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ロータス・エリーゼ スポーツ220 II(MR/6MT)

風景が違って見える 2021.05.28 試乗記 下野 康史 小型で軽量、そしてシンプルというロータス伝統の理念を究めた「エリーゼ」が、四半世紀の歴史の幕を閉じる。最後のスタンダード仕様ともいうべき「スポーツ220 II」に試乗し、エリーゼがこれまで歩んできた孤高のストーリーに思いをはせた。

ロータスの代名詞に成長

2021年内にも生産が始まる超ド級の電動ハイパーカー「エヴァイヤ」の脇に、ベールにくるまれた3台が並んでいる。ロータスがそんなティーザーフォトを公開したのは同年1月のこと。そのビジュアルとともに、今後の計画が発表された。2017年に中国のジーリー(吉利)グループに入ったロータスの“フルモデルチェンジ”だ。

エリーゼ、「エキシージ」、「エヴォーラ」の3モデルは2021年9月で生産終了となる。代わって新世代のスポーツカー「タイプ131」がベールを脱ぐ。

それが「エミーラ」であり、同年7月に正式発表されることはwebCGでも既報のとおりだ。最近の新型ロータスお披露目の流儀に従って、一般公開は7月8日からのグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード。去年のようにコロナ禍で中止にならないことを祈りたい。

3億円という価格もあり、日本ではひとりも手を挙げる人がいなかったエヴァイヤは2000馬力のフルEVだが、エミーラは最後のエンジンロータスになる。エリーゼでは基本、アウトソーシングだったパワーユニットが今度はどうなるのか、答えがわかるのはもうすぐである。

いずれにしても、トヨタ製エンジンベースの現行ロータスはこれで姿を消すことになる。なかでもエリーゼはロータスの代名詞であり、トップセラーでもあった。96年にシリーズIが登場してから四半世紀、最後のエリーゼの1台、スポーツ220 II(682万円)に乗ってみた。

今回の試乗車は、2017年10月に導入された「エリーゼ スポーツ220 II」。エリーゼの最終ラインナップにおいては、エントリーモデルという位置づけとなる。
今回の試乗車は、2017年10月に導入された「エリーゼ スポーツ220 II」。エリーゼの最終ラインナップにおいては、エントリーモデルという位置づけとなる。拡大
左右のフロントフェンダーに備わるウインカー一体式の「ELISE」エンブレム。今回の試乗車がまとっていたのは、オプションの「メタリックオレンジ」と呼ばれる外装色。
左右のフロントフェンダーに備わるウインカー一体式の「ELISE」エンブレム。今回の試乗車がまとっていたのは、オプションの「メタリックオレンジ」と呼ばれる外装色。拡大
“フェイズIII”と呼ばれる「エリーゼ スポーツ220 II」のフロントフェイス。バンパー左右のエアインテークが拡大されているため、従来モデルとの識別は容易だ。
“フェイズIII”と呼ばれる「エリーゼ スポーツ220 II」のフロントフェイス。バンパー左右のエアインテークが拡大されているため、従来モデルとの識別は容易だ。拡大
左右のリアフェンダーにまたがる、大型リアウイングを標準装備。ボディーは軽量なGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)製となっている。
左右のリアフェンダーにまたがる、大型リアウイングを標準装備。ボディーは軽量なGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)製となっている。拡大
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エンジンチューンもロータス流

試乗車に乗り込むと、助手席ダッシュボードに“Joe Richards”と刻まれたシルバーのプレートが貼ってあった。製造担当者のサインだろう。エリーゼでこんな趣向を見たのは初めてである。

エリーゼに乗るのは3年ぶりだ。以前試乗したのは現行シリーズIIIのフェイスリフト直後に出た136PSの自然吸気1.6リッターモデルで、輸入元のLCIが500万円をきる価格で売りたいというテーマで本国に働きかけた能動的日本仕様だった。

しかしスポーツ220 IIはそれとは対照的なファイナルエボリューションである。内装はエリーゼ的にはフルトリムで、アルミバスタブフレームの地肌の面積がかつてなく少ない。部屋に飾っておきたいくらいカッコいいオープンゲートギアボックスのまわりにはボディーと同色の加飾プレートが備わる。もちろんエアコンは標準装備だ。

トヨタの1.8リッター4気筒DOHCに米国マグナソン製のスーパーチャージャーを組み合わせ、ロータス自製のECIでコントロールされるエンジンは、最高出力220PSを発生する。オリジナルのトヨタ2ZR-FE型は130PS程度だから、“ロータス化”による実入りはきわめて大きい。コールドスタート時のひと吠えなどは4リッター級スーパースポーツに近い。アウトソーシングといっても、既製のエンジンをそのまま載せるモーガンとはまったく違う。

