フェラーリ・ポルトフィーノM(FR/8AT)
サーキットでも楽しみたい! 2021.05.21 試乗記 今や少数派となったリトラクタブルハードトップを採用する2+2シーター「フェラーリ・ポルトフィーノM」に試乗。マラネッロの開発陣が磨きをかけたパワートレインやシャシーの仕上がりを中心に、先代「ポルトフィーノ」からの進化を探ってみた。ユニークなオープントップは健在
「ポルトフィーノ」とはイタリアの北西部、地中海に面した港町の名だ。漁と観光を主な業としているそうで、マラネッロからもミラノからも、直線距離で100kmくらいのところにある。
何かの試乗の途中に一度通り過ぎただけの印象でしかないが、背後に山が迫ることもあって、そこはひたすら開放感に浸り切るあけすけなリゾートというよりは、ちょっとお忍び感のある小さなモナコのよう……と、そんな雰囲気の場所だった。
そう、開けるもよしならこもるもよし。果たしてフェラーリがそんなことをニヤニヤと考えながらその名をクルマに与えたかはよくわからないが、結果としてポルトフィーノという名前は、このクルマの趣旨によく似合っている。
が、話はどこぞの男性誌が鼻の穴を膨らませる艶っぽい方向ばかりではない。2008年に発表された「カリフォルニア」に端を発するFR・4シーター・メタルトップオープンのラインはフェラーリに新たなユーザー層を迎え入れ、日常性を重視する女性や小さな子供を持つ若いファミリーもこのクルマにとっては重要な顧客だとプロダクトマネージャーは言う。
今や少数派となったCC、つまりクーペとカブリオレの両得を目指したリトラクタブルハードトップ(RHT)システムもそんな顧客の志向には見合っていること、また継続的なリファインもあってフェラーリならではのユニークなメカニズムと認知されていることから、当面は採用を継続するという。
ちまたでは「ローマ」のソフトトップ版がポルトフィーノの代替として用意されるだろうといううわさもあがっていたが、それどころかポルトフィーノに性能強化を主眼としたマイナーチェンジが施されることになった。それがこの、ポルトフィーノMだ。
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改良は広範囲にわたる
エクステリアは前後バンパーフェイシアやエアダクト、リップスポイラーやエキゾーストエンドなどに手が入るが、デザインの変更点としては大きなものではない。オーナーでもなければ従来のポルトフィーノとの識別は難しそうだが、わかりやすい識別点としてはフロントサイドグリルのサイズが大きくなり、開口形状が台形化したというところだろうか。
搭載される3.9リッターV8直噴ツインターボエンジンは、「F8トリブート」と同様、タービンの回転速度をセンシングする新型ターボチャージャーを採用し、あわせてカムプロファイルが更新されるなど中身をリファイン。最高出力は20PS向上し620PS、最大トルクは760N・mと変更はない。
ただしパワーやトルクの発生回転域は広がり、より扱いやすく力強い特性へと進化している。また、ユーロ6d規制に対応すべくGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルター)が組み込まれたことに伴い、エンド部のバイパスバルブの形状と制御によってサイレンサーの役割を果たす新たなエキゾーストシステムも採用され、パフォーマンスとサウンドの融合が図られている。このあたりはローマの開発で得られたノウハウも水平展開されているのだろう。
トランスアクスルレイアウトとなるトランスミッションは、8段DCTへと進化。「Eデフ」も組み込まれるユニットはギアやクラッチも含めて小型軽量化されたほか、ソフトウエアの刷新に伴いアイドリングストップの制御やドライブモードに応じた変速マネジメントがより洗練されたという。
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上質な乗り心地に驚く
そのドライブモードを切り替える「マネッティーノ」は従来の「コンフォート」「スポーツ」「ESC OFF」に「ウエット」と「レース」を加えた5つに細分化され、場面に応じて走りの性能をより最適化できるようになった。ちなみにフェラーリいわく、レースモードは純粋に走りを楽しむという目的のモードで、テールスライドなどの許容量を広げているという。
RHTを閉じた状態で街なかを走り始めて、まず驚かされたのは乗り心地の上質感だ。路面へのアタリはとても優しく、凹凸越えにも鷹揚(おうよう)で、突き上げも丸く、車体を大きく揺するような状況にはなかなか至らない。
路面からの小石のはね上げやタイヤのパターンノイズといった下まわりからの侵入音も、よく抑えられている。そして可動部の多いメタルトップが関わるガタツキや軋(きし)みなどの低級音も、まるで気にならない。下ろしたての個体とはいえ、ここまで完璧な快適さを供してくれるとは思わなかった。
