ボルボV90 B6 AWDインスクリプション(4WD/8AT)
500kmでは走り足りない 2020.11.27 試乗記 48Vマイルドハイブリッド搭載の「ボルボV90 B6 AWDインスクリプション」で、古都・金沢まで約650kmの道のりをロングドライブ。高速道での快適性やボルボが誇るADAS「インテリセーフ」の実用性に加え、燃費性能もチェックした。新世代のフラッグシップ
東京から金沢までのロングドライブ。ボルボ恒例の長距離試乗会である。片道は新幹線で、往路か復路のどちらかをボルボで走るというプログラムだ。一般的な行程では約500kmだからノンストップで走り続けても6時間以上はかかる。結構な長旅だが、ボルボとしては比較的マイルドなコース設定といっていい。3年前には北海道の新千歳空港を基地として1000kmを走破する試乗会が開催されていたのだ。
試乗したV90は「XC90」と並ぶボルボのフラッグシップ。電動化戦略の一環としてパワートレインを一新したモデルが2020年10月から登場している。これまであったディーゼルエンジンの「D4」やガソリンエンジンの「T5」「T6」は廃止。ボルボはすでに純内燃機関は使わないと宣言している。新たに採用されたのが、48Vマイルドハイブリッドシステムを搭載した「B5」とB6である。さらに、以前「Twin Engine」と呼ばれていたパワーユニットは、「リチャージプラグインハイブリッド」とわかりやすい呼称になった。
途中で撮影したり休憩をとったりすることを考え、余裕を持って朝7時のスタートになった。まずは東京駅付近で撮影する。試乗車はB6の「R-DESIGN」だと聞いていたのだが、事前に資料で見たフロントマスクと違うような……。ちょっとした手違いで、用意されたのはインスクリプションだった。結果としては、ラッキーだったとも言える。足まわりを固めたR-DESIGNより、充実した快適装備を持つインスクリプションのほうが長距離運転には好都合だ。運転席にはマッサージ機能まで付いている。
R-DESIGNとインスクリプションは、車両価格がまったく同じである。方向性が違うだけで、グレードとしては同等なのだ。最廉価モデルの「B5モメンタム」も含め、あくまで選択は好みの違いで分かれているのだという。カジュアルなモメンタム、スポーティーなR-DESIGN、快適なインスクリプションというすみ分けだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
紅葉を眺める余裕のドライブ
関越道から金沢を目指す。GoToキャンペーンのせいか交通量は多め。ゆったりとした流れに乗って走ることにした。刺激的なドライブとはならないが、決して退屈ということではない。余分な神経を使わずに運転できることが、高速道路の巡航では何よりの美点となる。日常的な道でのありふれた状況で、さり気なくポテンシャルを発揮するクルマなのだ。
急ぐ旅ではないので、ACCをセットして左車線を悠々と走る。血気盛んなドライバーが運転するSUVが白黒ペイントのセダンに停車させられるのを横目に見ながら、安楽な運転を決め込んだ。ボルボは時代遅れのスピード競争からすでに離脱している。新しいV90は最高速度が180km/hに制限されており、さらに低速でリミッターが作動するように設定できる「ケアキー」が付属している。先進安全機能の「インテリセーフ」がフル装備されているのはもちろんだ。
安心して運転の一部をクルマに委ねておけるので、車窓からの景色を眺める余裕がある。上信越自動車道に入って北上するにつれ、山々が色づいていくのがわかった。目をつり上げて運転していたら、紅葉を楽しむことはできない。サンルーフの恩恵を受けられる後席は、上質なくつろぎの空間だ。開放感あふれる視界が開けていて、レッグルームにも十分なゆとりがある。3人乗車なら余裕だ。荷室の広さは過剰なほどで、1泊用の荷物とカメラ機材を積んでも半分以上のスペースが空いていた。
紅葉の盛りが過ぎた山々が茶色くなってくると、その向こうに雪をかぶった山脈が見えてきた。巨大な壁のようにそびえているのは立山連峰である。突っ切っていくのはもちろん無理で、道はいったん東へと向かって妙高山を迂回(うかい)していく。
その前に、高速を降りて野尻湖を目指した。湖畔をのんびりと走るのかと思ったら、道は次第に上り坂になって山の中へ。ワインディングロードではあったがすれ違うのが難しい狭さで、スポーツ走行は不可能。ただ、前方視界がいいのでさほどストレスは感じずに済んだのはありがたかった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
金沢市内では一苦労
再び高速道路に乗って、しばらく進むと日本海が見えてきた。村上春樹の長編小説『騎士団長殺し』では、主人公が東京から関越道で新潟まで走る。夜を徹して運転し、明け方に日本海に着いた。マニュアルトランスミッションの「プジョー205」に乗っていたから、疲労は激しかっただろう。ある理由で彼にとってはギアシフトを繰り返しながら運転することが救いになっていたのだが、ボルボV90に乗っていたらストーリー展開は違うものになっていたかもしれない。
海辺のレストランで食事休憩をとるまで約350kmをひとりで運転しても、ほとんど疲労感はなかった。終点まで行けそうだったが、海鮮を味わった後は交代して後席へと移る。乗り心地は申し分ない。体をしっかり支えてくれるシートに身を委ね、スマホのプレイリストをシャッフル再生して聴いていたらだんだん眠くなってきた。秋の北陸としては望外の天気に恵まれ、降り注ぐ陽光に包まれてしばしまどろむ。運転するのもいいが、後席は極楽である。