コックピットと呼びたくなるシンプルな造形の運転席まわり。ボディーカラーと同じオレンジ色を配したエアコン操作パネルやトランスミッションコンソールは、オプションの「インテリアカラーパック」によるアイテム。
コックピットと呼びたくなるシンプルな造形の運転席まわり。ボディーカラーと同じオレンジ色を配したエアコン操作パネルやトランスミッションコンソールは、オプションの「インテリアカラーパック」によるアイテム。拡大
ダッシュボード左に貼り付けけられたアルミプレートには、ロータスのエンブレムとともに製造担当者の名前が刻まれている。
ダッシュボード左に貼り付けけられたアルミプレートには、ロータスのエンブレムとともに製造担当者の名前が刻まれている。拡大
マニア心をつかむ、メカニズムが丸見えのシフトセレクター。トランスミッションには6段MTが採用されている。
マニア心をつかむ、メカニズムが丸見えのシフトセレクター。トランスミッションには6段MTが採用されている。拡大
トヨタ製の1.8リッター直4エンジンに、米マグナソン製スーパーチャージャーを組み合わせたパワーユニットをリアミドに横置き搭載。最高出力220PS、最大トルク250N・mを発生する。
トヨタ製の1.8リッター直4エンジンに、米マグナソン製スーパーチャージャーを組み合わせたパワーユニットをリアミドに横置き搭載。最高出力220PS、最大トルク250N・mを発生する。拡大

スーパースポーツ級の加速

スポーツ220 IIはたしかにエリーゼの完成形と呼ぶにふさわしいロータスである。

並のスポーツカーとは一線を画す“地ベタ感”は相変わらずで、夜が明けたばかりの空いた町でスロットルを開けると、もうたまらない。意のままに動くから、気分がアガる。いつもの町が違って見える。

レブリミットは7000rpm。そこまで回すと6段MTの1速は60km/h、2速は100km/hに達する。トップエンドへ向けてさらに一段伸びる感じの回転フィールと、プォーンという排気音もたまらない。

高速道路へ上がると、感心するのはシャシーのスタビリティーの高さだ。なんの運転支援装置も付いていないが、ストレートでも曲線でも、ステアリングに手を添えているだけで、狙い通りのラインを平然とトレースする。路面の凸凹やうねりなどの外乱にも強い。そういう意味ではハイスピードでも非常にリラックスできるクルマである。まったくアンコの存在を感じないバケットシートは、しかし持ち逃げしたいほど快適な座り心地を与える。

車重は車検証記載値で940kg。そこに220PSだから、速いのは当然だ。4.6秒という0-100km/h加速データもスーパースポーツ級だ。

だが、意外や車重のわりに“ライトウェイト感”はない。アイバッハ製コイルスプリングにビルシュタイン製ダンパーを組み合わせた四輪ダブルウイッシュボーンの足まわりも、乗り心地はむしろズシリとしている。これは最近のエリーゼ一般に感じる特徴だ。ラップタイム短縮を狙って、限界を上げ続けてきた結果だろう。スポーツカーのなかでもとくに“サーキットベスト”を目指してきたエリーゼの必然ともいえる。

サスペンションは前後ともに、ダブルウイッシュボーン式。単筒式のビルシュタイン製ダンパーとアイバッハ製コイルスプリングが組み合わされている。
サスペンションは前後ともに、ダブルウイッシュボーン式。単筒式のビルシュタイン製ダンパーとアイバッハ製コイルスプリングが組み合わされている。拡大
「エリーゼ スポーツ220 II」のルーフは、キャンバス製の巻き上げ式。取り外してオープンエアモータリングを楽しむこともできる。
「エリーゼ スポーツ220 II」のルーフは、キャンバス製の巻き上げ式。取り外してオープンエアモータリングを楽しむこともできる。拡大
ダッシュボード右側の操作パネルに組み込まれた「ロータス・ダイナミックパフォーマンスマネジメント(Lotus DPM)」のスイッチ。「DRIVE」「SPORT」「ESP OFF」の3つのモードが用意されている。
ダッシュボード右側の操作パネルに組み込まれた「ロータス・ダイナミックパフォーマンスマネジメント(Lotus DPM)」のスイッチ。「DRIVE」「SPORT」「ESP OFF」の3つのモードが用意されている。拡大
「エリーゼ スポーツ220 II」に標準装備される10スポークの鋳造アルミホイール。グロスブラック(写真)とシルバーの2色からカラーを選択できる。タイヤは「ヨコハマ・アドバンスポーツV105」で、前195/50R16、後ろ225/45R17サイズが装着されていた。
「エリーゼ スポーツ220 II」に標準装備される10スポークの鋳造アルミホイール。グロスブラック(写真)とシルバーの2色からカラーを選択できる。タイヤは「ヨコハマ・アドバンスポーツV105」で、前195/50R16、後ろ225/45R17サイズが装着されていた。拡大

