に苦ではないし、休みを取るためにスケジュールを詰めるほうがよっぽど気苦労でメンドくさい。そんなわけで、昨年まではおおらかな世相に甘えていたのだが、今年はそうはいかなくなった。労基の改正により、社員に有給を取らせないと会社が罰を受けるようになったからだ。
いやはや、これも時代よのう……。などと独り言ちつつ車内に戻り、給油記録をメモる(スマホでオドメーターとレシートを写メするだけだが)。で、あらためて実感する。ここのところ、バイパーで遠出していなかったな。コロナ禍のせいで楽しみにしていたイベントはずいぶん中止になってしまったし、各地で“他県ナンバー狩り”なんて行為が横行していると聞いたし。まったく、人の心のすさむこと麻のごとし(小林 薫ボイスで)である。
そんなわけで記者は、(恐らくは多くの読者諸兄姉と同じように)いろいろ自制してこの5カ月を過ごしていたのである。今回の志賀高原行は、そんな2020年の憂さ晴らしでもあるのだ。
そんなクルマ、どこ走らせんの?
「放射第7号線はいつになったらつながるんだよ⁉」という東京・練馬の地元ネタを挟みつつ、下道をぬるぬる走って大泉ICから関越自動車道に乗る。当座の目標は松井田妙義ICだ。
東名や中央道と比べて、個人的に関越道や上信越道はスカッと走れるイメージが強い。東京から離れるほどに強まる、いかにも中日本な景観も憎からず思っているが、よそ見していると追突するのでわき見運転はほどほどに。とはいえそんなにクルマが詰まっているわけでもないので、気分はリラックスだ。
かようなシチュエーションでは、アメ車でバカ排気量なバイパーもご機嫌なわけだが、運転者としては、正直、不満がないわけではない。このクルマ、高速道路で能動的に楽しもうとするとエラいことになるんですよ。ちょいとアクセルを踏んだら、あれよという間に法定速度。上までカチ回そうもんなら、車3文字じゃ足りないほどの轟音(ごうおん)である。こんなもん、浅野忠信の奥さんよろしく「私はここよ」と覆面パトをあおっているようなもんだ。もっとも、このゴーカイさというか日本の道路事情に合わないスケールのでかさが、バイパーのいいところなわけで(悪いところは繊細さのカケラもないところ)、まあ何ともアンビバな話なのだ。
……とはいえである。いかにマッチョなスポーツカーとはいえ、こやつは20年も前のクルマ。今となってはもっと速いクルマも、額面上はもっとパワーが出るクルマも相応にあるわけでして、そうしたクルマのオーナーは、普段どこでどうやって運転を楽しんでいるのだろう? 楽しいの? ぼんやり屋の記者ですら、時にストレスでハゲそうになるというのに。
正直なところ、最近は世にいうスゴいクルマ&バイクを取材するたびに「こんなもん、どこ走らせんの?」と首をかしげる日々である。今後はますますスピードを出すという行為は白い目で見られるだろうし、例えばV6ツインターボの搭載を公言した新型「日産フェアレディZ」などは、どのあたりに落としどころを見つけるつもりなのか。デザインや動力性能より、記者はそこんところに興味津々なのだ。
日産よ、お前はどうするつもりなんだい? どうなんだい? 車窓からそう語りかけても雄大な関東山地は答えてはくれない。私にじゃなくメーカーに聞けよということなのだろう。
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総延長100km超、全部見どころ
頼まれてもないのにスポーツカーの自己矛盾に思いをはせつつ、松井田妙義で高速とおさらば。そこからものの5分も走れば、道はぐねぐねと曲がりだす。どっかの誰かが麦わら帽子を落としたことで有名な、碓氷峠へのワインディングだ。
詳しい方ならご存じだろうが、東京から志賀高原に向かうなら、上信越道を信州まで行って、信州中野ICから戻り加減にアクセスするほうが速いし楽だ。じゃあなんでこんなメンドいルートを行くのよと問われれば、それはもう、この道が好きだからとしか言いようがない。
