第643回:ロングツーリングも安心・快適 ドゥカティが実現した“バイク初”の運転支援システムを試す
2021.03.26 エディターから一言 拡大 |
イタリアのドゥカティが、ボッシュと共同で二輪車初の先進運転支援システムを実用化! バイクでのアダプティブ・クルーズ・コントロールは、ライダーにどのような体験をもたらすのか? 四輪車のそれとはどこが違うのか? 実際に使用して確かめた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
バイク初の2つの機能を搭載
昨今は自動車に搭載される先進運転支援システムの進化が著しいが、いよいよ二輪車にも「ACC(Adaptive Cruise Control/アダプティブ・クルーズ・コントロール)」と「BSD(Blind Spot Detection/ブラインド・スポット検知機能)」が装備されることになった。
先陣を切ったのは、2021年3月13日に国内での販売がスタートしたドゥカティの新型車「ムルティストラーダV4」だ。そして今回、その国内販売に合わせて開催された報道機関向け試乗会で、バイク初のACCとBSDを体験することができた。
一応説明しておくと、ACCとは前車との車間距離を一定に保つようアクセルやブレーキを自動で操作する運転支援システムのこと。BSDは、自車後方の死角に存在する車両、および斜め後方から高速で接近する車両を検知し、両サイドミラー上部のLEDを発光させてライダーに知らせる機能である。四輪ではすでに多数のモデルがこれらの機能を搭載し、ドライバーの安全運転を支援している。
ドゥカティは2018年、2025年に向けた安全に関する中期戦略「2025 Safety Road Map」を公開。ミラノ工科大学のエレクトロニクス/情報/バイオエンジニアリング学部と共同で、レーダーを使ったシステムの開発を進めていること、主要なテクニカルパートナーも選定済みであることや、そして2020年モデルの一部に、ACCとBSDを搭載することを発表した。予定からは少し遅れたものの、2021年モデルの新型車ムルティストラーダV4で、ドゥカティはその約束を果たしたことになる。
二輪独自のセンサーとコントローラーで車体を制御
ドゥカティのアドバンスド・ライダー・アシスタンス・システム(ARAS)の要は、ボッシュ製の中長距離レーダーセンサーであり、それを中心とした複数のコンポーネントである。レーダー本体を含め、システムの根幹をなすのはボッシュの四輪車用システムだが、その他のセンサーやコントローラーなどはバイク独自のものであり、したがってその制御や反応はバイク特有のものだ。
また現在、このボッシュのシステムを使用したACCの搭載をBMWとKTMが、ACCとBSDの搭載をカワサキが発表している。こう聞くと画一的なシステムが普及しそうだが、提供されるハード&ソフトウエアは同じであっても、それをもとに安全性を確保しながらモデルごとのフィーリングをつくり上げるのは各二輪車メーカーである。同じシステムを搭載していても、それらの制御にはメーカーやモデルの特色が表れることだろう。
ムルティストラーダV4のACCとBSDに話を戻そう。このシステムは中距離レーダーセンサーに加え、加減速の度合いや車体の傾きなどといった車体の状態を測定する慣性計測センサーユニット(6軸IMU)、ブレーキシステムを管理するバイク用スタビリティーコントロールユニット(MSC)、エンジンコントロールユニット(ECU)、ライダーに情報の通知を行う「インテグレーテッドコネクティビティークラスター」(メーターディスプレイ)の、5つのコンポーネントによって構成されている。
センサー類によって車両の状態や周囲の状況を正確に把握し、それらの集積データをもとに、ABS、トラクションコントロール(DTC)などとも連携し、車体をコントロールするのである。
操作方法は四輪車のACCそのもの
このように、複雑で高度な制御のもとに車体を操るACCだが、ライダーの操作自体はシンプルだ。あらかじめ30~180km/hの間で速度を、「Near」「Middle」「Far」「Very Far」の4段階から前車との車間距離を設定していれば、「システムON」→「セット」の2回のボタン操作で、ACCがアクティブになる。あとは設定した車間距離を維持しながら、設定した速度を上限に、ムルティストラーダV4は走行を続ける。前車が設定速度よりも低速で走っている場合は、その速度に合わせて減速。前車が加速すれば加速する。また四輪MT車のACCと同じで、そのときのギアがカバーする速度域を出そうになったら、ライダーは自身でギアチェンジする必要がある(クイックシフターがアクティブなので、クラッチ操作なしでシフトアップ&ダウンができる)。むしろ加減速の度合いに合わせてライダーが積極的にギアチェンジしながら走行した方が、スムーズで安全だ。
また前走車が同一車線上から離脱し、前方がクリアになれば、設定速度まで加速してその車速を維持。また前車を追い越そうと右にウインカーを出し、車線を変更すれば、ライダーの意思をくみ取って車線変更後に滑らかに、自動で加速する。もちろんライダー自身がアクセルを開けて加速することも可能だが、そうした状態でもACCのシステムはアクティブのままとなっており、アクセルを戻して加速を終了すると、車体は自動で定速走行/追従走行を再開する。
こうした機能については四輪車のACCと共通だが、ドゥカティのACCでは車体のリーンアングルや加減速による前後方向のG、コーナリング中の横方向のGを6軸IMUが感知。コーナーの曲率を認識し、設定スピードが高すぎると判断したら適切な速度まで自動的に減速する機能も備わっている。
システムのキャンセルも簡単だ。アクセル開度をゼロ状態からマイナス側に戻すような操作をしたり、ブレーキングしたり、長くクラッチを握ったり、ライダーのそのようなアクションでACCは瞬時に終了する。また(日本では試せないが)車速が180km/hを超えたり、ABSやトラクションコントロールが一定時間以上作動したり、車体のリーンアングルが50°を超えたり、ギアごとに設定されるACCの下限速度を5km/h以上下回ったりしたときも、自動的にシステムは終了。ACCをリスタートさせようと思えば、ボタンひとつで設定条件を維持したまま、システムを復帰させることができる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
あくまでも運転“支援”システム
