第215回:遥かなる『宇宙戦艦ヤマト』
2021.09.13 カーマニア人間国宝への道タイトルを見てブッ飛んだ
「ホンダNSX」の生産が終了するという。なんと申し上げればよいか。本能寺の信長のごとく「是非に及ばず」と思うのみである。
NSXの生産終了は、大衆車ブランドによるスーパーカーへの進出に、ピリオドを打つものになるだろう。「じゃ新型『コルベット』はどうなんですか!?」とwebCGのほった君に突っ込まれそうだが、あれが最後の最後でしょうか……。カーガイたるもの、スーパーカーをつくる夢は、簡単には諦められないのですね!
が、現実は厳しい。トヨタは「レクサスLFA」で諦めた。ホンダは2代目NSXで未練を断ち切った。今後はもう、スーパーカーをつくろうという大衆車ブランドは現れまい。日本勢はもちろん、中国勢も韓国勢も、スーパーカーには手を出さないだろう。
私が今持っている「フェラーリ328」や「ランボルギーニ・カウンタック」は、工芸品(民芸品?)みたいなものだけど、現在のスーパーカーはブランド宝飾品だ。そういう世界に、性能や価格や乗りやすさみたいな大衆車的な価値観で切り込んでも、扉は開かない。
かくいう私は、2代目NSXの初試乗の時、どんなふうに書いたのか? すっかり忘れてしまったので、自分が某誌に書いた原稿を読み返してみた。
タイトルを見て、われながらブッ飛んだ。
「新型NSXはボンクラのスーパーカー」
ヒ、ヒドイ! いくらなんでも言い過ぎだろ!
ボンクラはスーパーカーを買わない
内容は、某誌クルマ担当のKと私とで、新型NSXの感想を述べ合う構成になっていた。で、担当Kは新型NSXを高く評価していたのである。
「スーパーカーにしては視界がいいなと思いました。以前乗った清水さんのカウンタックやフェラーリは、周囲がよく見えなくてすごく緊張したので、断然運転しやすいなぁと」(担当K談)
運転しやすいからイイ、というのは、大衆車の考え方である。スーパーカーは運転が難しければ難しいほどエライのが基本だ。
「性能はよくわかりませんが、デザインだって悪くないんじゃ? 走ってる姿を見て、カッコいいと思いましたけど」(担当K談)
幅が広くて平べったければ、クルマは自動的にカッコよくなる。スーパーカーはカッコいいのはアタリマエで、神がかっていなければならない。その代表がカウンタックだ。
「カウンタックじゃカッコよすぎてボンクラには乗れません! NSXくらいがちょうどいいと思うんですが」(担当K談)
つまり新型NSXは、担当Kのようなボンクラが喜ぶスーパーカーである、という結論なのだった。なるほど~。われながら納得。
しかし悲しいかな、ボンクラはスーパーカーを買わない。ボンクラ向けに2370万円のクルマをつくったところに、ホンダの失敗があった。
![]() |
![]() |
![]() |
NSXは戦艦大和
それにしても新型NSX発表時、日本のメディアは、「納車数年待ち」だとか、「世界中から注文が殺到している」とか、大政翼賛会的な報道を行っていたが、その注文はどこにいったのだろう……。
昨年(2020年)、日本で売れたNSXは、たったの16台だった。月間じゃないよ年間だよ!
通算販売台数は2558台。大手メディアは、それが多いのか少ないのかもわかっていないけど、少ないですぅ! だってフェラーリは年間1万台つくってるんですから!
ついでに、初代NSXの通算1万8507台も少ないですぅ! 16年間でそれですから! 2代にわたったNSXは、大和魂のナイストライだったが、得点は奪えなかったのだ。
今でもカーマニアの間では、初代NSXはスーパーカー史上に残る革命的な成功作だという、漠然とした認識がある。確かに初代は『ベストモータリング』の筑波バトルでは無敵だったし、フェラーリにも多大な影響を与えたが、結果を見れば成功作ではなかろう。
日本人の心には、「戦艦大和最強説」が生きている。「戦艦同士で戦えば大和は無敵だった」と。しかし実際の大和は、敵艦に一発の命中弾も与えぬまま撃沈された(涙)。まさに散華。どこか初代NSXに似てはいまいか。いや、NSXのほうは2~3発当てたかもしれませんが……。
で、2代目NSXは、『宇宙戦艦ヤマト』にリボーンしてリベンジするはずだったけれど、なれずに空母信濃(大和型戦艦の3番艦。空母に改装されたが回航中に撃沈)で終わった。その現実と向き合いましょう……。
(文と写真=清水草一/写真=本田技研工業/編集=櫻井健一)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第321回:私の名前を覚えていますか 2025.10.20 清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。