第713回:ミニカーにパズルに「レゴブロック」まで イタリアの自動車玩具事情をリポート
2021.07.08 マッキナ あらモーダ!自動車不毛のジグソーパズル
先日、クルマのウィンドウウオッシャー用ポンプが壊れたので、郊外の修理工場に赴いた。メカニックによると「1時間半程度で交換できる」というので、近所をぶらついて待つことにした。
しかし、周囲をよく見ると、銀行や建材店、果ては労働組合の地方支部といった、のぞく理由が簡単に見当たらない、もしくは「ご用は?」と聞かれても困る施設ばかりである。
ようやく見つけたのは、一軒の玩具店、つまりおもちゃ屋さんだった。平日の午前中なのですいている。
25年前、イタリアに住み始めたころ、旧市街には玩具店、もしくは模型店があって、よくのぞいたものだ。だが近年は、ほぼ店じまいしてしまった。旧市街における働き盛り世代の市民の減少=少子化および観光地化でビジネスが成立しなくなったことが原因である。
したがって、この手の店を訪れるのは久方ぶりである。
ともあれ、まずはミニカーの棚を目指した。見てみるとフランスのマジョレット製1/64スケールが8割方を占めている。それもチューニング&ドレスアップ系だ。
ブラーゴの1/43スケールもわずかにあるのだが、やはりハイパフォーマンス系ばかりである。かつてのマッチボックスのような、なんでもない普通のモデルがなにゆえにないのか悲しくなる。
次に訪れたのはジグソーパズルのコーナーであった。ラーフェンスブルガーの1000ピースものが大半だ。後日調べてみると、同社はドイツ南部ラーフェンスブルクに1883年に設立された出版社に起源をもつ老舗である。ドイツ語に通じた方ならご存じのとおり、「Ravensburger」は「ラーフェンスブルク出身の」もしくは同地の人という意味である。地元が誇る産業のひとつに違いない。
店の品ぞろえはというと、自動車の図柄で、ようやくひとつあったのはポルシェであった。
ディズニーや『ハリーポッター』といった、自動車メーカーよりも明らかにライセンス使用料が高額なものが数多く並んでいることからして、“クルマ柄”がいかに売れないかを物語っている。
思えば筆者の小学生時代、挑戦したパズル絵柄はといえば、「ティレルの6輪F1」「BMW CSツーリングカーレース仕様」だった。いずれも、どう考えても本人の興味が薄かった車種であり、世の中のジグソーパズル熱につられただけの消極的選択だったに違いない。ゆえにパズルにクルマが少なかったのは、今に始まったことではなかったのではないか、と考える。
詰められていた不人気車
だからといって、この店のクルマ関連玩具に、興味のあるものが皆無だったわけでない。
ひとつは、あるキャンパーを模したモデルカーだ。
付属のバーベキューセットとそれを楽しむおじさんの人形からして、車両の縮小型を楽しむというよりも、明らかに人形遊びを楽しむために企画された商品である。
にもかかわらず全長30cmのハイマー製フルコンバージョン型キャンパーが、かなりリアルに再現されている。
ハイマーは1957年にドイツで設立されたキャンピングカー製造業者で、メルセデス・ベンツのシャシーを用いたモデルを長年手がけている。欧州各地のキャンパー専門ショーの常連でもある。
モデルカーの製造会社であるディッキー・トーイズは、同じくドイツで1971年の設立。ブランドのウェブサイトで確認すると、驚いたことにフォルクスワーゲンからエアバス・インダストリーズまで幅広くライセンス契約を締結している。
「3歳以上対象」という玩具にしては、あまりに忠実に再現されたその姿を過剰ととる向きがいるかもしれない。ただし、早期から本物のカタチに親しませるという教育的観点からすれば、35.99ユーロ(約4700円)という金額は、かなりお買い得だ。
もうひとつ発見したクルマ系面白玩具は、前述のマジョレット製ミニカーに紛れるかたちで陳列されていた同社製の「アンロール&スティック&プレイ」である。
貼って剝がせる加工が裏面に施されたミニカー用走路だ。テープ幅5cmで4.5m分入っている。
店員に確認したところ、別にミニカーが自走するわけでも、テープがガイドしてくれるわけでもなかった。だが、気になったのは付属していたミニカーの車種である。「オペル・アダム」だ。2012年のパリモーターショーでデビューした実車は、明らかに「フィアット500」を意識した、いわばこじゃれたシティーカーだった。カスタマイズ用アクセサリーの豊富さも500をほうふつとさせた。しかし、実際の市場ではライバルほどのヒットにはつながらなかった。そのため7年後の2019年、後継車なきままそのライフサイクルに終止符が打たれている。
ちなみにウェブサイトを確認したところ、アンロール・スティック&プレイの付属ミニカーには、ほかにも「アウディR8クーペ」「ランボルギーニ・アヴェンタドール」が用意されている。しかし筆者自身は、それらよりもオペル・アダムを選ぶ子どものほうに親近感を抱く。
より取り見取りのレゴブロック
筆者が訪れたその店で、自動車を模したコレクションが最も多彩だったのは、ブロック玩具「レゴブロック」のコーナーだった。近年はさまざまなメーカーとのコラボレーション企画商品が続々発売されている。「日産GT-R NISMO」はその好例だ。
一番目立つところに飾ってあった「ランボルギーニ・シアンKFP37」は3696ピースで店頭価格314ユーロ(約4万1000円)。2019年のフランクフルトモーターショーで公開された実車も、約330万ユーロ(約4億3468万円)という価格が伝えられて人々を驚かせたが、レゴ版もかなりのものだ。ちなみに、その日に筆者が自動車修理工場に払った代金と比較しても、10倍以上である。
イタリアでレゴは人気だ。本欄第669回で若者のクルマ事情について語ってくれたラリスさんもファンのひとりである。今回も話を聞こうと連絡してみると、当時高校生だった彼は、めでたく大学1年生になっていた。
ラリスさんは「子どものころに夢中になりましたね。今でも保存しているものがたくさんあります」と語る。そして「特に風変わりな建物を組み立てているときは、想像の翼を無限に広げられるものです」と振り返る。
第708回のプジョーの販売店リポートで協力してくれた営業スタッフ、ジャコモさんもしかりだ。
「両親に買ってもらってレゴに親しんでゆくうちに、より大きく複雑なものに挑戦するようになりました。気がつけば祖父、そして彼女まで巻き込んでいました」
そして「一つひとつは、当時の思い出や成長の記録とつながっています」とも魅力を語る。
映画『ゴーストバスターズ』の劇中車で「キャデラック」(1959年)をベースにした「Ecto-1号」を模したレゴも売られていた。
それはともかく、その傍らには、日本の盆栽を模した「BONSAI TREE」のレゴもあった。対象年齢18歳以上と記されているから、見た目とは裏腹に難易度が高いのかもしれない。
ところが、この盆栽の存在をジャコモさんに告げた途端、「あ、それ、ここ数カ月いろいろな店で探し回ったやつだ!」との答えが驚きとともに返ってきた。
冷やかしで入った玩具店の話が、思いがけず人助けになってしまった、ある夏の日であった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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