電気仕掛けの開花期!? 1980年代日本車のトンデモ装備
2020.11.18 デイリーコラムサイドミラーにおける試行錯誤
以前に寄稿したコラム「『日産ローレル』を通して学ぶ 国産ハードトップ車通史」でも触れたが、今では世界標準となっている電動格納式ドアミラーを初めて採用したのは、1984年にデビューした5代目ローレルだった。
この電動格納式ミラーをはじめ、1980年代の日本車には、電気仕掛けのアメニティー装備が続々と登場した。それは世界に冠たる電子立国の技術とおもてなしの精神の融合から生まれた日本独特のものだった。それらの中には、多分にエンターテインメント性を含んだ装備もあったことから、ギミックと揶揄(やゆ)されることも少なくなかった。
今日で言うところのガラパゴス的なものとされるケースが多かったわけだが、前述した電動格納式ミラーをはじめ、カーナビやスマートエントリーシステムのように、実用性と利便性が評価されて世界に広まっていったものも少なくない。そのいっぽうで、ギミック以上の何物でもなく消え去ったものや、技術の進歩や環境の変化によって不要となってしまったものもある。双方をひっくるめて紹介していこう。
繰り返しになってしまうが、今では「ないと困る」装備となった偉大なアイデアである電動格納式ミラーに敬意を表して、まずはミラー関連から。日本でドアミラーが認可されたのは1983年だが、それ以前のフェンダーミラーだった時代の1981年に登場した初代「日産レパード」に用意されていたのが世界初のワイパー付きフェンダーミラー。目的はもちろん雨天時の後方視界確保で、日産は初代「シーマ」(1988年)でドアミラー版に発展させている。
同じく1981年に兄弟車となってデビューした「マツダ・ルーチェ/コスモ」(ルーチェは4代目、コスモは3代目)には、熱線ヒーター付きフェンダーミラーが用意された。鏡面の裏に配した熱線で、すみやかに曇りや水滴を取り除く仕組みである。
日産のワイパー付きミラーに対抗してか、1988年に登場したX80系の「トヨタ・マークII/チェイサー/クレスタ」の3兄弟には世界初のサイドウィンドウワイパーがオプション設定された。ミラーではなく窓を拭くというわけだが、採用はこの一例で終わった。翌89年に登場した初代「トヨタ・セルシオ」には、超音波雨滴除去装置付きドアミラーが採用された。
それからおよそ30年を経た2018年にデビューした現行「レクサスES」に、量産車としては世界で初めて装備された「デジタルアウターミラー」。2020年10月に発売された「ホンダe」にも「サイドカメラミラーシステム」の名で採用されたが、まだまだ普及には程遠い。いずれは世界標準になりそうに思えるが、果たしてそれはいつになるのだろうか?
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
カーナビの始まり
近年は車載システムではなく、スマートフォンやタブレットのアプリケーションを使う人も少なくないが、カーナビゲーションはすっかり定着したアイテムといえるだろう。これが登場したのも1980年代だった。
前史というほどではないが、カーナビ出現前の一時期にちょこっと存在していたのが、マイコン(マイクロコンピューター)を使ったドライブコンピューター。走行距離や平均速度、燃費などを表示するものだが、1980年に登場した4代目日産ローレルが搭載していたものは、電卓然とした見た目のとおり四則演算も可能だった。
1981年デビューの2代目「トヨタ・セリカXX」に用意されていたその名も「ナビコン」は、マイコンに距離と方角(東西南北16方位)をセットしておくと、目的地の方位と到達度を示すという初歩的なナビゲーションシステムだった。
同じく1981年に世代交代した2代目「ホンダ・アコード」と、新たに登場した兄弟車の「ビガー」に用意された「エレクトロ・ジャイロケータ」は、車両に搭載したジャイロセンサーで進行方向を、車速センサーで走行距離を検出する自立航法による世界初のカーナビだった。ブラウン管のディスプレイに、透明フィルムに印刷された地図をセットし、現在位置を確認しながら予定したルートをトレースしていくもので、ルート案内はしてくれない。また長距離の場合は地図の差し替えが必要だった。
1987年に登場した8代目「トヨタ・クラウン」に装備された「CDインフォメーション付きエレクトロマルチビジョン」も、同じく自立航法による現在位置の特定が可能なナビ機能を搭載したドライブコンピューター。やはりルート案内はしてくれないが、地図データをCD-ROMに収めたため差し替えの必要がなくなった。
「カー・コミュニケーション・システム」と名乗る世界初のGPSを用いた衛星航法によるカーナビを純正装着したのは、1990年に登場した「ユーノス・コスモ」。自立航法に比べ現在地の特定精度は飛躍的に高まったが、まだルート案内はしてくれなかった。それが画面上で可能になったのは翌1991年にクラウンに搭載された「GPSエレクトロマルチビジョン」からで、さらにボイスナビゲーション機能が加わるのはトヨタ・セルシオ(1992年)の純正ナビからだった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
