アウディS8プラス(4WD/8AT)
エリート主義の極み 2016.07.07 試乗記 アウディの高性能セダン「S8」をベースに、動力性能に一段と磨きをかけた「S8プラス」が登場。最高出力605ps、300km/hオーバーの最高速度を豪語する、スーパーセダンの走りやいかに? その走りの印象を詳しく報告する。何もかもがスーパースポーツ
いまさら衝撃を受けていてはいけないのだが、アウディS8プラスは衝撃だ。なぜならこのクルマは、「4ドアのスーパースポーツ」そのものだから。昔からその種のクルマは存在したが、これほどまでに何もかもがスーパースポーツなセダンは、なかったように思う。
背景には、スーパースポーツの乗り味が恐ろしいほどコンフォート寄りになりつつある結果、両者の乗り味が必然的に接近しているという事実もあるが。
例えば、ほぼ同じ4リッター(正確には3902cc)のV8ターボエンジンを積む「フェラーリ488GTB」とこのS8プラスを乗り比べたら、488GTBの方がよりコンフォートであり(レースモードであっても!)、対するS8プラスは、あらゆるモードでよりソリッドかつダイレクトな乗り味を提供する……という結論になりかねない。とんでもない逆転現象である。
もともとアウディのフラッグシップセダンは、S8でさえ520psをたたき出していた。パワーだけ見れば完全にスーパースポーツなのだが、スーパースポーツの方も尻に火が付きパワーアップを続けているため、もはや520ps程度では満足できないオーナーもいよう。少なくともアウディ本社は満足しなかった。そして一気に85psもパワーアップさせ、600psの大台に乗せた。オーバーブースト時のトルクは76.5kgmに達する。素のS8からの価格アップは226万円となっている。
特別な気配は皆無
ただし、V8エンジンの排気量は4リッターのままだ。よって「プラス」のプラス85psは、ヘッドガスケット強化、エキゾーストバルブのモディファイ、ツインターボのブースト圧アップ、そしてレブリミットを200rpm高くしたことなどで盛られている。1気筒あたりの最適容量といわれる500ccを守ったのは、レーシーな味わいを維持するためだとすれば、実にスーパースポーツ的ではないか。
駆動方式はもちろんクワトロ。そのセッティングは、標準時でフロント4割、リアに6割。しかるべき時には、リアにトルクの8割を集中させることもできる。こっちは完全にスーパースポーツ的だ。
トランスミッションは、8段ティプトロニックAT。インゴルシュタットは数年前からSトロニックの限界を悟ったのか、ハイパワーモデルにはトルコンATを採用している。どうやらデュアルクラッチ対トルコンの戦いは、トルコンの最終勝利に終わったらしい。
605psに対する車両重量は2110kg。さすがにスーパースポーツより重めだが、もはやスーパースポーツのよりどころはそこだけといってもいい。
で、その乗り味はというと、普通に走っている限り「かなりソリッドな乗り味のスポーツセダン」というのみで、特別な気配は皆無だ。「A8」の「3.0 TFSI」とも大差ない。
飛ばさなくても伝わる実力
インテリアも同様で、ステアリングはアウディらしいやや握りの細い繊細なもの。インテリアは革とカーボンとツヤ消しアルミニウムのテンコ盛りだが、ダイヤモンドが埋め込んであるわけでもなくひたすらクール。アウディの頂点に立つフラッグシップセダンと思えば特別感は薄い。拍子抜けでさえある。
しかし、いったんアクセルを深く踏み込めば、それはまさにスーパースポーツ。化け物としか言いようのない加速を見せる。
トルク特性をあえて描写すると、520psのS8が中速トルク型で真ん中が太ったタイプだったとすれば、S8プラスは全域型。トップエンドまでまったくタレがないズン胴タイプだ。たびたび引き合いに出して申し訳ないが、フェラーリ488GTBはあえて低いギアの真ん中部分を痩せさせ、トップエンドにかけての上昇感(自然吸気感)を演出しているが、S8プラスのズン胴タイプでも十分自然吸気的な抜けがあって気持ちいい。
0-100km/h加速は3.8秒、最高速度はリミッターがなければ305km/h出るらしい。日本の公道での試乗では、アクセルを床まで踏めるのはほんの一瞬のことで、その真価を味わうのはまるで不可能だが、一瞬でも十分に恐るべきパフォーマンスは伝わってくる。
フラッグシップセダンらしく、サウンド面の派手な演出は控えられているが、8段ティプトロニックをSモードにすると、アクセルオフでのアフターファイア的な破裂音がキャビンにかすかに届き、「脱いだらすごいんです」というメッセージを上品に伝える。
