アウディS8(4WD/8AT)
ウルトラなアウディ 2020.12.11 試乗記 アウディの「技術による先進」というスローガンを体現するスーパーセダン「S8」に試乗。最高出力571PSのマイルドハイブリッドと「クワトロ」と呼ばれるAWD、そしてサーチした路面情報を基に自動制御する最先端のアクティブサスが織りなす、その走りとは?VIPの皆さまにおすすめ
本来ならまともに取り合うような話ではないのだけれど、なんだか「センチュリー」がかわいそうなので少々お付き合いいただきたい。どこかの偉い人のせいで話題に上り、無駄遣いの象徴のように取りざたされるのは、まったくとばっちりもいいところだろう。
確かに庶民感覚からすれば2000万円はとんでもない金額だが、トヨタの、いや関東自工(現トヨタ自動車東日本)の匠(たくみ)たちが精魂込めた日本を代表するフォーマルサルーンとしては決して不合理な値段ではない。道理に合わないのは、今どき山道が多いとか、馬力があって故障しないとか、愚にもつかない強弁をする県知事さんのほうだ。こういうのを烏滸(おこ)の沙汰という。そもそも公用車なのだから予算があって当たり前。どうしてもセンチュリーに乗りたいならば、自分で買って乗ればいいだけの話である。
ところで、本当に高級車が必要なVIPにはおすすめのクルマがある。馬力があって快適で環境性能にも優れた公用車の車種選択に悩んでいるならば、ぜひこのアウディS8をご検討いただきたいと思う。特に腰痛に苦しんでいるとか、年のせいで身をかがめることがつらい、などという問題を抱えている知事さんや議長さんなどにはうってつけではないだろうか。
何しろ、ドアを開けるとその瞬間、スイッとボディーが持ち上がる。この新型S8にはベース車たる「A8」にも設定されている「プレディクティブアクティブサスペンション」が標準装備されているのだ。「レンジローバー」などには乗降性を高めるために車高を低くする機能が付いているが、S8は逆に車高を40mmほど持ち上げる。しかも上がる時はシュワッと瞬時に、下がる時はスーッとゆっくりである。もちろん、急峻(きゅうしゅん)な山間部など歯牙にもかけない高性能とクワトロシステム、さらにレベル3自動運転さえ視野に入れた最新鋭の安全装備が備わっているから、現場へ急行するには最適だと思うのである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
技術による先進の見本
4世代目となる新型S8は、前述の通りアウディの旗艦セダンA8をベースにした高性能モデルで、正真正銘のフラッグシップというべき高性能ラグジュアリーサルーンである。アウディといえば端正で洗練されたカッコ良さだけが注目されがちで、あまりにカッコ良すぎるせいで「自分には無理」と引いてしまう人も多いのではないだろうか。
だが、そのスーパーエリートな雰囲気は、極めて高度で精密なエンジニアリングに裏付けされている。くだんの県知事さんを含めて、そういう人にこそ、アウディの神髄はひたむきな技術信仰にあると言いたい。S8は、半世紀近く使われているあの有名なブランドスローガン「Vorsprung durch Technik」(日本語では「技術による先進」)を体現するものである。
プレディクティブアクティブサスペンションの「プレディクティブ」とは予測できるという意味だが、実はこのシステムこそ新型S8が満載する最新技術の真打ちともいえるものだ。ベースモデルのA8にも電子制御可変ダンパーに加えてマルチチャンバー式のアダプティブエアサスペンションが標準装備されるが、さらにプレディクティブアクティブサスペンションになると、4輪のスタビライザーリンクに備えられた電動モーターがホイールストロークを個別にコントロールするという。最大1100N・mという強力なモーターはマイルドハイブリッド用の48V電源で駆動される。
アクティブサスペンションという名前自体は以前から使われているが、S8のシステムはカメラに加えてフロントグリル下に備わるレーザースキャナーのデータも活用するのが最大の特徴だという(市販車へのレーザースキャナー装備はアウディが世界初)。電動駆動ゆえの素早く緻密な制御も大きなメリットだ。
ちなみに、カメラとミリ波レーダーに加えてレーザースキャナーのデータを“フュージョン”することで、完全自動運転にさらに一歩近づく(レベル3相当)というのがS8/A8の大きなトピックだったのだが、本国ドイツでも法整備が整わずまだ市場投入されていない。現状でも隣のレーンから急に割り込まれるような場合にレーザースキャナーは威力を発揮し、さらに車両全周を監視する各種センサーが側面衝突の可能性を検知した場合には、衝突される恐れのあるボディー側の車高を80mm上昇させ、より強固なサイドシル部分で衝撃を受け止めてダメージを軽減するシステムも備わっている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
これぞマジックカーペット
スタンダードのA8は、スピードが増せば増すほどしなやかさとフラット感が強調されるタイプでもちろん快適だが、低速では路面の凸凹をコツコツと律義に伝えることもあった。だがS8は、特にドライブセレクトに加わった乗り心地最優先の「ショーファー」モードを選ぶと、低速でもこれまでに経験したことがないほど滑らかに、遠くでかすかに聞こえてくる程度に路面の不整をやり過ごしていく。
