第211回:究極のオッサン殺し
2021.07.19 カーマニア人間国宝への道アウディの乗り心地が変わった
私はアウディを買ったことがない。というより、ドイツ車をあまり買っていないのだが。
最初に買ったドイツ車は3代目「ゴルフ」の「ワゴン」(新車)で、絶対の安パイのつもりだったが、実にダメなクルマだった。30年も前のことなので詳しくは省略するが、まさかゴルフがダメグルマとは! 日本では、いまだにドイツ車信仰が生きていて、ドイツ車こそ完璧! みたいな盲信が存在するが、真実は買ってみなければわからない。
2台目のドイツ車はW123型の「メルセデス・ベンツ280E」。風情は満点だったが、あまりにも燃費が悪く(当然といえば当然ですが)、半年で手放した。
3台目はE90型の「BMW 335iカブリオレ」で、納車初日にATがブッ壊れたが、とてもいいクルマだった。その流れで現在はF30型の「BMW 320d」に乗り、ようやくドイツ車のエリート感が体になじんできたが、アウディはまだ1台も買ったことがない。
これまで私は、アウディにあまりいい印象がなかった。とにかく乗り心地が硬すぎる。ピシッとしたスーツで決めるエリートは、肩がこるのがアタリマエ! ということなんだろうけれど、それにしてもこんなのムリ!
ところがここ2年ほどで、アウディの乗り心地が劇的に変化した。
コンパクトセダンならドイツ車
2019年に登場した現行型「A6」の乗り味の良さは、まさに衝撃。究極の「しなやかスポーティー」だった。しっかり接地しているのに、空を飛んでいるみたいに気持ちイイ! これこそ私が求める理想のクールエリート!
以来、アウディのすべてのモデルが、順次同じような方向性に修正されているが、それでもA6がやっぱり一番イイ。「A8」は電子制御しすぎで不自然だし、マイチェン「A4」じゃちょっと物足りない。「A1」もいいけど、このサイズであの値段はキツイ。やっぱりA6がサイコーのエリート感。デカすぎるサイズが玉にキズだが、後輪操舵でしっかり小回りは利く。いつかは中古のA6を手に入れて、俺は真のエリートになる!
でも、この度登場した新型「A3」も気になる。私は本音では、これくらいのサイズが一番いい。軽トラも買ったから、荷物積むならそっちに積むし。アウディのサスペンション革命は、新型A3をどんな風に変えているのか!?
まず乗ったのは、「A3スポーツバック ファーストエディション」だ。エンジンは1リッター直3ターボのマイルドハイブリッド。リアサスは安価なトーションビームゆえ、兄弟車に当たる新型「ゴルフeTSIアクティブ」は、乗り心地はちょっと残念なレベルだった。
走りだすと、ゴルフとは明確に違う。同じプラットフォーム&サスでも、さすがアウディのサスペンション。いったい何をどうしているのかは謎だが、この乗り味なら、マイルドハイブリッドで節約しながら、静かにエリート感を楽しめそうだ。
が、私の興味は、実はA3の「セダン」にあった。いまどきこんなコンパクトなセダン(全長4500mm弱)がターゲットになりうるのはドイツ車だけ。この胴長短足なとっちゃん坊や感とエリート感の共存は、いわば「プログレ エリート」か。
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6年待てば真のクールエリート
試乗したのは、310PSの2リッター直4ターボを積んだ「S3セダン」だ。お値段は661万円。あと100万円くらい足せばA6に手が届くが、「S」の称号はどれほどのものか。
うおおおお! なんじゃこりゃぁ! ムチャクチャいいぜえぇぇぇぇ!
箱根のクネクネしたワインディングロードをクネクネ走っても、クネクネ曲がってないみたいにフラットに走る! この乗り心地の上質さはA6にも匹敵する! もちろん310PSのエンジンは超パワフル! このサイズでこの速さ、そしてこの乗り心地。これぞ究極のオッサン殺しだ! さすがリアマルチリンクサス+アウディのSだぜ! 真のエリートはS3だ! これでA6より100万円安いのは、かえってお買い得かも。
といっても、私が狙うのは、中古車が300万円を切ってから。S3って相場はどうなのか。今までアウディのSなんて乗り心地がゴーモンだと思って調べたこともなかったが、検索したら、先代S3(285PS)は、6年落ちあたりから300万円を切っていた。
イケる! 6年待てば、真のクールエリートになれる!
不安は故障だ。いまやドイツ車は世界で一番故障する。特にアウディは私にとって未知の世界。「Sトロニック」がブチ壊れてアッセンブリー交換100万円コースにならないか。コワイ! 考えただけで小鹿さんのように震えてしまう。
いまやこのテの中古ドイツ車を買うのは、フェラーリやランボルギーニの中古を買うより、はるかにバクチだ。今からプルプルするぜ。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。