アウディRS Q8(4WD/8AT)
おおきいことはいいことだ 2021.05.07 試乗記 全長5m、全幅2mという巨大なボディーに、圧倒的なパワーを発する4リッターV8ツインターボエンジンを搭載した「アウディRS Q8」。重厚長大という言葉を地でいく巨大で豪速なハイパフォーマンスSUVは、得も言われぬ“勝ち組”感に包まれていた。フルサイズSUVにスポーティネスを加味
「Q」の記号と一桁数字の組み合わせで車名が示される、アウディのSUVモデル。2005年の初代「Q7」からスタートしたこのQシリーズのなかにあって、現在、最上位のモデルとして位置づけられるのが、日本では2019年秋から販売されている「Q8」である。
2018年に、このモデルの初公開の場として選択されたのは中国・深セン。全長5m、全幅2mにもなる巨大サイズのSUVを披露する場所が、自身が居を構えるヨーロッパではなく、“自動車大国”の名をほしいままにしてきたアメリカでもないこの地とされたのは、このマーケットがアメリカを抜き去って「世界一の規模」となってから久しく、かつそこに暮らすユーザーの多くがまず「立派に見える外観こそを好む」とされることを考えれば、実は当然すぎるほど当然の結果だったといえるかもしれない。
Q8が、いうなれば「Q7をベースにアッパーボディーの造形にクーペ風味を取り入れた、よりスタイリッシュさを追求した新たなフラッグシップ」というキャラクターの持ち主であることは、その姿を一目し、さらにスペックをチェックしてみれば、誰もが納得のいくところであるはず。ホイールベースは同等ながら、Q7には設定される3列シート仕様が用意されないこともあってか、全長はやや短い一方で全幅はより広く、全高は低い。
そんなQ8に、さらに「強靱(きょうじん)な走り」というエッセンスを加えたのが、ここに紹介するRS Q8だ。ちなみに、現時点では「RS Q7」なるモデルが存在しないのも、「Q7よりもQ8のほうをよりスポーティーなイメージで展開したい」という、アウディの思いが反映された結果であるに違いない。
4リッターV8ターボエンジンに見る今という時代
小山のように高い位置にあるフラットなボンネットフードの下、8段ステップATとの組み合わせで搭載されるのは、4リッターのツインターボ付きV型8気筒エンジン。フォルクスワーゲングループ内での“役割分担”にのっとり、ポルシェ主導で開発されたこの心臓は、実に600PSの最高出力と800N・mという最大トルクを発生する。
もっとも、「DHU」と称する同型式のエンジンは、例えば「ランボルギーニ・ウルス」に搭載された場合には650PS/850N・mへと仕様を変える。このあたりのグループ内ブランドでの融通や、ターボ付きエンジンのチューン/ディチューンの容易性は、つくり手にとっては確かに大きなメリットに違いない。一方で、各社が独自の心臓の開発にいそしみ、わずか10PSを引き上げるにも大変な苦労を伴ったメカチューンの時代を知るものにとっては、そんなフレキシブルさは「興味をそがれる要因のひとつにもなり得る」と言ったら、それはもはや時代錯誤にすぎるコメントなのであろうか……。
いずれにしても、そんな怒涛(どとう)の出力を発する心臓でありながらも、やはり“今”という時代の空気を濃厚に感じさせられるのは、このV8ユニットには48V方式のマイルドハイブリッドシステムやら、4気筒を休止させるシリンダーオンデマンドシステムやらと、「決してエコにも無関心ではありません」というエクスキューズを発する複数の飛び道具も備わるからだ。
実際、もはや当然のようにフルバーチャル化されたメーターパネル内の平均燃費計には、クルージングシーンになると望外に優れたネンピのデータが表示された。怒涛の出力を実現させる一方で、その“罪滅ぼし”をするかのように、気筒休止やコースティング走行時の“全停止”を頻繁に行うのが、このモデルの心臓でもあるわけだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「そんな人いるか?」は問題ではない
「モータースポーツで鍛えられた最先端のテクノロジーと、アウディのレーシングスポーツモデルにふさわしい、吟味し尽くした装備や走りのテイストを身につける」と、そんなフレーズで紹介されるのが、「RS」の2文字が与えられたアウディのハイパフォーマンスモデルである。
とはいえ、さすがに2.4t超のSUVでサーキットをガンガンに攻めてみたいという酔狂な人(?)は、世の中にそう多くはいなさそう。それでも「実際にやるか/やらないか」というのと「できるか/できないか」というのとではハナシは別。特にRSの名が冠されたモデルの場合、そんなことを試す人がいようといなかろうと、ゆとりをもって応えられるようにしておく必要があるのは当然だろう。
かくして、動力性能ではアウディ得意の「クワトロ」4WDシステムを介して0-100km/h加速3.8秒というスーパーカー級のパフォーマンスを達成。それに対応するべく、そもそも大容量のブレーキシステムにはさらなるタフネスぶりを発揮するセラミックブレーキをオプション設定。23インチと超巨大なシューズを御するアダプティブエアサスペンションも、「専用のスポーティーなチューニング」がうたわれている。
シャシーには4WS(4輪操舵)システムも標準装備されるが、このモデルの場合、操安性の向上もさることながら、実利上は低速時の逆位相制御による小回り性向上のメリットのほうが大きそう。なにせ、ホイールベースはあと5mmで3mの大台。現状5.6mとされている最小回転半径は、4WSシステムがなければ優に6mをオーバーするに違いない。
なんだかんだで感じる“重さ”
意外にも、脚を前方へと投げ出し気味とするドライビングポジションをとって走り始める……というか、走り始める以前に抱いた率直な第一印象は、「まわりがよく見えない」というものだった。
もちろん、サラウンドビューその他のカメラを駆使すれば、そうした部分の視界も確保されるし、合成された車体を3Dビューで表示するといったハイエンドモデルらしい機能も備わっている。それでも、ボディー直近をはじめ各箇所で直接の視界が限られることは事実。そもそものずうたいの大きさとも相まって、「狭いところには入っていきたくない」という思いは最後まで抜けることはなかった。
絶対的な動力性能に不満がないことはもちろんだが、さまざまなシーンで走りを試していると、「ブーストゾーンを外すと、急速に加速が緩慢になってしまう」と、そんな印象を抱く場面が皆無ではないことにも気がついた。