その状況からRHTを開ければ、乗り心地にしなやかさも加わる。大きなうねりが連続するような路面でもいなしが効いたその乗り心地は、正直なところエレガンスを売りにするローマよりも上質なほどだ。
プロダクトマネージャーはポルトフィーノMのライバルとして「ポルシェ911ターボ カブリオレ」の名を挙げたが、なるほど日常域での動的質感は甲乙つけがたい。ちなみに開閉に要する時間はいずれも14秒。40km/h以下の速度なら走行中でも開閉が可能な点は、従来型と変わらない。
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安全・快適装備にも抜かりなし
アクセルを踏み込めば野太さのなかに高ぶるハイトーンを織り交ぜながら、レブカウンターは一気呵成(かせい)に7500rpmのレッドゾーンに突き進む。2速でもテールをムズムズさせながら加速していくサマはいかにも荒くれたスポーツカー的な振る舞いだ。ドライバーを興ざめさせるような野暮(やぼ)を嫌うフェラーリの電子制御はその辺の高揚感をうまく引き出してくれるが、抱える火力が甚大であることは乗り手がわきまえなければならない。
ハンドリングはFRスポーツモデルとくくってみても格別に刺激に満ちたものだ。操舵の初手からゲインがグイグイと立ち上がり、長いノーズは喜々としてインに滑り込んでいく。今回の試乗環境ではレースモードなどは試せなかったが、Eデフの効果を確認する以前の話だろう。
ライフスタイルモデルのような緩いスタンスでいながら、乗ればこちらが心配になるほどのシャープネスをあえて押し出そうというところがなんともフェラーリらしい。オープンカーだというのにサーキットで走らせてみたいと本音でそう思わされたのは、お世辞でもなく他のフェラーリと同質のエモーションがそこにあるからだと思う。
ACCを含めたADASの選択肢が広がり、シートベンチレーションやネックヒーターなども用意されるなど、その周到さからはビジネスコンシャスな器用さもうかがえる。でもポルトフィーノMは跳ね馬のバッジに胡座(あぐら)をかいたクルマではない。ユニークな存在であることとフェラーリの血統であることを全力で両立させようとしている。チャラ男にみせかけて実はバンカラと、そういうギャップに女子が心躍るのはよくわかるし、男子にとっては厄介な存在なのかもしれない。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
フェラーリ・ポルトフィーノM
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4594×1938×1318mm
ホイールベース:2670mm
車重:1664kg(空車重量)/1545kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:3.9リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:620PS(456kW)/5750-7500rpm
最大トルク:760N・m(77.5kgf・m)/3000-5750rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20/(後)285/35ZR20(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:11.3リッター/100km(約8.8km/リッター、WLTPサイクル)
価格:2737万円/テスト車=--円
オプション装備:ボディーカラー<ブルー ツールドフランス70>+内装色<セミアニリンレザー クオイオトスカーノ>+カーペット色<ネロ152>+ADASフルパック+アダプティブヘッドランプ<SBLファンクション>+ネックウオーマー+グロッシーブラックブレーキキャリパー+マットブラックグリル<サテンエフェクトファセッティング付き>+アンチストーンチョッピングフィルム+カーボンファイバードライバーソーン<LED付き>+スポーツテールパイプ+断熱フロントガラス+スクーデリアフェラーリ フェンダーエンブレム+マグネライドデュアルモードサスペンション+パッセンジャーディスプレイ+アルミニウムフットレスト<運転席&助手席>+ベンチレーテッドフル電動シート+ダイナミックフォージドダイヤモンドホイール+折り畳み式リアシートバックレスト+スマートフォンインターフェイス+ハイパワーHi-Fiシステム+サラウンドビュー
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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