オーディオはカセットからCDへ
今日では車載インフォテインメントシステムに組み込まれていることが多いカーオーディオ。しかもソース(音源)はスマートフォンなど外部から、ということが増えている。1980年代を振り返れば、最初のデジタルオーディオメディアであるCDが登場し、1983年には富士通テン(現デンソーテン)とトヨタが共同開発した世界初の車載CDプレーヤーがトヨタ・クラウンに設定されている。だがメディアの主流といえば、まだまだアナログ音源であるカセットテープだった。
当時マニアに人気があったシステムといえば、社外品のいわゆるカーコンポだが、純正品も頑張っていた。筆者の印象に残っているのは、1981年に登場したマツダ・コスモ/ルーチェ(1ページで紹介した熱線ヒーター付きフェンダーミラーが用意されたモデル)のインパネにビルトインされたシステム。カーオーディオ用カセットデッキといえば水平方向のローディングが常識だったが、これはホームオーディオのような正立型だったのだ。
カセット関連で忘れがたいのは、1985年に登場した“7th”こと7代目「日産スカイライン」や翌86年デビューの2代目「日産レパード」に用意されていた「オートカセットセレクター」。センターコンソールに内蔵されたカートリッジに収めた5本のカセットテープの連続再生、任意のテープの再生、再生中のテープの前後9曲までの頭出しなど、後のCDチャンジャーに近い機能を持つシステムで、駆動音を発しながら作動する様子は、まるでロボットのようにメカメカしいものだった。
シートに内蔵したドライバーユニットを専用アンプで駆動し、サウンドを耳だけでなく、振動として体で感じる「ボディーソニックシステム」もあった。映画館や遊園地のアトラクションなどから始まり、ホームオーディオとして商品化された後に、車載用にアレンジして1982年に世界で初めてオプション設定したのが初代「ホンダ・シティ」。2年後の1984年に登場した通称“かっとび”こと3代目「トヨタ・スターレット」にも用意された。設定された車種からも明らかなように、あくまで若年層向けのオプションだったのである。
オーディオを音楽を聴くためではなく、ノイズ抑制のために使う「アクティブノイズコントロール」は今も現役の装備だが、決して新しいアイデアではない。1980年代ではなく90年代にハミ出してしまうのだが、今からおよそ30年をさかのぼる1991年に登場した9代目「日産ブルーバード」に採用されていたのだった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
キーレス元年は1985年
携帯電話が普及する前、一部のセレブは愛車に自動車電話を備えていた。日本の自動車電話は1979年に始まったそうだが、ハンズフリーシステムなどが市販車の純正オプションに導入されたのは1980年代半ばから。紹介するのは1987年に出た型式名Y31の「日産セドリック/グロリア」のものだが、エアバッグが義務付けられた現代では不可能なデザインである。
現代はスマートキーの普及が進んでいるが、日本車のキーレスエントリー元年は1985年。フルモデルチェンジした3代目ホンダ・アコードと兄弟車のビガー(2ページで紹介した元祖カーナビ搭載車)が、キーから発信される赤外線で施錠/解錠を行うリモコンキーを採用した。次いで登場した7代目日産スカイラインはカードエントリーシステムを導入。クレジットカード大のエントリーカードを携帯していれば、スイッチに触れるだけで運転席ドアの解錠/施錠とトランクのオープンができるという、スマートエントリーの元祖的なシステムだった。
複数あるスマートキーにそれぞれドライバーのプロファイルを記憶させ、乗車するとシートポジションからエアコン、オーディオなどを自動調整する機構を搭載したモデルが、近年存在する。これのルーツが、1990年に登場した初代「三菱ディアマンテ」に設定された「三菱インテリジェンスコックピットシステム」。2種類のリモコンキーでドライバーを識別し、シートポジション、ルームミラー/ドアミラーの角度、ステアリングホイールの角度を自動調整するという世界初の機構だった。
さらにこのシステムには、シートの前後スライドを設定すると、それを基準にシートバックの角度、座面高、ルームミラー/ドアミラーの角度、ステアリングホイールの角度を、人間工学データに基づく標準位置に自動調整するという、なんともおせっかいな機能も備わっていたのである。
シートといえば、マッサージ(バイブレーター)機能内蔵のリアシート。1982年に初代「トヨタ・センチュリー」に「リフレッシングシート」の名で導入された際には、いい意味でも悪い意味でもこれぞ日本の高級車ならではのホスピタリティーと言われ、「こんなことばかりやってるから日本車は……」と冷笑する向きもあった。それが今ではメルセデス、BMW、アウディのドイツ御三家やキャデラックなどの高級車がこぞって採用しているのだから、先のことはわからない。
というわけで、主に1980年代に登場した日本車のアメニティー装備を紹介してきた。ほかにもまだまだおもしろいアイテムはあるので、またの機会をお楽しみに!