碓氷峠(旧中山道)を抜けて軽井沢をかすめ、白糸ハイランドウェイ→浅間白根火山ルート(鬼押しハイウェー→万座ハイウェー)→志賀草津高原ルート(国道292号)と抜ける100kmちょいの道程は、そのほとんどを景勝地とナイスなワインディングが占める素晴らしいドライブ道。実際、軽井沢から志賀高原までの区間は「浅間・白根・志賀さわやか街道」(このネーミングはどうかと思う……)として日本風景街道に登録されている。
もうひとつ理由として挙げられるのが、万座や軽井沢という土地に、個人的に験(げん)を感じているから。かの地を最初に訪れたのは、「日産スカイライン」特集(前編・後編)のためのロケハンで、フリーズしがちなぽんこつスマホと『スーパーマップル』を脇に抱え、エアコンもオーディオも壊れた「ローバー・ミニ」で駆けずり回った記憶がある。
その後もメーカー/インポーターの試乗会だったり、冬用タイヤの記事制作だったり、「浅間ヒルクライム」等のイベント取材だったりで、少なくとも年に一度は浅間山にあいさつしてきたワタクシ。それが今年は、コロナ禍の影響でもろもろの催しがパッタリなくなったことから、訪問の機を逸していたのだ。そうなるとどうも肚が落ち着かない。お盆にお墓参りに行きそびれたような感じで、すっきりしないのだ。それでもなお「自費で行くのは、ちょっと違うんだよなあ」などとシブっていたのだが、このほどついに尻のムズムズに耐えかねて、バイパーで詣でることとしたのだ。
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ジドーシャ界随一の「坂バカ」
めがね橋(碓氷第三橋梁)に白糸の滝、鬼押出し園と、シゴトではスルーせざるを得なかったあまたの名所を片っ端から制覇しつつ、一路志賀高原へと向かう。鬼押しハイウェーでは雄大な浅間山の姿にカメラの虫がうずくが、ここは路肩駐車禁止なのでガマン。慰みにと窓から風を入れて走ると、ドーンとしたストレートと緩やかなカーブの組み合わせに胸がすく。バイパーも快調なようで、清涼な日本アルプスの空に盛大に生ガスをばらまいて走る。
気配が変わるのは国道406号が迫るあたりで、「あれ、急にワインディングになったな」と思ったらその先はもう吾妻川。嬬恋村の三原と鎌原の境界となるこの一帯に特別な地名はないそうだが、上述の406号と万座ハイウェーが交差し、JR吾妻線の万座・鹿沢口駅も位置する、ささやかな交通の要所だ(ちなみに名前に「・」がある駅は、JRの中でもここだけなんだとか)。ここに着いたら、吾妻川を眺めつつ道沿いのセブン-イレブンで小休止。なにせ、ここから先は志賀高原まで、ほぼぜんぶ峠道なのだ。
間食とお手洗いを済ませたら、吾妻川を渡って再び北へ。同じ万座ハイウェーでも、これまでとは打って変わって急峻(きゅうしゅん)な山坂道となるが、われらがバイパーはどこ吹く風。それどころか、喜々として登りのつづら折りに突っ込んでいく。かつてwebCG編集部に在籍していた折戸青年は、「ローディー(自転車乗り)の中でも登坂が好きな連中を『坂バカ』と呼ぶ」と言っていたが、それに倣えばバイパーは間違いなく坂バカだ。そしてバイパーに乗っている限りにおいては、運動不足な記者も坂バカだ。
嬬恋名所・愛妻の鐘に呪詛(じゅそ)を吐き(独身なので)、宮本浩次を響かせながら山を駆け上がる一台とひとり。鈍感な記者は、万座に迫るころにようやく景観の変化に気づいた。緑が主体だった木々や山肌に、黄色の成分が増えている。「そういや紅葉の季節だったな」と「もう随分高いところまで登ってきたんだな」という事実に、風流を解さぬ記者もさすがに感じ入る。(後編へ続く)
(webCGほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。