第204回:ありがとうお金持ち
2021.04.12 カーマニア人間国宝への道中央道で遭遇した謎のSUV
担当サクライ君よりメールが入った。「今度『アウディRS Q8』を用意できますが、ご興味ありますか?」
正直言うと、ない。私は基本的にSUVに興味がない。なにせオフロード趣味が皆無だし、速く走るためにわざわざ車高と重心を上げ、車体を重くして空気抵抗をデカくする必要などあるはずがない。RS Q8についての知識もゼロだ。
「SUVなど無くてよし!」
そう言ってしまいたい気持ちすらあるが、しかし人間、興味がないものに触れる必要もあるだろう。「わーい、よろしくね」と返信した。
当日。私は中央道方面での取材を終え、愛車のエリート特急(先代「BMW 320d」)で一路杉並区を目指していたが、相模湖付近で不審なクルマを発見した。
(あれ、何だろう)
よーく見ると、その全体に丸みを帯びたエレガントなシルエットは、「アウディQ8」のような気がした。Q8は現在のアウディで最もデザイン的にイケていると認識していたが、その割に実車のデザインをちゃんと記憶していなかったのはうかつである。
私はその謎のSUVを凝視し、「たぶんQ8」と確認しつつ抜き去った。その晩、RS Q8に試乗することは完全に忘れていた。
約6時間後。担当サクライ君がでっかいSUVでわが家にやってきた。
「あ! このクルマは!」
ナンバーに見覚えがある。昼間、中央道を走っていた謎のSUVそのものだった。
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いったい誰が買うんだろう?
オレ:これで今日の昼間、中央道を走ってたでしょ!
サクライ:えー、僕じゃないです。ほったですね。
なんと! webCG編集部のほった君が運転していたのかあ~~~~~! まさに奇遇。
急にRS Q8に親近感を覚えた私だったが、だからといって相変わらず知識はゼロ。そのまま永福ランプから首都高に乗り入れた。
「コンフォート」モードで走っている限り、アウディの高性能シリーズ「RS」と聞いて想像する荒々しさは特に感じないし、乗り心地もかなりいい。逆に言うとあまり刺さる部分もない。
オレ:これ、いくら?
サクライ:えーと、1869万円です。
オレ:こういうの、誰が買うんだろうね。まぁお金持ちだろうけど。
サクライ:謎ですね。
オレ:webCGは、こういうクルマをしょっちゅう取り上げてるけど、どういう人が読んでるの?
サクライ:肌感覚ですが、実際に欲しいと思っている人と、新しいクルマやすごいクルマをちゃんと知りたいという情報感度の高い人というイメージですかね。でも実像はさっぱり見えません。
私にもさっぱり見えない。そんなオッサン2名が乗る超高価なスーパーSUV。まさにブタに真珠だ。アウディのエンジニアが見たら泣くだろう。
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RS Q8の購入を真剣に検討した青年
そうこうしているうちに、われらのスーパーSUVは辰巳PAに到着した。
相変わらずカーマニアが大集結している。今晩は特にスーパースポーツ系が多い。微妙に緊張しつつ空きスペースにRS Q8を入れる。
「RS Q8じゃん」
「すげぇ」
そのような外野の声が聞こえた。降りるやいなや、声の主に声をかけられた。
青年:すごいっすね。カッコいいっす。
オレ:そ、そう?
青年:これ、高いッスよね。2500マンくらいイキました?
オレ:い、いや、そんなにいかないよ。
青年:僕、マジでこれ買おうかと思ってディーラーまで行ったんスよ。いやーやっぱりいいなあ。「ランボルギーニ・ウルス」より断然いいっす。
オレ:そ、そう! キミは何に乗ってるの?
青年:今日は代車の「ジャガーXJ」なんス。
オレ:そう! カッコいいね! ありがとう!
私が思ったのは、「この青年は何をしている人なのだろう」ということだった。何をしているのかわからないが、お金持ちらしい。そしてRS Q8の購入を真剣に検討したらしい。うおおおおお。まさか「謎」の本人が辰巳に待っているとは……。
まさしくスーパーSUV
われわれは辰巳PAを後にした。
オレ:あの青年、このクルマを見て「ウルスよりいい」って言ってたよ。
サクライ:そうですか。
オレ:このクルマ、エンジン何なの? V8ターボ?
サクライ:えーと、そうですね。4リッターV8ツインターボで600PSです。
オレ:あれ? ひょっとしてウルスと同じエンジンじゃないの!?
サクライ:……そうかもしれません。
サクライ君がスマホで検索すると、まさしくRS Q8はアウディ版ウルスであった。そうだったのか~~~~~! じゃ、走行特性を変えられる「アウディドライブセレクト」を「ダイナミック」モードに入れるとウルスのようにすごいのだろうか。
ダイナミックモード、オン!
その瞬間、クルマが豹変(ひょうへん)した。どう猛なうなりを上げて突進を始めた。こ、これはまさしくウルス!
コーナリングの安定感も激増! 狙ったラインを寸分たがわずトレースできる! そのうえ乗り心地まで良くなった! コンフォートモードよりダイナミックモードのほうが、圧倒的に乗り心地がイイ! そしてとにかく猛烈に速い! すげえええええええええええ~~~~~っ! まさしくスーパーSUV!
オレ:このクルマ、ウルスだったんだね。
サクライ:そのようですね。
オレ:その割に(車両本体価格)1800万円ってメッチャ安いじゃん!
サクライ:安いですね。
オレ:こっちのほうが断然お買い得だね! 見た目も上品でカッコいいし!
サクライ:ですね。
辰巳の青年の言うことは、すべて正しかった。彼に教えられなかったら、大間違いを書くところだった。ありがとうお金持ちの青年よ!
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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