第649回:「ウルス」も「ウラカン」もモーター搭載!? これがランボルギーニ電動化プランの真相だ!
2021.05.18 エディターから一言![]() |
普及型のファミリーカーのみならず、高級サルーンや高性能スポーツカーでも電動化が進む昨今。スーパーカー専業メーカーであるランボルギーニはどう動くのか? 今後の見通しについて、ステファン・ヴィンケルマンCEOに聞いた。
![]() |
衝撃的なチャレンジプラン
“帰ってきたヴィンケルマン”がランボルギーニの大きな挑戦を発表した。合言葉は「コル・タウリを目指せ!」。コル・タウリとは雄牛の心臓を意味する“アルデバラン”、すなわち、おうし座α星のラテン語だ。
要約すれば、2023年から2024年にかけてラインナップのすべてをプラグインハイブリッドパワートレインとし、2025年初頭までにはプロダクトのCO2排出量を半減させること、さらには2025年以降に完全BEV の第4モデルを発表すること、だ。
発表に先立ち、アウトモビリ・ランボルギーニのステファン・ヴィンケルマンCEOは日本人ジャーナリストのインタビューにオンラインで応じてくれた。筆者は2020年末にもインタビューを実施していて、その時は赴任直後とあって具体的な内容に乏しかったけれど、今回は違う。
「われわれランボルギーニのようなスーパースポーツカーブランドにとっては大きな挑戦が始まります」
そのコンセプトを、ヴィンケルマン氏は簡潔にこう語る。「We need to change everything not to change anything」 つまり、何も変えないためにすべてを変える。どういうことか。
「CO2の削減がオートモーティブ界の潮流で、今や世界で最も重要な指標になりました。スーパースポーツカーブランドにとっては大変難しい時代がやってきたといえます。そんな未来の環境コンプライアンスを守りつつ、ブランドの優位性やクルマの性能を今まで通り最も高いレベルで保つ戦略を立てる必要に迫られました」
V12もプラグインハイブリッド化!?
2005年、ヴィンケルマン氏が最初にランボルギーニへやってきた時には、「ガヤルド」と「ムルシエラゴ」合わせて年間生産1600台という少量生産メーカーにすぎなかった。ブランドの未来を確かなものとするために彼らは第3のモデル開発を決意する。のちの「ウルス」だ。
結果はすでにご存じのとおり。利益率は7倍にも膨らみ、昨2020年にはコロナ禍で販売台数をわずかに減らすも売り上げと利益は過去最高を記録。ヴィンケルマン氏がその礎を築いた未来戦略は今のところ大成功をおさめている。
「次のステップに進むべきタイミングがきたのです。第2の創業といってもいいかもしれません。もちろんこれからも内燃機関エンジンの改良は続けていきます。近々、驚くようなニュースをお届けすることもできるでしょう。一方で、ランボルギーニらしい性能を従来モデル以上に発揮しながら環境コンプライアンスを守っていくためには大きな決断が必要でした。それが2023年から2024年にかけてラインナップをすべて電動化するということです」
具体的には、既存のラインナップは、その進化版を含めてすべてプラグインハイブリッドのパワートレインを積むことになるという。マイナーチェンジか、フルモデルチェンジかは明らかにされなかったが、おそらく12気筒モデルはフルモデルチェンジすることになるだろう。筆者の予想では、「アヴェンタドールベース」のプラグインハイブリッド化は難しいと思われるからだ。ウルスはちまたの予想通りV8のプラグインハイブリッド車となり、これは筆者の推測だが、おそらく最も早く登場するだろう。なんといっても今やラインナップの最大派閥なのだから。
問題はV10のウラカンだが、V10を継続するかどうかに関する筆者の質問に対してヴィンケルマンは「その答えはもう少し先に明らかになりますよ」と明言を避けた。おそらくはダウンサイジングされるのではないだろうか。ちなみに詳細は明らかにされていないが、すべてのラインナップに違うハイブリッドシステムが搭載されることになるという。
