アウディS3スポーツバック(4WD/7AT)
やりすぎない美学 2017.04.01 試乗記 高出力のターボエンジンとフルタイム4WDシステムを組み合わせた「アウディS3スポーツバック」がマイナーチェンジ。進化を遂げた高性能ハッチバックの走りには、スポーティー一辺倒ではない“S”ならではの流儀が感じられた。ポジショニングはきっちりと
webCG編集部Fさんからクルマをバトンタッチした。ふだん「ゴルフGTI」を愛用している彼に、初めて乗る新型S3スポーツバックの感想を聞くと、「軽くてイイですねえ」と感心して言った。
ゴルフクラスのアウディ、「A3」シリーズにマイナーチェンジが施され、S3にも小変更が加えられた。フロントグリルが六角形になり、LEDヘッドランプの表情が涙目から切れ長になった。内装では、計器盤でカーナビの地図が見られるなど、最新のドライブインターフェイスを備えた“バーチャルコックピット”が付いた。
パワートレインでは2リッター4気筒ターボがパワーアップした、といっても285psから290psへの微増で、38.8kgmのトルクは変わっていない。実質的な変更はSトロニックが6段から7段になったことだろう。
ノーマルでは飽き足らない人の、高性能A3がS3である。本国では3ドアやカブリオレもあるが、日本仕様の品ぞろえはA3と同じく、5ドア(スポーツバック)と4ドアセダン。290psの2リッター+4WDだから、ゴルフでいうと、220psのGTIを飛び越えて、“R”相当といえる。
昨年、ゴルフはニュルブルクリンクFF市販車最速を狙った265psのGTIクラブスポーツを限定販売したが、アウディの“3”には、「RS 3」という別格のトップガンが君臨している。あくまで控えめに、上品に見せておいて、実はしっかりフォルクスワーゲンにマウンティングしているのがアウディである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
スポーティーかつ上質
前述ゴルフGTIオーナーの言うとおり、S3の魅力はまず“軽さ”である。車重の軽さではない、走りの軽さだ。
1520kgの車重は「A3スポーツバック2.0 TFSIクワトロ」より60kg重いが、吸気ポートとシリンダー内、両方で噴射するダブルインジェクションの2リッター4気筒ターボは、一気に100psのパワーアップを果たしている。加えて、Sトロニックのギア比とファイナルレシオは、トータルだと“加速寄り”にチューンされている。ノーマルだって十分すぎるほど快速なのだから、S3が速いのは当然だが、かといって、290psのフルタイム四駆ホットハッチ! と肩を怒らせたようなところはみじんもない。
そんなチューニングのキャラクターはシャシーもまったく一緒である。プラス100psに対処した足まわりにも、ドテッとした重さがないのがうれしい。ドライブセレクトを最もスポーティーな“ダイナミック”にしても、乗り心地は快適さを失わないし、電動パワステの爽やかな軽さも大きくは変わらない。
機械を研ぎに研いだ先にたどり着いたような走りの軽さは、ノーマルA3でも、ゴルフGTIやRでも得られない。スポーツ性と上質さをこれほど高い水準で両立させているコンパクトカーは、ほかには「BMW M140i」くらいだろう。着心地の軽い高級ジャケットのようなクルマである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
やりすぎないのが“S”の芸風
S3は、A3とまったく同様に普段使いができるクルマだが、やはり一番“S3甲斐”を感じたのは、行きつけのワインディングロードを走ったときだった。すばらしく速い。スポーツ走行時の自在な楽しさは、アウディのなかでは「S1」と双璧だと思う。ペースを上げるほどボディーがコンパクトに感じられる“タイプ”で、そんな走り方をしている最中も、上質さは失われない。
パワートレイン/ステアリング/ダンパーなどの特性をセットで切り替えるドライブセレクトは、オートのほかに硬軟3種類が選べる。
ドライビングを楽しむなら、ぜひ“ダイナミック”にしたい。アクセルやステアリングの反応が鋭くなる。風船が割れるような回転落ちの速さが特に気持ちいい。排気音は、うるさくない範囲でスポーティーになる。こうしたドライブモード切り替えで最強を選ぶと、周囲や助手席のひんしゅくを買うほどをうるさくなるクルマもあるが、そこまでハジけないのが“S”の芸風だ。リゾートホテルのプールサイドで靴下を履いているのは、必ずドイツ人である。
ライバルは意外にも……
筆者はマイナーチェンジ前のS3に乗ったことがない。そのかわり、RS 3は経験している。アウディスポーツGmbH特製のメガハッチだ。直線をフル加速すると、たしかに目がテンになるけれど、それ以外ではあまりにも限界が高すぎて、楽しいとは思えなかった。その点、S3は高性能を別格のかろやかさという走行品質で味わわせてくれる。
欠点は特に見当たらなかったが、約240kmを走って8.2km/リッターと、燃費はあまりよくなかった。最近乗った6.2リッターの「シボレー・コルベット」(MT)も、暇なときは片肺のV4運転をして8km/リッター台に乗った。
S3は今回のマイナーチェンジで大台を超え、606万円になった。ゴルフRのDSGが549万円だからこれくらい、ということで、つじつまは合っていると思う。
