BMW M440i xDriveクーペ(4WD/8AT)
そのチャレンジにエールを 2020.11.16 試乗記 BMWの根幹をなすDセグメントの商品群。そこに属する2ドアクーペ「4シリーズ クーペ」が、2代目にモデルチェンジした。アグレッシブなフロントマスクが注目を集めているが、その実力はどれほどのものなのか? 直6モデルの「M440i xDrive」で確かめた。巨大なグリルに関するBMWの言い分
誰もが初めて4シリーズ クーペのフロントマスクを見たとき、「うっ」と息をのんだことだろう。鼻の穴と見立てるべきなのか、はたまた大きく開けたクチなのか。解釈の領域を超えた、お世辞にも美しいとは言えないその巨大な「バーチカルキドニーグリル」はしかし、ものの見事に筆者の目をくぎ付けにした。
調べてみれば、BMWが初めてキドニーグリルを採用した1933年登場の「303」においても、その意匠は細長い縦型配置であったし、エクステリアデザイナーであるクリストファー・ヴァイル氏もプレゼンテーションで、「『328』や『3.0 CSi』といった歴代クーペには、この縦長グリルが採用されてきた」と、その正当性を述べている。
だからといって、アンタちょっと、それデカ過ぎだろう! という声が聞こえてきそうな気もするが、ともかくそういうことである。BMWはこうしたツッコミ覚悟で、自らが「最もスポーティーでエレガント」だとうたう4シリーズ クーペに、この巨大なハナ……いや、縦型グリルを採用したわけである。
さて、そんな4シリーズ クーペで、まず日本に一番乗りを果たしたのはM440i xDriveであった。これは「3シリーズ セダン」で言うところの「M340i xDrive」に相当するグレード。“Mモデル”が細分化された今、「M3」や「M4」のようにサーキット走行までは視野に入れないけれど、ロードモデルとしては最高峰に位置づけられた「Mパフォーマンス」という分類のモデルである。
ちなみに4シリーズ クーペの本国仕様はこのほかに、ガソリンモデルに2リッター直列4気筒ターボを搭載する「420i」と、そのハイパワーバージョンである「430i」をラインナップ。ディーゼルターボは、2リッター直列4気筒の「420d」のみFRとxDrive(4WD)を用意し、3リッター直列6気筒モデルの「430d」と「440d」は、48Vマイルドハイブリッドをアドオンすることで環境性能にも対応した。そしてその駆動方式は、xDriveのみの設定となる。
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飛ばして走るだけが能ではない
M440iに乗って驚かされるのは、その見た目とは真逆をいくスイートな乗り味だった。見た目のインパクトがすさまじい分だけ、そう感じるのでは? いいや、違う。これはれっきとした、物理の法則のたまものである。
というのも、3シリーズ セダンに対し、4シリーズ クーペはその全高を最大で57mm、M340iとM440iの比較では50mm低めており、それに伴い重心位置も21mm下がったのだという。さらにリアトレッドは23mmワイドになり、ボディーには剛性を向上させるパーツが、サスペンションまわりやバルクヘッドまわり、リアメンバーまわりといった要所に装着された。車重がM340i比で10kg増えてしまっているのは、その伸びやかなボディーを実現するべく全長が4775mmにまで伸ばされたためだろう。
実際、その乗り心地はセダンであるM340iに比べ、段違いにしなやかだ。開発陣によればサスペンションの設定値はフロントのスプリングレートが2%ほど高められた程度で、リアは同じ。つまりはボディーがしならなくなった分だけ、サスペンションが路面に追従するようになったのだ。さらにクーペボディー用にリアショックアブソーバーのストローク特性を合わせ込むことで、コンフォート性能も高めているのだという。逆に言うと、M340iはセダンという性格上、運動性能を落としてでも(つまりサスペンション剛性を落としてでも)M440i並みか、それ以上の乗り心地を得るべきだと思う。
そしてこの乗り味に、直列6気筒ツインパワーターボがとどめを刺す。このエンジンが素晴らしいのは、街なかでゆっくりと流すような状況から、その質感をたっぷりと味わえることだ。ミリ単位でアクセルを踏み込むような操作にも過給圧が追従し、要求した分だけ確実にトルクを乗せてくれる。だから速度を高めずとも、運転が心地よいのである。そしてアクセルを踏み足していけば、それまでフロロロロ……と和んでいた癒やしの鼓動は、完全等爆の快感ビートへと変わっていく。
もちろんスペックだけで言えば、BMW直列6気筒の最高峰はM3/M4などに積まれるS系のユニットだ。しかしオープンロードを走る限り、筆者はこの「B58」ユニットがベストな選択だと思う。
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一粒で二度おいしい
シングルタービンながらもこれをツインスクロール制御し、バルブトロニックやダブルVANOS(バリアブル・カムシャフトコントロール機構)で空気の出入りを、そして直噴制御で燃料噴射を緻密にコントロールするこのエンジンは、前述の通り全回転域で気持ちいい。スムーズでパンチがあり、ストレート6のよさというものを、心から楽しむことができる。むしろS系ユニットのように歯を食いしばってアクセルを踏み込む緊張感がなく、どこまでも快感に浸れる分だけ始末の悪いユニットといえるかもしれない。BMWはまだこの直列6気筒ターボをつくり続けてくれるとのことだったが、このエンジンがなくなったら寂しくなるな……と思えた。
ちなみにこのM440iには、直6のディーゼルユニット同様、48Vのマイルドハイブリッド仕様が存在する。しかしこれは排出ガス規制が厳しい国に向けた仕様であり、それを必要としない日本では非搭載とのことだった。
ハンドリングは操舵応答性がリニアで、ロールも非常に少ない。387PS/500N・mのパワーとトルクをしてシャシーファースターと感じさせるボディーのシッカリ感。このままアクセルを踏み込んで、Mスポーツディファレンシャルの旋回性とxDriveの安定性を心ゆくまでしゃぶり尽くしてみたい。そんな妄想に駆られながらも、ふとわれに返ってアクセルを緩められるゆとりというか、懐深さのような乗り味が、このM440iにはある。
それだけに筆者は、ランフラットタイヤの硬さが残念だった。確かにBMWは、かなりの歳月をかけてこれをモノにしてはいる。しかしこれがいわゆる通常のタイヤであれば、M440iの本質を引き出せるはずである。
ひと通りの試乗を終えてM440iを再び眺めてみたが、やっぱりバーチカルキドニーグリルは大迫力で、思わずクスッと笑ってしまった。でもそれは、決して冷笑や嘲笑(ちょうしょう)の類いではない。むしろこの走りを体験したからこそ、BMWのチャレンジにエールを送りたい気持ちになったのだ。BMWにとって4シリーズ クーペは、彼らのスポーツスピリッツそのものなのである。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
BMW M440i xDriveクーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4775×1850×1395mm
ホイールベース:2850mm
車重:1740kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:387PS(285kW)/5800rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/1800-5000rpm
タイヤ:(前)225/40R19 93Y/(後)255/35ZR19 96Y(ブリヂストン・トランザT005 RFT)
燃費:11.2km/リッター(WLTCモード)/12.4km/リッター(JC08モード)
価格:1025万円/テスト車=1058万6000円
オプション装備:ボディーカラー<アークティック・グレーレース・ブルー>(12万4000円)/BMW Individualアルミニウム・ハイグロス・インテリアトリム(7万6000円)/Mスポーツシート(13万6000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2278km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:352.1km
使用燃料:34.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費: 10.1km/リッター(満タン法)/10.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。