金沢市に到着し、撮影のために茶屋街へ向かう。再び運転席に座ると、今度は高速道路のようにはいかなかった。加賀百万石の頃の面影が残る町並みは、現代の交通に適合しているとは言いがたい。金沢駅から近い繁華街の道も、十分な幅を確保できていないのだ。高速巡航では穏やかでしっとりした乗り味を提供してくれた大柄なボディーだが、古都の道では持て余してしまう。1890mmという全幅は、金沢の道路ではツラいサイズだ。乗り合いバスが横に並ぶと、助手席から悲鳴が上がった。
茶屋街ではもっと大変な目に遭った。うっかり路地に入り込んだら、行き止まりで立ち往生。ナビ画面では通れそうに見えても、全長5mに迫る巨体では曲がれない角がある。車両の全周風景を映し出す360°ビューカメラがなかったら悲惨なことになっていただろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
日没間近の砂浜を走る
移動に手こずったせいで、予定の時間をオーバーしてしまった。急いでもうひとつの撮影スポットに向かう。千里浜なぎさドライブウェイだ。クルマが走行できる砂浜の道路である。40kmほど離れた羽咋市まで移動しなければならない。ナビに目的地を設定すると、到着時刻はほぼ日没と同時。なんとか日が沈む前にたどり着きたいが、間に合うかどうか。
市内は混雑していてヤキモキしたが、のと里山海道に乗ったら交通量は少なくスムーズに走行。砂浜にたどり着いたのは、日没の10分ほど前だった。安心して高速道路を飛ばせるクルマは、こういう時に真価を発揮する。なぎさドライブウェイはいつも走れるわけではなく、強い風や波があると通行止めになるらしい。この日は快晴でコンディションは良好だった。
細かい粒の砂が海水を吸って固まっていて舗装道路と同じように走れるが、波打ち際には柔らかい部分もあるという。V90 B6 AWDインスクリプションはその名の通り4輪駆動で、間違ってもスタックすることはない。そういえば、15年前にもボルボでこの道を走ったことがある。「V70」「XC70」「XC90」の特別仕様車「オーシャンレースリミテッド」だった。世代は変わったが、ボルボは今も昔も日本海に映えるクルマだ。
撮影を終えて宿に帰る前にガソリンスタンドに寄った。約650kmの道のりだったが、一度も給油することなく走り切った。高速道路走行が多かったとはいえ、この堂々たるクルマの燃費が約11km/リッターというのは立派である。
一泊して、帰りは新幹線に乗った。東京までの所要時間は約3時間半。鉄道の旅もいいものだ。クルマより速いし、駅弁を食べながらビールを楽しむこともできる。ただ、帰路もボルボV90に乗ったならば、さらに自由で充実した愉楽の時を過ごせたのではないかとの思いが湧いてきたことも確かなのだ。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ボルボV90 B6 AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4945×1890×1475mm
ホイールベース:2940mm
車重:1950kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(220kW)/5400rpm
エンジン最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2100-4800rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)/3000rpm
モーター最大トルク:40N・m(4.1kgf・m)/2250rpm
タイヤ:(前)255/40R19 100W/(後)255/40R19 100W(コンチネンタル・スポーツコンタクト5)
燃費:11.4km/リッター(WLTCモード)
価格:884万円/テスト車=987万1650円
オプション装備:メタリックペイント<プラチナムグレーメタリック>:9万2000円/チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(23万円)/Bowers & Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1400W、19スピーカー>サブウーハー付き(36万円)/電子制御リアサスペンション、ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(26万円) ※以下、販売店オプション<工賃含む> ボルボドライブレコーダー<フロント&リアセット>(8万9650円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1890km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:649.3km
使用燃料:59.2リッター(ハイオク)
参考燃費:10.9km/リッター(満タン法)/11.1km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。