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ドゥカティ・ムルティストラーダV4 S(6MT)

イタリアの本気 2021.03.26 試乗記 河野 正士 ドゥカティのスポーティーなアドベンチャーツアラー「ムルティストラーダ」シリーズに、最新の「ムルティストラーダV4」が登場。車名の通り、伝統のLツインではなく新型V4エンジンを搭載したこのモデルからは、革新に臨むドゥカティの本気がうかがえた。

走る前から感じられる車体の“軽さ”

V型4気筒エンジンの圧倒的な軽さと扱いやすさ。それによって、2010年以来ムルティストラーダファミリーが掲げてきた「4 Bikes in 1」コンセプトがさらに進化した。それがムルティストラーダV4の試乗を終えての感想である。

ドゥカティが伝統的に採用してきたL型2気筒エンジンよりも、新しいV型4気筒エンジンのほうが軽くて扱いやすい。それは昨2020年11月の発表時にもアピールされていたことだ。しかしLツインエンジンにはスリムさというウリがあったし、2018年から「パニガーレV4」や「ストリートファイターV4」といったハイパフォーマンスモデルに搭載されているV型4気筒エンジンは、文字通りレース直系のユニットである。ドゥカティのV4というとどうしても過激なイメージが先行し、既成概念で固まった筆者の頭では、試乗するまで上述のドゥカティからのインフォメーションが理解できなかった。

試乗会場に並ぶムルティストラーダV4は、紛れもなくムルティストラーダファミリーに属するイメージを保ちながら、エンジンの大きさ、その搭載位置、スイングアームの長さ、シートの高さなどにより、ひと目で前モデルとは違うと判断できるスタイリングを備えていた。そして、いざ走りだそうと車体を起こしただけで、その“軽さ”を実感した。装備重量は243kgと決して軽量ではないはずだが、その数字よりずっと軽く感じる。これこそ、コンパクトな新型エンジン「V4グランツーリスモ」によるところが大きいのだろう。

2021年3月に発売されたばかりの「ムルティストラーダV4」。従来モデルのイメージを踏襲しつつ、エンジンの造形やサイドカウル下方に備わる空力パーツなどにより、ひと目で「新しいモデルだ」とわかる。
2021年3月に発売されたばかりの「ムルティストラーダV4」。従来モデルのイメージを踏襲しつつ、エンジンの造形やサイドカウル下方に備わる空力パーツなどにより、ひと目で「新しいモデルだ」とわかる。拡大
「ムルティストラーダ」シリーズは2003年に誕生。当初はオンロード主体のツーリングバイクだったが、2010年のモデルチェンジで、出力特性が異なるスポーツ、ツーリング、アーバン、エンデューロの4つ走行モードを採用した。
「ムルティストラーダ」シリーズは2003年に誕生。当初はオンロード主体のツーリングバイクだったが、2010年のモデルチェンジで、出力特性が異なるスポーツ、ツーリング、アーバン、エンデューロの4つ走行モードを採用した。拡大
新型のV4エンジンは、従来モデルのL型2気筒エンジンと比べ、幅こそ20mm増えたものの、全長は85mm、全高は95mm小さく、重量も1.2kg軽くなっている。
新型のV4エンジンは、従来モデルのL型2気筒エンジンと比べ、幅こそ20mm増えたものの、全長は85mm、全高は95mm小さく、重量も1.2kg軽くなっている。拡大

軽量コンパクトなV4エンジンの効能

先にも述べた通り、Lツインエンジンはスリムであることがそのメリットだ。しかし、クランクケースから前と上にシリンダーが突き出たその構造から、必然的に長く、背が高いものとなる。対してV型4気筒エンジンのV4グランツーリスモは、短く、低く設計されている。それによってエンジンを車体に搭載するときの自由度が劇的に高まるのだ。バイクの最重量パーツであるエンジンを、安定性と俊敏性を高める理想的な位置に搭載できたのである。車両重量から抱くイメージより車体が軽く感じられる理由はここにある。

この軽量なエンジンと適切な搭載位置は、あらゆる場面でメリットを生み出す。ワインディングロードでみられる、連続する左右の切り返しはもちろんだが、長く旋回状態が続いた後に車体を切り返すようなシーンでも恩恵を感じる。そうしたシーンでは、深く縮んだサスペンションが車体を起こしたときに一度伸び、旋回時の荷重によってまた大きく収縮する。その際、多くの車両ではサスペンションの伸び縮みに車体の重さを感じるのだが、ムルティストラーダV4では、この動きが驚くほど軽い。もちろんそれはサスペンション特性によるところも大きいのだが、今回はライディングモードでサスペンションの特性を変化させても、軽さの印象が大きく変わることはなかった。