いっぽう「ダイナミック」モードではコーナリング時にはまるで逆ロールしているかのように(実際に一定条件下では“カーブチルティング”が作動する)、フラットな姿勢を維持、横Gだけが高まっていく。
人によってはロールしないことに最初は違和感を覚えるかもしれないが、フラットさのレベルはあらかじめ設定することも可能だ。何しろ、このクルマはダイナミックオールホイールコントロール(4WS)に加えて、トルセンデフの進化型のセルフロッキングセンターデフを使う正統派のクワトロであり(通常時は前後40:60、状況に応じて最大70:30から15:85まで可変制御)、リアにはスポーツデフも備わっている。
最近では電子制御クラッチを採用する“クワトロ”も増えてきているが、4輪が常に機械的に結ばれているクワトロは、コンディションが過酷になればなるほどその真価を発揮する。山間部が多い県の知事さんなら、その走破性は必須のはず……いや、もうこの辺にしておきます。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
洗練の力ぞ技ぞ
2基のツインスクロールターボをVバンクの内側に収めた4リッターV8直噴ツインターボエンジンは、フォルクスワーゲン/アウディグループ内で広く利用されているものだ。「ランボルギーニ・ウルス」ほどではないが、ポルシェの「カイエン ターボ」用よりもさらに強力な最高出力571PS(420kW)/6000rpmと最大トルク800N・m(81.6kgf・m)/2000-4500rpmを発生する。
これはA8の最強力版「60 TFSIクワトロ」用ユニットよりも111PSと140N・m強力だ。しかも48V駆動のBAS(ベルト駆動オルタネータースターター)を備え、クルージング時には頻繁にコースティングするし(しかもエンジン停止とエネルギー回生を巧妙に使い分ける)、V8の半分の気筒を休止するシリンダーオンデマンドも付いている。
ボディーはアルミニウムやCFRPなどを多用する最新のASF(アウディスペースフレーム)構造である。全長ほぼ5.2m、ホイールベース3mという巨大な4WDサルーンだけに車重はおよそ2.3tにも及ぶが、フルスロットルを与えると野太く迫力満点の音とともに猛烈な加速を見せる。0-100km/h加速は3.8秒という。
だが、フラッグシップサルーンとしてのS8の神髄はその高性能と、這(は)うような速度でも徹頭徹尾滑らかに静かに走る上品な挙動を両立させていることだ。ふさわしい人が適切に使えばとんでもないパフォーマンスを発揮する。それでいて価格はこちらも2000万円程度である。リーズナブルというよりお値打ちではないだろうか。
(文=高平高輝/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
アウディS8
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5185×1945×1475mm
ホイールベース:3000mm
車重:2290kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:571PS(420kW)/6000rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)/2000-4500rpm
タイヤ:(前)265/35ZR21 101Y/(後)265/35ZR21 101Y(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
燃費:7.8km/リッター(WLTCモード)
価格:2010万円/テスト車=2269万円
オプション装備:エアクオリティーパッケージ(9万円)/パノラミックルーフ(25万円)/アシスタンスパッケージ<アダプティブウインドスクリーンワイパー、センターエアバッグ>(15万円)/Bang & Olufsen 3Dアドバンストサウンドシステム<23スピーカー>(82万円)/カラードブレーキキャリパー<フロント&リア>(15万円)/コンフォートパッケージ<インディビジュアル電動シート[リア、3人乗車]+コンフォートヘッドレスト[リア]+ランバーサポート[リアサイドシート]+マトリクスLEDインテリアライト+リアシートリモート+リアミュージックインターフェイス>(40万円)/アルカンターラヘッドライニング<ブラック>(25万円)/HDマトリクスLEDヘッドライト アウディレーザーライトパッケージ<アウディレーザーライト+OLEDリアライト>(48万円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1240km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:271.9km
使用燃料:40.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.7km/リッター(満タン法)/7.0km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。




































