メルセデス・ベンツEQA250(FWD)
セカンドカーならちょうどいい 2021.05.31 試乗記 電気自動車(EV)のラインナップ強化にいそしむメルセデス・ベンツから、コンパクトSUVタイプの新型車「EQA」が登場。取り回しのしやすさや、デイリーユースでの使い勝手のよさなどがうたわれるニューモデルの仕上がりを報告する。拡充が進むメルセデスのEV
ダイムラー製の乗用車として長らく使われている「メルセデス・ベンツ」というブランドだが、現在その直下にある市販車は、エンジンを積んだモデルの、しかも一般的なグレードにかぎられる。AMGが手がけるスポーツモデルは「メルセデスAMG」、ハイエンドなラグジュアリーモデルは「メルセデス・マイバッハ」、そして今回のEQAを含めた専用開発のEVは「メルセデスEQ」というサブブランドで販売されている。
そのメルセデスEQとしては、EQAは3番目の市販商品ということになる。ちなみに第1弾は日本でも販売中の「EQC」で、第2弾が「Vクラス」ベースで日本未導入の「EQV」だ。で、さる2021年4月15日に「Sクラス」に相当するセダンの「EQS」が第4弾として発表された。
最新のEQSはメルセデス初のEV専用プラットフォーム車だそうだが、それまでの3台はすべて既存のメルセデス・ベンツがベースである。このEQAはご想像のとおり、プラットフォームや上屋構造、そしてインテリアデザインなどをコンパクトSUVの「GLA」と共有している。
今回発売されたEQA250は、EQAのなかでもベーシックな位置づけとなるモデルで、駆動レイアウトもFFである。つい先日の2021年5月5日には、よりパワフルな2モーター4WDの「EQA300 4MATIC」と「EQA350 4MATIC」について、本国での受注を開始している。
コストパフォーマンスは悪くない
ダイムラー製のEVといえば「スマート」がもっとも手ごろだが、日本におけるスマートの新車販売は休止中。よって、日本ではEQAがダイムラーのエントリーEVとなる。
640万円という本体価格は少しばかり高めに思えるかもしれないが、66.5kWhという電池容量はこのサイズのEVとしてはかなり大きい。サイズやジャンルを考えるとけっこうドンピシャに競合する「レクサスUX300e」は54.4kWhの電池を積んで580~635万円。ジャーマンスリーの小型EVという点で共通する「BMW i3」は42.2kWhで505~566万円だから、電池容量で換算すると、EQAはこれらよりは割安ともいえる。
まあ「日産リーフe+」と「テスラ・モデル3」は電池容量換算でもさらに安価だが、SUVならではの使い勝手やブランド力を加味すれば、EQAの価格はリーズナブルといっていいとは思う。
EQAを目の前にすると、良くも悪くもGLAの雰囲気がプンプンである。運転席からの眺めも、GLAのみならず「Aクラス」などでも見慣れた風景だし、荷室も床下収納こそ省略されているものの、パッと見ではGLAと大きく変わらない。
EQAのようなCセグメントサイズで60kWhオーバーの電池を積むのはけっして簡単ではない。たとえば、リーフe+などは標準のリーフより最低地上高が小さくなっているほどだ。しかし、EQAはSUVスタイルという有利を生かし、GLAと同等以上の210mmという最低地上高をキープ。ドライバー空間やトランクもGLAとほぼ選ぶところがないのは前記のとおり。……というわけで、そのシワ寄せはほぼ後席空間に集中している。
EQAの後席はレッグルームこそGLAと同等だが、ヒップポイントが少しだけ、そして足もとフロアは目に見えて高くなっている。そしてGLAにあるスライド機構も省かれている。EQAは前席から後席にかけての床下にたっぷりと電池を積んでいるからだ。ヒップポイントのかさ上げは身長178cmの筆者でも「少し余裕が減ったか」程度で済んでいるが、フロアが高くなったことで、着座姿勢は座面から太ももが浮いた“体育座り”が強いられる。レッグルーム自体はたっぷりあるが、個人的にはEQAの後席での長距離ドライブは遠慮したい。
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減速側は好印象だが加速側は要改善
動力性能に絶対的な不満はない。ドライブモードを「スポーツ」にすると、ひと踏みでのけぞる加速を披露する。GLA用のシフトパドルはそのまま残されており、回生ブレーキの強さを合計4段階から選べる。デフォルトは弱いほうから2番目で、通常のATに慣れ切った身にも違和感のない調律になっている。そこから「+」パドル(通常のシフトアップ側)を1回引くと、回生が皆無となるコースティング走行となり、逆に「-」パドル(=シフトダウン側)を引くと、さらに強い回生が2段階用意されている。
パワートレインにはこのパドル以外に「エコ」「コンフォート」、スポーツという3つの制御モードも用意されるが、その調律には熟成の余地がある。アクセルペダルの重さと加速特性の調和を考えると、スポーツはともかく、現状のエコはマイルドにすぎ、コンフォートだと逆に加速力が少し強すぎる。個人的にはエコとコンフォートの中間がほしいところなのだ。
まあ、それも特筆するほどでもない微妙なレベルといえばそうなのだが、ここまで電動車が普及してくると、こういう部分の味つけと一体感こそが差別化のキモとなってくるはずだし、テスラとはちがう伝統ある自動車メーカー最大のウデの見せどころでもある。また、EQAの場合は減速側の味つけが好印象だっただけに、加速側の微妙なズレがなおさら気になったという理由もある。
話はそれるが、今回は最新の某高級輸入セダンと同時取材だった。その某セダンとEQAを取っかえ引っかえ乗っていると、そのセダンの最新2リッター直噴ターボですら反応がEQAより1テンポどころか、3~4テンポも遅れて感じられた。つまり、EVではそれだけ乗り手の感覚が敏感になってしまう。EVに代表される電動車が本格普及したあかつきには、パワートレインの“制御やレスポンスの質感”みたいなものが問われる時代になると思う。