とはいえ、とくべつひと目をひく派手さはないし、ゴルフGTIほど有名じゃない。それでも、S3を指名買いする人は、A3シリーズ全体の1割ほどを占めるという。日本でもちゃんと売れるモデルなのである。
S3に興味を持つ人が、いま一番気にしている最大のライバルは、意外やプラグインハイブリッドの「A3 e-tron」ではないだろうか。加速性能はひけをとらないし、走行品質の高さも負けていない。燃費ははるかにいい。価格は40万円安い。悩んでください。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
アウディS3スポーツバック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4335×1785×1440mm
ホイールベース:2630mm
車重:1520kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:290ps(213kW)/5400-6500rpm
最大トルク:38.8kgm(380Nm)/1850-5300rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ブリヂストン・トランザT005)
燃費:14.7km/リッター(JC08モード)
価格:606万円/テスト車=674万円
オプション装備:ボディーカラー<ナバーラブルーメタリック>(7万円)/アウディマグネティックライド(13万円)/Bang & Olufsenサウンドシステム(8万円)/アウディデザインセレクション エクスプレスレッド<ファインナッパレザー+レッドアクセントリング付きエアコン吹き出し口>(24万円)/マトリクスLEDヘッドライト+フロントダイナミックターンインジケーター(11万円)/カラードブレーキキャリパー<レッド>(5万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1546km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:233.8km
使用燃料:28.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.2km/リッター(満タン法)/8.3km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
スズキDR-Z4S(5MT)【レビュー】 2026.1.7 スズキから400ccクラスの新型デュアルパーパスモデル「DR-Z4S」が登場。“Ready 4 Anything”を標榜(ひょうぼう)するファン待望の一台は、いかなるパフォーマンスを秘めているのか? 本格的なオフロード走行も視野に入れたという、その走りの一端に触れた。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.1.6 「三菱デリカミニ」がフルモデルチェンジ。ただし、先代のデビューからわずか2年で……という期間も異例なら、見た目がほとんどそのままというのもまた異例だ。これで中身もそのままならさらに異例だが、こちらは逆に異例なほどの進化を遂げていた。
-
NEW
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。 -
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2026.1.15あの多田哲哉の自動車放談トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんが今回試乗するのは、24年ぶりに復活した「ホンダ・プレリュード」。話題のスペシャルティーカーを、クルマづくりのプロの視点で熱く語る。 -
NEW
第944回:こんな自動車生活は最後かもしれない ―ある修理工場で考えたこと―
2026.1.15マッキナ あらモーダ!いつもお世話になっている“街のクルマ屋さん”で、「シトロエン・メアリ」をさかなにクルマ談議に花が咲く。そんな生活を楽しめるのも、今が最後かもしれない。クルマを取り巻く環境の変化に感じた一抹の寂しさを、イタリア在住の大矢アキオが語る。 -
第857回:ドイツの自動車業界は大丈夫? エンジニア多田哲哉が、現地再訪で大いにショックを受けたこと
2026.1.14エディターから一言かつてトヨタの技術者としてさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さん。現役時代の思い出が詰まったドイツに再び足を運んでみると、そこには予想もしなかった変化が……。自動車先進国の今をリポートする。 -
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.14試乗記「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。 -
30年の取材歴で初めてのケースも 2025年の旧車イベントで出会った激レア車
2026.1.14デイリーコラム基本的に旧車イベントに展示されるのは希少なクルマばかりだが、取材を続けていると時折「これは!」という個体に遭遇する。30年超の取材歴を誇る沼田 亨が、2025年の後半に出会った特別なモデルを紹介する。













































