プジョー3008 GTハイブリッド4(4WD/8AT)
獅子奮迅 2021.04.20 試乗記 プジョーの人気SUV「3008」にプラグインハイブリッド(PHEV)モデルの「GTハイブリッド4」が登場。プジョー史上最強をうたう最高出力300PS、最大トルク520N・mの電動4WDパワートレインの仕上がりを試してみた。知られざるプジョーPHEVの歴史
この2021年1月に国内導入された3008のマイナーチェンジ版だが、そのキモはエクステリアの大幅な手直しと、インテリア装備や先進安全運転支援システムのアップデートに加えて、日本仕様のプジョーとしては初のハイブリッド、初のPHEVとなるGTハイブリッド4が新登場したことだ。というわけで、本稿の主役は、そのハイブリッド4である。
さて、日本初上陸となるプジョーのハイブリッドパワートレインは、フロントにおなじみの1.6リッターガソリンターボと8段ATを搭載しつつ、その間に110PS/320N・mの電動モーターをサンドイッチして、変速機の継ぎ手部分はトルクコンバーターから湿式の油圧多板クラッチに換装している。車名末尾の数字から想像されるとおりの四輪駆動で、リアにも112PS/166N・mの電動モーターを備える。
さらに、このハイブリッドシステムには容量13.2kWhのリチウムイオン電池が組み合わせられており、外部充電(日本では普通充電のみ)も可能である。電池残量が十分にあるときには最高速135km/h、満充電からなら最大64km(WLTCモード)のEV走行が可能という。
ところで、3008のハイブリッドそのものは、日本では初見でも、歴史は意外に長い。現行ハイブリッド4も本国にはマイチェン前から用意されていたし、プジョーに詳しい向きなら、さらにさかのぼった先代3008にも同名モデルが存在したことをご記憶かもしれない。
ただ、2011年に登場した先代ハイブリッド4はずっとシンプルで、構造としてはフロントの2リッターディーゼルエンジンはほぼそのままに、リアにモーターを追加した“電気4WD”そのものだった。その走行はあくまでエンジンが主で、モーターは加速時にアシストしたり、低負荷時のみエンジンを停止してEV走行したりした。当時のニッケル水素電池に外部充電機能はなく、一般的なEVモードにあたる“ZEVモード”も用意されたが、連続EV走行距離は最長でも4kmにすぎなかった。
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EV走行が最優先
ところで、今回の取材は、インポーターが長野県の軽井沢で開催したフルラインナップ試乗会によるもので、この3008 GTハイブリッド4にあてられた時間は、撮影込みで90分。試乗そのものは会場内に用意された特設オフロードコースと、周辺のワインディングロードでの短時間にかぎられたことをお断りしておく。
このハイブリッドには標準となる「ハイブリッドモード」のほか、積極的に電気走行する「エレクトリックモード」、電池残量が少なくなってもエンジンの発電によってリアモーターを積極的に作動させる「4WDモード」、そしてパワフルでレスポンシブな「スポーツモード」という4種のドライブモードがある。最後のスポーツモードだけは基本的にエンジン駆動が主体となるが、そのほかのモードでは、電池残量が十分にある間は最優先でEV走行する。
それはもちろん、燃料をできるだけ使わず、外部電力を使ってEV走行するのががCO2排出量が最少となるからで、エコカーであるPHEVではお約束といえる所作だ。メーター内モニターを見るかぎり、EV走行時は基本的にリアモーターで駆動して、フル加速や急激な上り坂などの高負荷時にはエンジンが始動する。
ちなみに、電池残量を維持する「セーブモード」や、エンジン発電で電池残量を積極的に増やす「チャージモード」の類いは、日本のハイブリッド4には用意されない(仕向け地によってはある)。マニア的には少し残念だが、“EV限定道路”のような規制が一般的でない日本では、理論的には不要な機能ではある。
そして、電池残量が底を尽いてくると、負荷に応じてエンジンが始動するようになり、エンジン(もしくはそこにフロントモーターがアシスト)による前輪駆動、さらにはリアモーターが加勢した四輪駆動、エンジンが停止した前後モーターによるEV四輪駆動……といった形態を自在に駆使しながら走る。それぞれへの切り替えは、それとは気づかないくらい滑らかだ。
足まわりも専用仕立て
外部から供給された電力を使い切ると(計器盤上の)見た目には空っぽになる電池も、本当はある程度の電力が維持されている。実際、ゼロ発進時は見た目の電池残量とはかかわりなく、基本的にリアモーター走行でスルリと蹴り出す。騒音対策も入念なようで、そうしたEV走行時でも、ロードノイズや風切りノイズの小ささには感心する。
この最新のハイブリッド4の、いわゆるシステム最高出力/最大トルクは300PS/520N・m。プジョーによると、これは同社の歴代市販モデルで最強スペックでもあるという。そういわれると、アクセルを踏み込んだときの背中を蹴り飛ばされたような加速感は誇張ぬきに強力である。
ハイブリッド4の車重は同じ3008のガソリン車より約400kg、ディーゼル車より約250kgも重いが、今回の試乗では車体や足まわりが悲鳴を上げるような兆候はみじんもなく、その重さをうまく“重厚感”として消化しているのも好印象だった。とくにワインディングでの、路面にヒタリと吸いつく接地感は同じ3008のなかでも随一……と思ったら、後軸にモーターを抱えるハイブリッド4だけが、リアサスペンションが独立式のマルチリンクになっているのだった(ほかの3008のそれは半独立式トーションビーム)。ほどよく駆動配分してくれる4WDに加えて、この贅沢なサスペンションもハイブリッド4の乗り心地や静粛性、ハンドリングにひと役買っているのは間違いないところだろう。
そういえば、この3008のPHEVは現在日本で買えるプジョー唯一の4WDでもある。4WD需要が大きい日本では「ドイツでもアメリカでもない輸入SUVの4WD」はそれなりにグッとくる存在だろう。車両本体で565万円、各種オプションを追加した今回の試乗車で600万円超という価格はプジョーでも最高額に近い。絶対的にはちょっと高いが、なかなか貴重な存在でもある。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
プジョー3008 GTハイブリッド4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4450×1840×1630mm
ホイールベース:2675mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:200PS(147kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/3000rpm
フロントモーター最高出力:110PS(81kW)/2500rpm
フロントモーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/500-2500rpm
リアモーター最高出力:112PS(83kW)/1万4000rpm
リアモーター最大トルク:166N・m(16.9kgf・m)/0-4760rpm
システム最高出力:300PS(221kW)
システム最大トルク:520N・m(53.0kgf・m)
タイヤ:(前)225/55R18 102V XL/(後)225/55R18 102V XL(ミシュラン・プライマシー4)
ハイブリッド燃料消費率:15.3km/リッター(WLTCモード)
価格:565万円/テスト車=613万3880円
オプション装備:ボディーカラー<ヴァーティゴブルー>(8万2500円)/パノラミックサンルーフ(15万3000円)/ナビゲーションシステム(24万8380円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1329km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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