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乗り味に感じる“共用プラットフォーム”の限界
今回の試乗車にはパッケージオプションの「AMGライン」が装着されており、そこには内外装コスメのほか、大径20インチタイヤと可変ダンパーも含まれていた。可変ダンパーといっても電子制御の連続可変式ではなく、コンフォートとスポーツで減衰力を切り替える比較的シンプルなタイプである。
走行モードをエコもしくはコンフォートにすれば、整備が行き届いた路面ではそれなりにフラットで、路面からの突き上げもソフトで高級感のある乗り心地を披露する。ただ、わずかでも凹凸やワダチがあると、ユラユラとした動きが抑えきれないクセが目立つのも否定できない。スポーツモードにするとユラユラは少し抑制されるが、今度は突き上げが正直に強まってしまう。さらに、4輪をバラバラに蹴り上げるようなうねり路で、上屋が盛大に揺すられてしまうのは、コンフォートもスポーツも基本的に同じである。
もっとも、今回の試乗車が乗り出し時のオドメーターが200kmちょいというド新車であったことは考慮する必要があるだろうし、「非AMGラインの18インチ+標準ダンパーならもう少しマシかも?」という可能性もなくはない。ただ、この乗り心地やハンドリングは細部のチューニングの問題だけでなく、車体剛性や重心高、重量配分などのマッチングによるところも大きい気がする。
また、控えめなパワートレインながら、スポーツモードで遠慮なく踏んでいくと、フロントタイヤが容易にグリップを失い(すかさずトラクションコントロールが介入して)失速してしまうシーンも頻繁にあって、エンジン車との共通プラットフォームの限界をなんとなく感じたりしたのも事実だ。
セカンドカーにちょうどいい……のか?
リアシート空間といい、こうしたシャシーやパワートレインの仕立てといい、EQAのクルマづくりには、どことなく割り切りが感じられなくもない。プラットフォームの共用化も含めた、こうした割り切りも比較的手ごろな価格を実現できた理由のひとつだろう。また、今後上陸するはずのハイパワー4WDモデルはともかく、このEQA250は富裕層のセカンドカーもしくはサードカーとして買われるケースがもっとも多いと想定しているからかもしれない。
66.5kWhという大容量電池のおかげもあって、EQA250の満充電航続距離は、最新EVのひとつのボーダーラインである400kmを超える422km(WLTCモード)をうたう。400km以上の航続距離があれば、通勤通学や日常のお使いはもちろん、日帰りのドライブまでなら出先での充電に頼らず運用可能。つまり、セカンドカー的な使いかたにはうってつけということである。
EQAはもちろん日本の急速充電にも対応しているが、現在普及している急速充電器は、比較的高出力なものでも50kW級が多い。その50kW急速充電器で30分充電しても、現実に稼げる航続距離はせいぜい100km。EQAの最大航続距離の4分の1。搭載する電池容量が増えて航続距離が長くなるほどに、急速充電のありがたみが薄れる……のも事実で、発展途上のEVならではのジレンマでもある。
ただ、こうしたストレスも「面倒くさそうなときは、ほかのクルマに乗ればいい」と割り切れるセカンドカー以下ならほぼ解消である。ガレージにラグジュアリーセダンや大型SUV、スーパースポーツカーを並べる富裕層のお使いグルマとしては、EQAの「メルセデスのコンパクトSUV」という記号性は、ブランド力と使い勝手の両面で、商品力は素直に高い。セカンドカー以下なら、細かいデキの良しあしもそう気にならない(のか?)。
また、EQAにかぎらずEVの実質価格は本体価格よりずっと安い。住んでいる地域にもよるが、補助金や各税金の減免で少なくとも60万円前後、さらに最近導入された「再生エネルギー電力利用補助金(再エネ電力プランなどに加入すると交付される)」などを駆使すると、最大で200万円近い補助や優遇を受けられるという。となると、EQAの実質価格は400~500万円台。これなら富裕層が「ちょっと面白そう」と衝動買いするのにちょうどいい(のか?)。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツEQA250
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4465×1850×1625mm
ホイールベース:2730mm
車重:2030kg
駆動方式:FWD
モーター:交流誘導電動機
最高出力:190PS(140kW)/3600-1万0300rpm
最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/1020rpm
タイヤ:(前)235/45R20 100T XL/(後)235/45R20 100T XL(コンチネンタル・エココンタクト6)
一充電最大走行可能距離:422km(WLTCモード)
交流電力量消費率:181Wh/km(WLTCモード)
価格:640万円/テスト車=719万3000円
オプション装備:ナビゲーションプラスパッケージ(15万1000円)/AMGライン(47万2000円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(17万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:219km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:297.0km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.7km/kWh(車載電費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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