アウディS3セダン(4WD/7AT)
バランスの妙 2021.08.30 試乗記 1リッターエンジン搭載車が評判の新型「アウディA3」だが、同じコンパクトボディーにハイパワーな2リッターターボエンジンと4WDシステムを詰め込んだ「S3」は、やはり格別だ。ことに端正なフォルムが自慢の「セダン」は、まさに隙のない一台に仕上がっている。走りを楽しみたい人に
アウディに少し詳しい人なら、シリーズのなかに「Aモデル」「Sモデル」「RSモデル」の3つがあるのをご存じだろう。「A3セダン」を例にとると、幅広いユーザー層をターゲットとするスタンダードモデルの「A3セダン」、よりハイパワーのエンジンを積むスポーツモデルの「S3セダン」、アウディスポーツが手がけるさらなる高性能モデルの「RS 3セダン」の3つがある。
もちろんAモデルでも、動力性能や走行性能に不満はないが、よりドライビングを楽しみたい人にはSモデルのほうが満足度が高いというのが、これまでの経験から得られた私の結論。アウディのお家芸ともいえる4WDの「クワトロ」がもれなく搭載されるというのもSモデルの魅力のひとつだ。SモデルをベースとしたRSモデルはさらに魅力的だが、そのぶん価格は跳ね上がるわけで、価格と性能のバランスを考えるとその中間のSモデルが狙い目ということになる。
2021年5月に日本でも販売が開始された新型A3シリーズ。その発売当初からS3セダンと「S3スポーツバック」が用意されているのはうれしいところで、そのなかから今回は扱いやすいボディーサイズと端正なフォルム、パワフルな走りが魅力のS3セダンを試すことにした。
主張するデザイン
A3シリーズにセダンボディーが設定されたのは先代からで、S3セダンはこの新型が2代目になる。新型のボディーサイズは、全長×全幅×全高=4505×1815×1415mmで、旧型に比べて全長が35mm、全幅が20mmの拡大にとどまり、依然コンパクトさを維持している。一方、見た目の印象はボディーサイズの増加分以上に存在感を大きく増しており、これまでの「見た目は控えめだけど走らせると速い」というスタイルから路線変更したのがわかる。
そもそもベースとなるA3セダンが先代に比べてスポーティーなデザインを採用していることもあるが、S3セダンではさらにフロントバンパーのエアインテークやサイドスカート、リアバンパーなどにクローム調のパーツを大胆に配したり、ハニカムデザインの“シングルフレームグリル”にシルバーのアクセントを加えたりするなどしてスポーツモデルであることを声高に主張。個人的には“控えめで速い”昔ながらのアウディが好みだが、そう思う私はいまや少数派なのだろうか。
一方、インテリアの仕立てはさすがアウディという印象で、特にこのS3セダンでは、ダイヤモンドステッチのファインナッパレザーシートや、美しい輝きを放つアルミのデコラティブパネル、随所に施されるレッドのステッチなどが、コックピットをスポーティーかつ上質に彩っている。メーターパネルにはフルデジタル化された12.3インチの「バーチャルコックピットプラス」が標準装着されるが、センターコンソールにはエアコン操作用のスイッチが残されている。全てをタッチ操作に置き換えるのではなく、心地よさや使いやすさにこだわるあたりがアウディらしいところである。
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電動化されなかったパワートレイン
Sモデルであることを特徴づけるエンジンは、先代同様、2リッター直列4気筒ターボを採用する。最大350barにまで高めた燃料噴射や過給圧を最大1.8bar(相対圧)に高めたターボの採用などにより、最高出力310PS、最大トルク400N・mを実現。これは先代に比べてそれぞれ20PSと20N・mの向上ということになる。トランスミッションは湿式多板クラッチを用いたデュアルクラッチギアボックスの7段Sトロニックで、電子制御油圧多板クラッチ式のクワトロにより4WDを実現している。
一方、このS3セダンでは、1リッターターボエンジン搭載の「A3セダン30 TFSI」のような48V電源システムやマイルドハイブリッドシステムは採用されていない。しかし、いざ走らせてみると、先代に比べて低回転でのエンジンレスポンスが向上していて、マイルドハイブリッドシステムが搭載されているかと錯覚するほどだ。おかげで以前よりもクルマが軽く感じられ、ストップアンドゴーや低速からちょっと加速することの多い一般道で、これまで以上に扱いやすくなった。
高速道路の合流や追い越し、山道の登りなどでアクセルペダルを踏み込めば、どの回転域からでも鋭い加速をみせてくれるのは頼もしいかぎり。カタログ上では2000rpmから最大トルクの400N・mを発生するが、体感的には3000rpmあたりから勢いを増し、一気に6000rpm超まで吹け上がる印象である。その際のサウンドがRS 3の5気筒エンジンのようだが、どうやらそれはサウンドジェネレーターが発する人工的なもので、設定でこの演出を弱めたほうがしっくりとくる。
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懐の深い走り
急加速の場面でも、挙動が乱れることはなく、安心してアクセルペダルを踏んでいけるのがSモデルらしいところで、強大なエンジントルクを余すところなく路面に伝えてくれるクワトロの成せるワザである。
一方、S3セダンの走りは、スポーティーさと快適さを見事に両立している。前:マクファーソンストラット、後ろ:4リンクのサスペンションはノーマルに対して15mm低められ、少し硬めの乗り心地を示すが、オプションの「ダンピングコントロールサスペンション」が装着された試乗車は、ゴツゴツという不快なショックを伝えてくることはなく、十分な快適さを確保している。速度によらず落ち着いた挙動をみせ、A3セダンよりもむしろこのS3セダンのほうが上質な乗り心地に思えるくらいだ。
ワインディングロードでは、ロールがよく抑えられ、懐深く、しなやかな動きのサスペンションが路面をしっかり捉えるから、安心してコーナーに向かうことができる。ハンドリングには軽快さがあり、たいていの場面では意図したとおりのラインをトレースすることができるので、ついついペースが上がってしまう。
今回は高速道路をメインに、一般道とワインディングロードを合わせて400km弱を走り、総平均燃費は11.8km/リッター(車載燃費計計測値)と、そのスポーティーな走りを考えればまずまずといったところ。上質な乗り味と仕立てのよいインテリアを手に入れたS3セダンは、あらためてA3シリーズきっての絶妙な選択肢であると確信した。
(文=生方 聡/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アウディS3セダン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4505×1815×1415mm
ホイールベース:2630mm
車重:1560kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:310PS(228kW)/5450-6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/2000-5450rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ピレリPゼロ)
燃費:11.6km/リッター(WLTCモード)
価格:661万円/テスト車=737万円
オプション装備:ボディーカラー<タンゴレッドメタリック>(7万円)/ダンピングコントロールサスペンション&専用アウディドライブセレクト(11万円)/パノラマサンルーフ(14万円)/テクノロジーパッケージ<ワイヤレスチャージング+リアシートUSB>(4万円)/ファインナッパレザーシート(18万円)/カラードブレーキキャリパー<レッド>(5万円)/マトリクスLEDヘッドライト+ダイナミックターンインジケーター<フロント/リア>(11万円)/プライバシーガラス(6万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2192km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:387.5km
使用燃料:33.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.6km/リッター(満タン法)/11.8km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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