電気自動車でも天下をとれる!? トヨタの確たるBEV戦略とは?
2021.05.07 デイリーコラムBEVがいよいよ主役の座に
去る2021年4月下旬に開催された上海モーターショーは、案の定と申しましょうか、電動化車両、とりわけ電気自動車(BEV)のワールドプレミア祭りの様相でした。メルセデスの「EQS」やBMWの「iX」、アウディは「A6 e-tronコンセプト」と、ドイツ御三家はBEV専用の次世代アーキテクチャーを使ったモデルをそろってお披露目。他にもフォルクスワーゲンは「ID.6」、ゼネラルモーターズはキャデラックの「リリック」と、主要メーカーは軒並みBEVがショーの華です。
そんななか、ちまたではBEV消極派の烙印(らくいん)を押されているトヨタは、新たなBEVのコンセプトカーを披露し、クルマの電動化への取り組みを具体的データとともに説明しました。これ、新聞やテレビなどの一般メディアではほとんどフォローされていないのがお気の毒なので、一応ここで触れておきますと……。
- 初代「プリウス」発売以来、これまでトヨタが販売した電動化車両は1700万台を超えており、2020年については約195万台、全トヨタ車の約4分の1がそれにあたる。
- CO2排出抑制効果は累計約1億4000万tにあたり、2010年から2019年の間でみても、新車ベースで約22%のCO2を削減した。
- 2020年末現在、乗用車・商用車合わせハイブリッド車45車種・プラグインハイブリッド車4車種・BEV4車種・燃料電池車2車種の計55車種の電動車をラインナップしている。
……とまぁ、こんな感じです。「約1億4000万t」が全然ピンときませんが、日本では国民1人あたりの年間CO2排出量が9t余りといわれてますから、単純計算でざっと1400万人強、つまり「東京都民が1年間カーボンフリーで生活できるぶん」以上のCO2排出抑制を果たしたということになるでしょうか。トヨタを褒めても仕事した気にならない、そしてディスるとウケがいいとお思いのマスコミさんも、自動車メーカーとしては圧倒的なこの実績はきちんと評価すべきでしょう。そして、この実績を前提にさらなるCO2削減に取り組んでいることと、妄信的なBEV化が整合しないということにも思いを巡らすべきかと思います。
進む他社との共同開発
と、そういった前段のもと、トヨタは2025年には電動車のモデル数を70に増やすといいます。うち、BEVは15車種と、2019年時点の想定よりも数は増えています。背景にはBYDとの合弁によるBEV開発や、ダイハツ、スズキの商品カバレッジにおいてもBEVの必要性が高まっていることなど、この2年で起こった事業環境の変化が主たるものです。が、昨今の世間的風向きやESG(環境・社会・ガバナンス)的市場圧力などがまったく関係ないわけでもないかなとは思います。
時に、上海モーターショーで発表されたBEVのコンセプトカーには「bZ」というサブブランド的なコードがあしらわれていました。これは「beyond Zero」の略で、単にゼロエミッションなだけでなくそれ以上の価値を提供するという思いを込めたネーミングだそうです。このbZシリーズについて、トヨタは以下のように説明しています。
「お客さまのニーズに応じたさまざまな大きさ・スタイルのEVを導入することはトヨタだけでは困難であることから、それぞれ得意分野を持つパートナーの皆さまと共同で開発を進めています。再生可能エネルギーを促進するエネルギー政策と連携することで、販売する各地域でお客さまの選択の幅を広げ、一層のCO2排出量削減につなげたいと考えています」
つまりbZシリーズについては、先述のBYDやダイハツ、スズキ、そしてスバルの4社をパートナーとしておのおの共同開発を進めていくというわけです。ちなみにbZシリーズとして導入予定の車種は、コンセプトカーの「bZ4X」を含めて2025年までに7モデル。トヨタ全体のBEV計画のほぼ半分を占めています。その展開地域として今回明言されたのは、欧・中・米の3エリア。いずれも政策的にBEVが必要とされていて優遇される、電源構成的にBEVの優位性が発揮できる、そういったところです。
注目すべきはシャシー性能
今回の発表からは、環境技術の“全方位化”と“適材適所化”というトヨタの前提に揺らぎはないことが察せられました。局地的なBEVのデマンドについては直接商圏に関わる立場との協業とし、トヨタ本体がグローバルに手がける銘柄とはプランを分けて考える。リソースをきちんと分担して負荷を抑え、そのぶんトヨタ本体としては逐次最適なソリューションを開発し提供する。モータリゼーションの黎明(れいめい)を迎えた地域には安価で高効率な内燃機関車(ICE)が、電源構成が厳しい地域にはCO2排出抑制に有利なハイブリッド車が……と、条件ごとのベストに多様なパワートレインで応えるのが世界のモビリティーを支えるメーカーとしての責務だとトヨタは考えているのでしょう。
ちなみにbZ4Xは、2019年にスバルとの共同開発が表明されていたe-TNGAプラットフォームを用いた第1弾となるもようで、2022年の半ばくらいの発売を予定しています。体としてはコンセプトカーですが、ディテールは完全に市販車的なつくり込みで、いつ発売されてもおかしくはなさそうな仕上がりです。
そのなかで最も注目されるのは、操縦かん的なインターフェイスが特徴のバイワイヤーステアリングシステム。モーターの緻密で自在な駆動コントロール性と、スバルの4WDにまつわるノウハウとの融合、そこにバイワイヤー技術が加わることで、持ち替えなしの操舵コントロールが可能になるといいます。
いわゆるロック・トゥ・ロックにして1回転程度でクルマの全運動をつかさどろうというわけですから、今までとは大きく異なる操縦感覚になることは間違いありません。数年先ならいざ知らず、2022年にこの技術が実装されるというのはにわかに想像がつきませんし、冗長性の観点からメカニカルなバックアップを内包すれば操縦かんコンセプトを成立させるのは難しいのではという疑問も抱きます。
でもパワートレインの側でクルマの個性を印象づけることが難しくなるBEVの時代に、トヨタがシャシーテクノロジーの側に何かを託そうとしていることは間違いないのでしょう。レクサスも「DIRECT4」という同種の技術を近日中に形にしようとしています。BEVの商機の向こうにある、クルマ屋としての勝機を虎視眈々(たんたん)と狙っているのは、誰あろうトヨタなのかもしれません。
(文=渡辺敏史/写真=ダイムラー、ゼネラルモーターズ、トヨタ自動車/編集=関 顕也)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。