さしもの4リッターという排気量の持ち主でも、2.4t超という重さはやはりそれなりの負担。同様に、路面状況によってはばね下の動きが滑らかさを欠き、突如としてその部分の“重さ感”が気になる場面にも遭遇した。ちなみに、23インチというのは恐らく自身がこれまでに経験したシューズ径の最大記録。295/35というサイズのタイヤとの組み合わせでは、一輪あたり一体何(十)kgの重さになるのだろう……。
クルマにただよう“勝ち組”感
ハイエンドモデルらしい装備の充実ぶりに、(高額な)アウディ車ならではといえるゴージャスで贅(ぜい)を尽くしたインテリアの仕上がりぶりは特筆もの。ちなみに、テスト車には「レザーシートパッケージ」や「カーボン/グロスブラックスタイリングパッケージ」がオプション装着されていたから、エクスクルーシブな雰囲気の演出もなおさらだった。優れた静粛性は、そんな上質さにふさわしい仕上がりである。相対的にはタイヤが発する空洞音がやや目立つことになっていたが、それも「そんな静かさの持ち主ゆえ」ということになるのかもしれない。
大柄なボディーにさまざまな機能やゴージャスな装備を満載し、それらによって増した重量を圧倒的なパワーを発する大心臓で屈服させる……というのは、乗用車の重厚長大化路線のなれの果てという印象がしないでもない。けれども、それゆえの得も言われぬ“勝ち組”感がただようこともまた事実。こうしたモデルが、必ずそれなりの需要を獲得できるのは、「いつの時代になっても、そうした即物的な“わかりやすさ”を好むユーザー層が世界には一定数存在するから」と、要はそういうことでもあるのだろう。
(文=河村康彦/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
アウディRS Q8
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5010×2000×1700mm
ホイールベース:2995mm
車重:2410kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:600PS(441kW)/6000rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)/2200-4500rpm
タイヤ:(前)295/35ZR23 108Y XL/(後)295/35ZR23 108Y XL(コンチネンタル・スポーツコンタクト6)
燃費:7.1km/リッター(WLTCモード)
価格:1869万円/テスト車=2029万円
オプション装備:RSスポーツエキゾーストシステム(22万円)/エアクオリティーパッケージ(8万円)/デコラティブパネル カーボンツイル(16万円)/カーボン/グロスブラックスタイリングパッケージ<ブラックスタイリング+グロスカーボンRSエクステリアパーツ+エクステリアミラーハウジングブラック>(51万円)/レザーシートパッケージ<Sスポーツシート+バルコナレザー+シートベンチレーション[フロント]マッサージ機能+エクステンデッドフルレザーパッケージ>(63万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2967km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:500.2km
使用燃料:69.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/7.9km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
フェラーリ849テスタロッサ スパイダー(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.7.15 歴史ある車名が与えられた「フェラーリ849テスタロッサ」は、従来型から大幅な進化をとげた高性能スポーツカーだ。では、そのオープントップバージョンの走りはどうか? 日本での発売を前に、フェラーリ通として知られる西川 淳が試乗した。
-
ポルシェ・カイエン ターボ エレクトリック(4WD)【試乗記】 2026.7.15 ポルシェ最新の電動ハイパフォーマンスSUV「カイエン エレクトリック」。そのラインナップのなかでも、最高峰に位置するのが「カイエン ターボ エレクトリック」だ。最高出力1156PS、最大トルク1500N・mという、とてつもないパフォーマンスの一端に触れた。
-
プジョー308 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2026.7.14 マイナーチェンジで内外装がブラッシュアップされた「プジョー308 GTハイブリッド」に試乗。大胆なデザインのフロントフェイスに目を奪われるが、ステランティス自慢の1.2リッター直3マイルドハイブリッドを搭載する最新モデルの仕上がりと走りやいかに。
-
日産キックスG(FF)/キックスX e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.7.13 日産のコンパクトSUV「キックス」が、いよいよフルモデルチェンジ! デザインもパワートレインもプラットフォームも刷新された新型は、見ても乗っても長足の進化が感じられる力作となっていた。日産の再生を担う重要モデルの仕上がりを報告する。
-
BYDシーライオン6 AWD(4WD)【試乗記】 2026.7.11 BYDのプラグインハイブリッド車「シーライオン6」の4WDモデルが登場。先に登場したFFモデルにリアモーターを追加したという説明は間違いではないが、実はエンジンが違うばかりか、加速力にも別物といえるくらいの差がつけられている。300km余りをドライブした印象をリポートする。
-
NEW
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
NEW
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。 -
第970回:クルマの背中に浮かぶ文字たち――空いた字間が語るもの
2026.7.16マッキナ あらモーダ!アナタは自動車のボディー背面に施されたメーカー/ブランドのロゴについて考えたことがあるだろうか? 字間を詰めたり、広げたり、時代によって変わるそのトレンドと、その背景にあるメーカーの思惑を、自動車史にも精通する大矢アキオが語る。



