もちろん、この重心バランスのよさと軽さは、オフロード走行でもメリットとなる。フラットなコーナーでリアを少し空転させながら走るとき、そこからやや大きめにアクセルを開けてリアタイヤを振り出したとき、車体の動きがわかりやすいのだ。

「V4グランツーリスモ」はスーパースポーツなどに搭載される「デスモセディチストラダーレ」から派生したV4エンジンだが、搭載されるバイクの特性に合わせ、大幅に設計が変更されている。
「V4グランツーリスモ」はスーパースポーツなどに搭載される「デスモセディチストラダーレ」から派生したV4エンジンだが、搭載されるバイクの特性に合わせ、大幅に設計が変更されている。拡大
走行特性を切り替える「ライディングモード」の操作画面。パワートレインの制御に加え、電子制御サスペンション「スカイフック」の設定も変化する。
走行特性を切り替える「ライディングモード」の操作画面。パワートレインの制御に加え、電子制御サスペンション「スカイフック」の設定も変化する。拡大
最低地上高は「ムルティストラーダ1260」より46mm高い220mm。前:170mm、後ろ:180mmのサスペンションストロークや、ハイポジションマフラーの採用とも相まって、高い悪路走破性を実現している。
最低地上高は「ムルティストラーダ1260」より46mm高い220mm。前:170mm、後ろ:180mmのサスペンションストロークや、ハイポジションマフラーの採用とも相まって、高い悪路走破性を実現している。拡大

より理想的な重量配分とジオメトリー

四輪車でも同様だが、バイクでは安定性と運動性能を高めるために、適切なフロント荷重が必要となる。その点において前後に長いL型エンジンは不利であり、ドゥカティは長く、その構造的不利と戦ってきた。近年は解析技術や電子制御技術が格段に進歩し、それらによってさまざまな課題がクリアできるようになったが、かつてドゥカティが玄人好みのスポーツバイクと呼ばれた理由のひとつには、このエンジンが生み出す重量バランスもあったのだ。

一方で、コンパクトなV4グランツーリスモエンジンは、構造的に車体前方に搭載することが可能になり、直接的にフロント荷重を増やすことに成功している。そしてエンジンが車体前方に移動したことで、ホイールベースを延長せずともスイングアーム長を長くとることも可能になった。スイングアームが長くなることでリアホイールの動きに対する車体の反応が穏やかになり、結果的にライダーが車体をコントロールしやすくなる相乗効果も生まれる。スーパーバイク世界選手権など、レースの最前線で戦うドゥカティのスーパースポーツモデルがV型4気筒エンジンを搭載した理由のひとつも、ここにある。

またV4グランツーリスモエンジンは、ドゥカティが1970年代中盤以降、すべての市販車およびレース用エンジンに採用してきたカムとロッカーアームを使って強制的にバルブを開閉する「デスモドロミック」ではなく、スプリング式バルブ開閉機構を採用した久々のエンジンとなった。理由は低中回転域のトルク特性を重視したことと、メンテナンスサイクルの延長だ。しかしそれ以外にも、エンジン上部に位置するシリンダーヘッド内の構成パーツを簡素化することで、エンジン自体の低重心化および慣性重量の軽減を図り、エンジンのマスが車体に及ぼす影響を軽減しようとしたのではないだろうか。

