フォルクスワーゲンTロックTDIスタイル デザインパッケージ(FF/7AT)
加速する電脳化 2021.01.12 試乗記 次世代インフォテインメントシステム「ディスカバーメディア」と、それに連携するオンラインサービス「ウィーコネクト」を新たに搭載した「フォルクスワーゲンTロック」。使いやすいサイズ感や多用途性などの特徴に加わった“つながるクルマ”の利便性を、実際に試してみた。SUVが躍進した2020年
フォルクスワーゲンの2020年を振り返ると、「T」から始まる名前のモデル、すなわち、SUVが躍進した一年といえる。正統派SUVの「ティグアン」に加えて、2020年1月に発売されたコンパクトSUVの「Tクロス」、2020年7月に導入されたクロスオーバーSUVのTロックの3モデルが販売を伸ばし、1月から11月までのSUV比率は約4割を占めるという。
輸入車モデルランキングでも、2020年7〜9月期は2位の「ゴルフ」、6位の「ポロ」に加えて、4位にTクロス、10位にTロックが名を連ね、フォルクスワーゲンはトップ10入りしたモデルが最も多いブランドとなった。2021年は新型ゴルフをはじめ待望のニューモデルが続々と登場する予定だけに、輸入車ブランドNo.1に返り咲く日は近いかもしれない。
それはさておき、名前が似ているTクロスとTロックは、その違いがいまひとつわかりにくいという人が少なくないようだ。大ざっぱに言えば、Tクロスがポロクラス、TロックがゴルフクラスのSUV。もう少し詳しく言うと、同社のポロに近いコンパクトなボディーサイズながら、スペースユーティリティーを重視したのがTクロスで、一方、ゴルフに近いサイズでスポーティーなデザインに仕上げられたのがTロックということになる。
エンジンは、Tクロスが1リッター直3ターボを、Tロックが2リッター直4ディーゼルターボをそれぞれ搭載し、駆動方式はともにFFを採用する。4WDが欲しい人にはティグアンを用意しており、イメージとしては真面目な長男のティグアン、わが道を行く次男のTロック、抜け目のない三男のTクロスという位置づけだろうか。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
Tロックのおすすめグレードは?
フォルクスワーゲンSUV三兄弟の中から、今回試乗したのは次男のTロック。そのラインナップは、「TDIスタイル」「TDIスタイル デザインパッケージ」「TDIスポーツ」「TDI Rライン」の4つで、最高出力150PS、最大トルク340N・mの2リッター直4ディーゼルターボと7段デュアルクラッチトランスミッションというパワートレインは共通だが、タイヤサイズをはじめ、装備やデザインが異なっている。試乗車のTDIスタイル デザインパッケージは、ホワイトルーフのツートンカラーが選べるのが一番の魅力である。
早速走りだしてみると、1750rpmの低回転から最大トルクの340N・mを発生する2.0 TDIを積むTロックは動き出しが軽く、アクセルペダルに乗せた右足をさほど踏み込まなくても十分な加速をみせてくれるので、一般道ではとても扱いやすい。ディーゼルエンジン特有のノイズはそれなりに耳に届くが、スピードが上がればあまり気にならない。高速道路の合流や追い越しの場面では、力強い加速が4000rpmを超えるまで持続し、十分な速さを持つことが確認できた。
一方、Tロックの走りっぷりは、見た目から想像する以上に軽快で、高速走行でのフラットライドも好印象である。TDI Rラインが225/40R19、TDIスポーツが215/50R18サイズのタイヤを装着するのに対し、このTDIスタイル デザインパッケージは215/55R17タイヤを履くぶん乗り心地はとても快適で、目地段差を越えたときのショックも軽くいなしてくれる。ホワイトルーフのツートーンペイントが爽やかな印象を与えてくれるということもあって、個人的にはこのTDIスタイル デザインパッケージが一番のおすすめグレードではないかと思う。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テレマティクスサービスが進化
そんなTロックに標準装着される純正ナビゲーションシステムが、2020年12月発売ぶんから新しくなった。従来の「ディスカバープロ(Discover Pro)」が「ディスカバーメディア(Dicover Media)」になったが、見た目はこれまでと同じで、何が変わったかわからない。しかし、中身は従来の「MIB2」から「MIB3」へと進化し、新しいオンラインサービスの「ウィーコネクト(We Connect)」に対応することになった。
フォルクスワーゲンはこれまで「カーネット(Car-Net)」と呼ばれるオンラインサービスを提供してきた。これを使えば、純正ナビゲーションシステムから、Googleによるオンライン施設検索を利用したり、駐車場の満空情報やガソリンスタンドの価格情報をチェックしながら目的地を設定したり、オンラインの交通情報を利用できたりと、なかなか便利だった。ただ、これらを利用するにはスマートフォンやモバイルWi-Fiルーターなどと接続する必要があった。
これに対し、新しい純正ナビゲーションシステムには、eSIMを内蔵した通信ユニットが搭載されており、スマートフォンやモバイルWi-Fiルーターなしで、ネットへの常時接続が可能になった。さらに、新サービスのウィーコネクトに対応したことで、これまでの機能に加えて、さまざまな新機能も搭載されているのである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
地図更新が自動に
なかでもうれしいのが「オンライン地図更新」だろう。これまでディスカバープロの地図を更新するには、フォルクスワーゲンの公式サイトからデータをダウンロードし、SDカードやUSBメモリーを使ってディスカバープロの地図をアップデートしていたが、新しい純正ナビゲーションシステムとウィーコネクトの組み合わせなら、ふだんクルマがあるエリアの地図はオンラインで自動的に内容が更新され、また、他のエリアにドライブしたときには、新しい情報があれば必要に応じて地図がアップデートされる。これにより、常に最新の地図で目的地検索ができるようになるのだ。
さらに、クルマと常時つながっていることから、ウィーコネクト専用のスマートフォンアプリを使って、ドアやウィンドウ、ボンネット/テールゲートの開閉状況やライトの消し忘れなどが確認できる。ドアロックに関しては、その状態が確認できるうえ、アプリから遠隔操作で開閉ができるようになった。駐車した場所から離れたあとに、「ドアロックしたかな?」と心配になることがあるが、ウィーコネクトを使えばすぐに不安は解消。ネットワークを経由するため、アプリを操作してから施錠/解錠がワンテンポ遅れるのはご愛嬌(あいきょう)である。さらにアプリで駐車位置を知ることもできるので、広い駐車場で迷子になる心配もない。
このほかにも、車両の故障時に、ロードアシスタンスのコールセンターに位置情報などを自動的に通知する「ブレークダウンコール」や、プローブ情報を用いた「オンライン交通情報」といった機能が追加され、ますます便利になったフォルクスワーゲンの純正ナビゲーションシステム。TロックとTクロスを皮切りに、他のモデルにも順次搭載車種を増やしていくということなので、これからフォルクスワーゲンの新車を手に入れようという人は、ぜひ新しいオンラインサービスにも注目してほしい。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
フォルクスワーゲンTロックTDIスタイル デザインパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4240×1825×1590mm
ホイールベース:2590mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:150PS(110kW)/3500-4000rpm
最大トルク:340N・m(34.7kgf・m)/1750-3000rpm
タイヤ:(前)215/55R17 94V/(後)215/55R17 94V(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:18.6km/リッター(WLTCモード)/19.5km/リッター(JC08モード)
価格:404万9000円/テスト車=408万5300円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万6300円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:3380km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。