最終型はもはや別物

96年に出た丸目のシリーズIエリーゼは、車重たったの690kgだった。ローバーの1.8リッター4気筒も118PSにすぎなかった。

実際、オリジナルのエリーゼは“軽さで走る”ことを実感させるスポーツカーだった。高性能というよりも、サンダルのような気安さと使いやすさが際立っていた。内装などはそっけなさ過ぎて、「これでおしまい?」と思わせるほどだった。バックヤードスペシャルっぽくもあったのだ。

それに比べたら、この最終型は別物といってもいい。商品性も洗練されたし、性能はひとくちに“濃厚”である。低い速度でも楽しめるという意味では、初期型がちょっとなつかしいが、しかしその差こそが25年にわたるエリーゼの成果だろう。

新しいビッグスポンサーを得たロータスはより大きくグローバルなメーカーを目指してゆく。保安基準に適合せず、エリーゼもエキシージも本格的な対米輸出はかなわなかったが、今後はアメリカと中国が主要マーケットになる。来るエミーラのあとには中国でも生産するEVのSUVが控えている。

それでも“For Drivers”(ドライバーのために)というスローガンを掲げるロータスのこれからに期待したい。けど、ギリ400万円台のロータスなんて、もう出ないだろうなあ。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=櫻井健一)

デビュー当初のエリーゼは“軽さで走る”ことを実感させるスポーツカーだったが、四半世紀を経た最終型は洗練され、“濃厚”な走り味に変化していた。
デビュー当初のエリーゼは“軽さで走る”ことを実感させるスポーツカーだったが、四半世紀を経た最終型は洗練され、“濃厚”な走り味に変化していた。拡大
エンジンルーム後方に配置される荷室の容量は112リッター。ルーフから取り外したキャンバス製のトップを収めておくことができる。
エンジンルーム後方に配置される荷室の容量は112リッター。ルーフから取り外したキャンバス製のトップを収めておくことができる。拡大
車体後部下に備わるディフューザー。エアフローを整え、ダウンフォースの発生に寄与するという。最低地上高は130mmで、23度のデパーチャーアングルが確保されている。
車体後部下に備わるディフューザー。エアフローを整え、ダウンフォースの発生に寄与するという。最低地上高は130mmで、23度のデパーチャーアングルが確保されている。拡大
「エリーゼ スポーツ220 II」の動力性能は、0-100km/h加速が4.6秒、最高速が233km/hと発表されている。
「エリーゼ スポーツ220 II」の動力性能は、0-100km/h加速が4.6秒、最高速が233km/hと発表されている。拡大

テスト車のデータ

ロータス・エリーゼ スポーツ220 II

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3800×1720×1130mm
ホイールベース:2300mm
車重:924kg(英国内発表値)
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:6段MT
最高出力:220PS(162kW)/6800rpm
最大トルク:250N・m(25.4kgf・m)/4600rpm
タイヤ:(前)195/50R16 84W/(後)225/45R17 91W(ヨコハマ・アドバンスポーツV105)
燃費:--km/リッター
価格:682万円/テスト車=727万5400円
オプション装備:メタリックペイント<メタリックオレンジ>(17万6000円)/ブラックパック<フロントアクセスパネル+ロールフープカバー+ミラーキャップ+ミラープリンス+リアトランサムのマットペイント>(8万2500円)/Vスポーク軽量鋳造アルミホイール<ブラック>(0円)/クラリオン製CD・MP3・WMAオーディオ(2万2000円)/インテリアカラーパック<メタリックオレンジ>(8万2500円)/ステッチ<オレンジ>(4万4000円)/ブラックカーペットマット(3万3000円) ※以下、販売店オプション ETC車載器(1万5400円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:9665km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:283.8km
使用燃料:21.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.1km/リッター(満タン法)

ロータス・エリーゼ スポーツ220 II
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下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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