車体の骨格部は、剛体としてのエンジンにアルミ製のモノコックフレームとトレリスサブフレームの組み合わせ。オンロードにおける走行性能や使い勝手と、オフロード性能とのバランスを重視した設計となっている。
車体の骨格部は、剛体としてのエンジンにアルミ製のモノコックフレームとトレリスサブフレームの組み合わせ。オンロードにおける走行性能や使い勝手と、オフロード性能とのバランスを重視した設計となっている。拡大
従来モデルより長さを増した、アルミニウム製の両持ちスイングアーム。走行安定性やコントロール性の向上に寄与している。
従来モデルより長さを増した、アルミニウム製の両持ちスイングアーム。走行安定性やコントロール性の向上に寄与している。拡大
「V4グランツーリスモ」は、動弁機構にドゥカティ伝統のデスモドロミックではなく、スプリングによるリフト/クロージング機構を採用。
「V4グランツーリスモ」は、動弁機構にドゥカティ伝統のデスモドロミックではなく、スプリングによるリフト/クロージング機構を採用。拡大
新しい動弁機構により、「ムルティストラーダV4」はバルブクリアランスの点検・調整が6万kmごと、オイル交換が1万5000kmごとと、二輪車としては驚異的なメンテナンスサイクルを実現した。
新しい動弁機構により、「ムルティストラーダV4」はバルブクリアランスの点検・調整が6万kmごと、オイル交換が1万5000kmごとと、二輪車としては驚異的なメンテナンスサイクルを実現した。拡大
フロントホイールは、穏やかなハンドリング特性とオフロード性能の向上を目指し19インチにサイズを拡大。ホイールの大径化でジャイロ効果は増えたがエンジンの逆回転クランクがそれを相殺する。
フロントホイールは、穏やかなハンドリング特性とオフロード性能の向上を目指し19インチにサイズを拡大。ホイールの大径化でジャイロ効果は増えたがエンジンの逆回転クランクがそれを相殺する。拡大
快適性の向上も「ムルティストラーダV4」の大きなトピック。簡単に高さ調整が可能なウインドシールドや、ライダーの足元に風を送って快適性を高めるウイングなどが装備される。
快適性の向上も「ムルティストラーダV4」の大きなトピック。簡単に高さ調整が可能なウインドシールドや、ライダーの足元に風を送って快適性を高めるウイングなどが装備される。拡大
ハンドルスイッチには、新たにジョイスティック式のコントローラーを追加。夜間の視認性を高めるバックライトも設けられ、操作性が大幅に向上した。
ハンドルスイッチには、新たにジョイスティック式のコントローラーを追加。夜間の視認性を高めるバックライトも設けられ、操作性が大幅に向上した。拡大
従来モデルから全面的な刷新を受けた「ムルティストラーダV4」。二輪車初となる先進運転支援システムの採用もあり、新しい時代へ向けたドゥカティの意気込みを感じさせるモデルに仕上がっていた。
従来モデルから全面的な刷新を受けた「ムルティストラーダV4」。二輪車初となる先進運転支援システムの採用もあり、新しい時代へ向けたドゥカティの意気込みを感じさせるモデルに仕上がっていた。拡大

軽快な走りに寄与するスーパーバイク由来の技術

同時にこのV4グランツーリスモエンジンは、パニガーレV4が搭載する「デスモセディチストラダーレ」エンジンと同じく、タイヤとは逆方向にクランクが回転する“逆回転クランク”を採用している。それによって、タイヤなどが生み出すジャイロ効果を相殺し、さらなる操作性の向上を図っているのだ。これまで前後17インチホイールの装着にこだわってきたムルティストラーダシリーズだが、このムルティストラーダV4ではフロントに19インチを採用している。それでも17インチホイールと比べて遜色のない、軽快なハンドリングを実現しているのには、この逆回転クランクが大きく作用しているものと推測できる。

ムルティストラーダV4が、スポーツモデルであるパニガーレV4と同じ手法を用いて手に入れたさまざまな効能は、スポーツ領域のパフォーマンスだけではなく、長距離を走るツーリングや混雑した市街地、そしてオフロードと、さまざまな走行条件下でメリットを生み出すものに転換されている。

4台のバイクの機能と個性を1台に集約することを意味する「4 Bikes in 1」というムルティストラーダのコンセプトは、これまでドゥカティの伝統的なエンジン形式を踏襲しながら、最新のエレクトロニクスによって実現されてきた。しかしムルティストラーダV4では、その伝統という枠から大きく踏み出し、4つの機能と個性のさらなる伸長を図ったのだ。今回はテストコースでの短い試乗だったが、そのドゥカティの本気度は十分に感じとることができた。

(文=河野正士/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)

◆関連記事:ドゥカティが実現した“バイク初”の運転支援システムを試す

ドゥカティ・ムルティストラーダV4 S
ドゥカティ・ムルティストラーダV4 S拡大
 
ドゥカティ・ムルティストラーダV4 S(6MT)【試乗記】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1567mm
シート高:820/840mm(可変式)
重量:243kg(乾燥重量)
エンジン:1158cc 水冷4ストロークV型4気筒DOHC 4バルブ
最高出力:170PS(125kW)/1万0500rpm
最大トルク:125N・m(12.7kgf・m)/8750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:6.5リッター/100km(約15.4km/リッター)
価格:288万円

河野 正士

河野 正士

フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。

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