試乗していて驚いたのは、前車が減速したとき、予想していたよりも強くブレーキがかかる場面があったことだ。特に追従している前走車の前にも車両が連なっているような状態では、車列の後ろにいればいるほど減速のタイミングが遅れ、減速区間が短くなり、結果として強く減速しなければならなくなる。そうした場面での自動減速は、振り落とされるようなレベルではないが、予想よりは強いものだった。
この「予想と比べて強い/弱い」という加減速に対する印象は、ライダーによって感じ方が異なるだろう。自身の感覚に近いライディングをするうえでは、このACCは四輪車に採用されているACCよりも、さらに積極的に人間=ライダーが介入する必要があるように思えた。バイクが予想と違う反応をしたとき……例えばシステムは「安全マージンを確保している」と判断して定速/追従走行をしていても、ライダーが「もう減速したほうがいい」と感じたときなどは、瞬時に、積極的に操作するべきだ。判断の仕方やタイミングなどは、システムの理解度や習熟度によって変化していくだろうが、いずれにしても最終的には、ライダーは運転に介入しなければならない。四輪車とは違い、バイクは人間がバランスをとって走らせる乗り物だからだ。ドゥカティもボッシュも、「これは安全装置ではなく安全走行をサポートする装置だ」と強く訴えるのはそのためだ。
とはいえ、システムそのものは非常によくできていた。試乗はテストコースの限られた条件の下で行われたが、そのわずかな試乗時間のなかでも、「あんな事ができる」「こんな事ができる」「こんな風に反応するんだ」と理解が進み、システムを活用した走りをいろいろなシーンで試してみたくなった。そして、わずかな試乗時間が終わる頃には、このシステムを使って半日以上高速道路を走った自分が、どのような疲労度や精神状態でバイクを運転しているかが気になった。
ロングツーリングで実力を確かめたい
長距離ツーリングでのACCの効能について、ボッシュのエンジニアは「疲労度は圧倒的に軽減される」と説明する。確かに、最終的な判断はライダーに委ねられるとはいえ、車間や速度の維持といった操作をシステムにまかせるだけでも、ライダーの負担は大幅に軽減されるだろう。そして、そのことによってより広い視野でまわりの状況を認識し、判断できるようになる。
もちろん道路状況や渋滞状況、天候などによってシステムがライダーの期待に100%応えられない場合もあるだろう。またライダーの経験値や好みなどによって、システムの反応に対する期待の仕方も異なってくるはずだ。したがって、人間の側もこのシステムに慣れる必要がある。どの部分が自分のライディングの助けになり、どの部分が不要なのかを知っていく必要があるだろう。
もうひとつの機能であるBSDについては、今回は死角にいる後続車や後方から迫る後続車を意図的に用意し、ミラー内側のLEDライトの反応を確認したのみだった。実際に高速道路でテストしたドゥカティ・ジャパンのインストラクターによると、そのインフォメーション効果は非常に高く、高い安全運転へのサポート効果を体感したという。
クローズドコースでのテストという限られた環境ではあったが、少なくとも今回の試乗では、筆者はACCにもBSDにも有用性を感じた。実際の道路でアドバンスドライダーアシスタンスシステムがどのように作動し、それをライダーである自分がどのように感じ、どのようなアジャストが必要なのか試してみたい。そして、その先にどんなライディング体験があるのかを感じてみたい。
(文=河野正士/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
-
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気 2026.1.15 日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。
-
第857回:ドイツの自動車業界は大丈夫? エンジニア多田哲哉が、現地再訪で大いにショックを受けたこと 2026.1.14 かつてトヨタの技術者としてさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さん。現役時代の思い出が詰まったドイツに再び足を運んでみると、そこには予想もしなかった変化が……。自動車先進国の今をリポートする。
-
第856回:「断トツ」の氷上性能が進化 冬の北海道でブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ「ブリザックWZ-1」を試す 2025.12.19 2025年7月に登場したブリヂストンの「ブリザックWZ-1」は、降雪地域で圧倒的な支持を得てきた「VRX3」の後継となるプレミアムスタッドレスタイヤ。「エンライトン」と呼ばれる新たな設計基盤技術を用いて進化したその実力を確かめるべく、冬の北海道・旭川に飛んだ。
-
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末 2025.11.26 「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。
-
第854回:ハーレーダビッドソンでライディングを学べ! 「スキルライダートレーニング」体験記 2025.11.21 アメリカの名門バイクメーカー、ハーレーダビッドソンが、日本でライディングレッスンを開講! その体験取材を通し、ハーレーに特化したプログラムと少人数による講習のありがたみを実感した。これでアナタも、アメリカンクルーザーを自由自在に操れる!?
-
NEW
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。 -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気
2026.1.15エディターから一言日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。 -
ルノー・グランカングー クルール
2026.1.15画像・写真3列7座の新型マルチパーパスビークル「ルノー・グランカングー クルール」が、2026年2月5日に発売される。それに先駆けて公開された実車の外装・内装を、豊富な写真で紹介する。 -
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。






















