アウディS3スポーツバック ファーストエディション(4WD/7AT)
ホットハッチの理想形 2021.06.23 試乗記 アウディのスポーツコンパクト「S3」がフルモデルチェンジ。小柄なボディーに高出力ターボエンジンとフルタイム4WDを組み合わせたホットハッチは、いかなる進化を遂げたのか? 可変サスペンションを備えた「ファーストエディション」で、その走りを試した。ベース車につられてよりアグレッシブに
試乗車が目にも鮮やかな「パイソンイエローメタリック」のボディーカラーを身にまとうこともあって、新型S3スポーツバックには、ずいぶんと派手になった印象を覚えた。ハイエンドスポーツの「RS 3」とスタンダードな「A3」の中間であるS3のルックスは、先代モデルまでは意外なほど控えめで、それと知らないで見ればスタンダードと勘違いするほどだった。それがいきなり宗旨替えしたのかと思えばそうではない。ベースとなるA3自体が、アグレッシブなスタイリングになったのだ。
先代モデルに比べると全幅は30mmも広がり、ボディーサイドは抑揚の大きな凹面形状となり、ブリスターフェンダーが強調されるようになった。ショルダーラインは高めでサイドウィンドウも天地が狭くなっているので、スポーツカーのようにダイナミックな印象を受ける。フロントのワイドなシングルフレームグリルと大型エアインテーク、ヘッドライトの外側下部にレイアウトされた3×5配列のデジタルデイタイムランニングライトなどもアグレッシブ。スタンダードでさえRS 3と見まごうぐらいで、A3とS3で大きな違いはないのは、これまで通りなのだ。
とはいえ、シングルフレームグリルはハニカムパターンとなり、エアインテークもより大型化、リアディフューザーや左右4本出しのテールパイプなど、スポーツモデルらしいアイコンがさりげなく主張する。インテリアでは、スポーツシートとスタンダードよりも大きな12.3インチのデジタルメーター「バーチャルコックピットプラス」が標準装備される。
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熟成極まった2リッターターボの気持ちよさ
新型A3シリーズの日本での動向をおさらいすると、スポーツバック/セダンともに、まず2021年5月に1リッターターボの「A3 30 TFSI」とS3が上陸し、同年秋ごろに2リッターターボの「A3 40 TFSI」の導入が予定されている。一方、RS 3はまだモデルチェンジされておらず、先代A3ベースのモデルが販売されている。現状ではこのS3が、新型A3のラインナップ中、最もパフォーマンスの高いモデルとなるわけだ。
2リッターターボエンジンは最高出力310PS/最大トルク400N・mで、先代の290PS/380N・mから20PS、20N・mのスープアップを実現。350barと高圧な燃料噴射システムよってハイパワーと優れた排ガス性能の両立を果たしている。先代モデルの噴射圧は定かではないが、同型のエンジンを搭載する「ゴルフGTI」は200barから350barとなっているので、同程度だろう。トランスミッションは先代のマイナーチェンジ時に6段から7段となったデュアルクラッチ式AT「Sトロニック」で、電子制御油圧多板クラッチを用いたフルタイム4WD「クワトロ」と組み合わされる。
走りだしてまず印象的なのは、エンジンが軽快なことだ。2000-5450rpmという回転域で最大トルクを発生するから、低回転域でも頼もしく、実用的なトルク型エンジンともいえる。しかし、それ以上にアクセルを踏み込んだときの雑みがなく洗練された吹け上がりが気持ちいいのだ。しかも6500rpmのレブリミットまでその勢いは衰えない。0-100km/h加速は4.8秒と速さ自体も相当なもので、ギアチェンジの素早さもさすがはSトロニック。40 TFSIよりもわずかだがクロスレシオとなっているのも、軽快感につながっているのだろう。
「アウディドライブセレクト」を「ダイナミック」にすると、サウンドも迫力が増す。面白いのは、アウディが得意とする直列5気筒にも似た独特のリズム感があることだ。中間加速ではアクセル操作に対して間髪入れずに呼応するレスポンスのよさが光る。基本設計は古いエンジンだが、それだけに熟成が極まっているようだ。
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標準装備される可変サスペンションの効能