「2024年までに過去最大級となる1.5ビリオンユーロ(およそ1988億円)程度の莫大(ばくだい)な投資をこれらハイブリッドモデルの開発につぎ込む予定です。ウラカン、そしてアヴェンタドール(の後継モデル。筆者予想)には革新的なバッテリーシステムを使うことになると思います。サーキットを真剣に走れば重量を感じることなく従来モデルより速く走ってくれるでしょうし、一方で10周くらいなら電動で静かに走ることもできる。日本のスーパースポーツカーファンにもきっと満足してもらえると思いますよ」
100%電動のGTが登場
そして、もうひとつのビッグニュースが、第4のモデルを検討中であるということ。
「フルエレクトリックで少なくとも2+2のGTになるでしょう。スーパースポーツカーではなくデイリーカーですね。2ドアか4ドアかも含めたボディースタイル、スペック、ポジショニングなどいまだ検討している最中で、デビューも2025年~2030年の半ばあたりとなるでしょう」
ということは、当然、「ポルシェ・タイカン」や「アウディe-tron GT」のプラットフォームを使うというような単純な話ではない。少なくともグループの次世代BEV用プラットフォームを活用することになるだろう。
「今ランボルギーニ社はとてもいい状態です。だからこそ次のステップ、未来に向けての挑戦を始めなければならないのです。われわれは幸いにも信頼のおける、熱狂的で、ランボルギーニのような会社にふさわしいスタッフに恵まれています。将来の挑戦的な戦略を考えるにあたって彼らの存在はとても大きく、私にとっても安心できる材料でした。2024年末までの3年半、とても大きな挑戦を実行することになります。電動化だけじゃありません。今年もまだまだ大きなニュースがあるし、来年も期待していてほしい。何しろ、弱いチーム、弱い会社では全く達成不可能な目標を掲げたのですから。会社そのものがとても良好な状態だからこそ、莫大な投資も可能になったのです。これまでにもたくさんの決断を実行に移してきました。例えばウルスのように正しいモデルを正しいタイミングで市場に投入した結果、会社はとても潤ったのです。そうして得た利益をまた未来に向かって投資していかなければなりません」
![]() |
大事なのはパッケージング
ランボルギーニの魅力とは何か。もちろんそのいかにもスーパーカー然としたスタイル(SUVのウルスであってもだ)に過激なパワートレインなど、具体的にいくつもの魅力を数えることもできる。しかし、ヴィンケルマン氏はランボルギーニの魅力はそこだけにあるわけではないことを強調した。
「パッケージが重要なのです。エンジンの振る舞いや、パワーウェイトレシオ、空力、加減速、運転のしやすさなど、関わるすべてのシステムが完璧にバランスされている必要があるのです。それができているからこそ近年のランボルギーニモデルはすべて大成功をおさめ、昔以上にスーパースポーツカービジネスの雄となりました。そういうブランドであることは守っていく必要がある、変わってはいけないことです。そのために全く新しい価値も見いださなければならない。すべてを変えるとはそういうことです。電動化を含め、すべてはさらなる顧客満足度の向上に投資されるというわけです」
オンラインでの短いインタビューながら懇切丁寧に説明するステファン・ヴィンケルマンCEOの姿は、ランボルギーニの電動化を100%成功させるという自信にあふれていた。とはいえ、まずは近々に発表されるというスペシャルなモデルのニュースにも期待しようじゃないか。おそらくはそれは、現状では最強のパワートレイン(「シアン」のような自然吸気V12+モーター+キャパシタか)を積み、歴史的モデルへのオマージュ(「カウンタック」50周年か)を表現した、高性能で超高価な限定モデルになるだろう。
(文=西川 淳/写真=アウトモビリ・ランボルギーニ/編集=関 顕也)
![]() |

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。