ライバルの「メルセデスAMG S63」と比較すると、こちらは1気筒あたり500ccという小排気量が効いて、レスポンスがソリッドかつシャープである。やはりS8プラスのエンジンはスーパースポーツのそれであり、5.5リッターのAMG 63系は究極の旦那スポーツのようだ。
自然体な「別格」
前述の通り、サスペンションは488GTBより微妙にソリッドかつダイレクトなので、大地を踏ん張る巨大なトレッド+クワトロの強大なトラクションによって、605psの炸裂(さくれつ)を持て余すことはない。ただし全幅1950mmのボディーいっぱいまで張り出した巨大な21インチホイールは、スーパースポーツ的な慎重な扱いを必要とするので注意したい。
このクルマはアウディの目指す世界を体現しているように思える。これほどのパフォーマンスを持ちながら、エクステリアの演出は極力控えめで、リアのバッジも「S8」のみ。「plus」の文字はない。ルックス的には「RS」系の方がはるかに派手である。ボディーカラーのツヤ消しシルバー(正確には「フロレットシルバー マットエフェクト」。オプション価格77万円)が最大のスペシャル感に思えたが、これとてS8プラスだけの特別色というわけではない。
乗り味も、普通に走る限りすべてが自然で特別感は薄い。踏んでもすべてを自然にいなして何事も起きないため、特筆すべきことは皆無に近い。あえてドラマ性を排除したかのようだ。
例えば、ブレーキにはカーボンセラミックローターを採用している。セラミックローターといえば、かつて「エンツォ・フェラーリ」では「ローター交換400万円」と恐れられたものだが、このクルマではそれがまったく当たり前の身だしなみのような自然な利きを提供しており、もはや注目点ですらない。
このクルマのコックピットに身を沈めてエンジンスタートボタンを押し、格納式のナビがせり出すのを眺めつつ、2000万円オーバーのフラッグシップセダンとしては抑えたインテリアの中に身を置くと、実にスノビッシュな優越感を得られる。恐ろしく静かな室内にくつろいで流しもよし、おもむろにATをSモードに入れアクセルを踏み込んでもよし。いずれにせよ、パワフルゾーンに属する男のなんたるかを周囲に見せつけられる。
一言で表現すれば、「自然体のふりをした、完全無欠の上から目線」。これこそエリート主義の極みだろう。
(文=清水草一/写真=郡大二郎)
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テスト車のデータ
アウディS8プラス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5145×1950×1455mm
ホイールベース:2995mm
車重:2110kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:605ps(445kW)/6100-6800rpm
最大トルク:71.4kgm(700Nm)/1750-6000rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y/(後)275/35ZR21 103Y(ダンロップSPORT MAXX GT)
燃費:9.4km/リッター(JC08モード)
価格:2008万円/テスト車=2261万円
オプション装備:オプションカラー<フロレットシルバー マットエフェクト>(77万円)/プライバシーガラス ダブルアコースティックグレージング(16万円)/リアスポイラー<カーボン>(12万円)/Bang&Olufsenアドバンストサウンドシステム(86万円)/ナイトビジョン(35万円)/ヘッドアップディスプレイ(22万円)/ アルミホイール 5ダブルアームデザイン アンスラサイトグロスブラック ポリッシュト 9J×21<Audi Sport>(5万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1921km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:243.1km
使用燃料:33.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/7.4km/リッター(車載燃費計計測値)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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