その一方で、普通に走らせているときには少しでも燃費を稼ごうという意欲もみてとれる。巡行時にアクセルペダルから足を離すとサーッと滑空していくかのようで、エンジンブレーキがほとんど利かずに転がっていく。流れのいい郊外路や高速道路などでは燃費を伸ばすことができそうだが、周囲の交通に合わせて速度調整しなければならない場合はかえって走りづらいこともある。パドルを使ってシフトダウンするのもいいが、3つも4つも落とすのは面倒なので、そんなときは新形状となったシフトスイッチで、DレンジからSレンジに切り替えるのが手っ取り早い。ずいぶんと小さいが、ブラインドタッチで操作できる。
試乗車のファーストエディションにはダンピングコントロールサスペンションが装備されており、アウディドライブセレクトによって減衰力の制御が「コンフォート」「オート」「ダイナミック」の3つに切り替わる。スプリングはスポーツモデルとしてそれ相応に引き締まっていて、大きな段差を乗り越えたときなどには硬さを感じることもあるが、コンフォートにしておけばたいていの場面で乗り心地はいい。スタンダードなA3はもっとソフトタッチだが、高速道路などではシャキッとしたS3のほうがかえって快適なぐらいだ。
これが、ダイナミックになると途端に路面の細かな凹凸まで感知されるようになる。微小入力域からダンピングが素早く立ち上がるのだが、それがコーナーに向けてステアリングを切り始めた瞬間からクンッとノーズが反応する、まさにダイナミックなハンドリングという恩恵をもたらす。コンフォートよりも格段にステアリングレスポンスが増すのだ。
効率のよい走りもアウディの真骨頂
ワインディングロードでペースを上げていってもロールは少なく、グリップ力も抜群に高い。それでいて、ダイナミックでもしっかりとしなやかさがあり、荒れた路面でもサスペンションが路面を捉え続けてくれるので、姿勢が乱されるようなことがない。中・高速コーナーでは安定感が高く自信を持って走れる一方、タイトコーナーでは高い旋回能力を見せつける。クワトロのトルク配分の巧みさが大きな助けとなり、どんな場面でもオン・ザ・レール感覚の高いライントレース性を発揮するのだ。
加えて、記憶にある先代S3と比べるとステアリングフィールがダイレクトになったように思う。アウディのステアリングは全般的に軽くて快適だけれど、どこかリモコン的でダイレクト感は薄いという傾向にあったが、新型S3のそれには濃厚なインフォメーションがあり、操る喜びを引き上げている。
ダンピングコントロールサスペンションを装着したS3スポーツバックは、日常を快適に過ごせて、いざとなればスポーツカー顔負けのパフォーマンスを発揮する理想的なホットハッチだ。アウディらしい品のよさは保ちながら、アグレッシブになったルックスも大部分の人が歓迎するだろう。
燃費も望外によかった。トータルでは11.9km/リッター(車載燃費計)となったが、これは意外と燃料を消費してしまう撮影時の走行や、ワインディングロードを元気に走りまわったことまで含めたもので、東京・世田谷から山梨県までの往路は14.5km/リッターだった。高速道路が主体とはいえ、目的地の標高が出発地よりも482mも高いことを考えれば立派だろう。電動化に積極的なアウディではあるものの、一滴の燃料も無駄にしないエンジンテクノロジーもまた見事なのである。
(文=石井昌道/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
アウディS3スポーツバック ファーストエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4350×1815×1440mm
ホイールベース:2630mm
車重:1560kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:310PS(228kW)/5450-6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000-5450rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y/(後)235/35R19 91Y(ブリヂストン・ポテンザS005)
燃費:11.6km/リッター(WLTCモード)/12.7km/リッター(JC08モード)
価格:711万円/テスト車=711万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3433km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:303.9km
使用燃料:26.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.6km/リッター(満タン法)/11.9km/リッター(車載燃費計計測値)

石井 昌道
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