(文=沼田 亨/写真=日産自動車、トヨタ自動車、マツダ、本田技研工業、三菱自動車工業/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
-
世界遺産・高野山で大型電動バス「BYD K8」の営業運行がスタート その狙いとは?NEW 2026.5.7 和歌山の南海りんかんバスが、世界遺産・高野山でBYDの大型電動バス「K8」の運行を開始した。現地にPHEV「BYDシーライオン6」で向かい、実際に高野山を巡るルートで電動バスに乗車しながら観光地における電動バスの役割を考えた。
-
バンコクモーターショー訪問記 「ランドクルーザー“FJ”」目当てに出かけた先で起きた大事件 2026.5.6 年に2度開催され、毎回盛況のバンコクモーターショーをライターの工藤貴宏が訪問。お目当てはついに正式発表&発売の「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」だったのだが、現地では数十年ぶりとなる大事件が起きていた。会場の様子とともにリポートする。
-
業績不振は想定内!? 名門ポルシェはこの先どうなってしまうのか? 2026.5.4 2025年から思わしくない業績が続くポルシェ。BEVの不振やMRモデルの販売終了などがその一因といわれるが……。果たして、名門に未来はあるのか? 事情をよく知る西川 淳が、現状と今後の見通しについて解説する。
-
世紀の英断か 狂気の博打か 「日産サクラ」の値下げに踏み切った日産の決断を考える 2026.5.1 日産の軽乗用電気自動車「サクラ」が、180kmの航続距離はそのままに値下げを断行! デビューから4年がたつというのに、性能はそのままで大丈夫? お手ごろ価格というだけでお客は戻ってくるのか? 電気自動車のパイオニアが下した、決断の成否を考える。
-
BMWの新世代BEV「i3」の姿からエンジン搭載の次期「3シリーズ」を予想する 2026.4.30 「iX3」に続き、完全な電気自動車として登場した新型「i3」。BMWはノイエクラッセをプロジェクトの御旗に電動化を推進しているが、同社の伝統たる内燃機関搭載車「3シリーズ」のゆくえやいかに。 i3の成り立ちからその姿を予想する。
-
NEW
第960回:レクサスは欧州人のマナーを変えた? 「ミラノ・デザインウイーク2026」の自動車ブランド出展から
2026.5.7マッキナ あらモーダ!イタリア・ミラノで世界的なデザインの祭典「デザインウイーク」が開催された。アウディ、レクサス、ルノー、イタルデザイン……と、自動車関連の出展も数多く見られた会場の様子を、伊在住の大矢アキオがリポート。今回はどんな展示が注目を集めていたのか? -
NEW
世界遺産・高野山で大型電動バス「BYD K8」の営業運行がスタート その狙いとは?
2026.5.7デイリーコラム和歌山の南海りんかんバスが、世界遺産・高野山でBYDの大型電動バス「K8」の運行を開始した。現地にPHEV「BYDシーライオン6」で向かい、実際に高野山を巡るルートで電動バスに乗車しながら観光地における電動バスの役割を考えた。 -
NEW
三菱デリカD:5 P(前編)
2026.5.7あの多田哲哉の自動車放談さまざまなクルマの開発を取りまとめてきた多田哲哉さんが今回試乗するのは、年々人気が高まりつつある三菱のミニバン「デリカD:5」。その最新型に触れて、多田さんの印象に残ったこととは? -
ジープ・アベンジャー4xeハイブリッド アップランド(4WD/6AT)【試乗記】
2026.5.6試乗記ジープのなかでも最も小柄な「アベンジャー」に、4WDのマイルドハイブリッド車「4xe」が登場。頼りになるリアモーターと高度なマルチリンク式リアサスペンションを備えた新顔は、いかなる走りを見せるのか? 悪路以外でも感じられる、その恩恵を報告する。 -
第111回:新型BMW i3(後編) ―BMWの挑戦が浮き彫りにした、BEVセダンのデザイン的課題―
2026.5.6カーデザイン曼荼羅BMWが発表した新型「i3」は、スポーツセダンの世界的ベンチマーク「3シリーズ」の電気自動車(BEV)版ともいうべきモデルだ。彼らが思い描く、BEV時代のセダンの在り方とは? そこから浮かび上がる、未来のセダンの課題とは? カーデザインの識者と考えた。 -
バンコクモーターショー訪問記 「ランドクルーザー“FJ”」目当てに出かけた先で起きた大事件
2026.5.6デイリーコラム年に2度開催され、毎回盛況のバンコクモーターショーをライターの工藤貴宏が訪問。お目当てはついに正式発表&発売の「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」だったのだが、現地では数十年ぶりとなる大事件が起きていた。会場の様子とともにリポートする。

















