第168回:まっすぐ走らない欠陥車問題再び
2020.03.24 カーマニア人間国宝への道初めてのフェラーリ
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前回、「フィット」のプレス試乗会でH社のタカフミと再会したことは書いた。彼は数年前、私がお世話になっている中古フェラーリ専門店コーナーストーンズで、中古の「348tb」を買っていた。
348というクルマは、フェラーリの2シーターミドシップモデルの中では飛びぬけて人気がなく、相場も安い。つまりポルシェにおける996型「911」のような存在だが、人気がない理由は996型とは180度異なる。
996型は、911の伝統から外れた涙目と、カイテキかつヌルい走りで人気薄となったが、348は「非常に危険なクルマ」ということで人気薄となったのである。
今を去ること27年前。私は1163万2800円にて、90年式348tbを買った。私にとって初めてのフェラーリであり、初めての輸入車であり、初めての左ハンドル車でありました。
348tbは、直線的でカッコいいスタイリングを持ち、V8エンジンは凄(すさ)まじい快音を奏でたが、ボディー構造や足まわりに恐るべき欠陥を抱えていて、まっすぐ走らなかった。
かの池沢早人師先生も、購入直後、「高速道路で勝手に車線が変わっちゃったよ」とおっしゃったほどで、その後多くのプロドライバーからも酷評された。
「348」は欠陥車か!?
しかし、348の欠陥ぶりについて、最も多くの発信を行ったのは私だろう。自らの愛車をしゃぶりつくし、「まっすぐ走らない臨死体験マシン」と断じた私の言葉は一部で独り歩きを始め、348の評価を地に落とした……らしい。ごく一部のマニアックな世界での話ですが。
私は348を5年半愛し抜いて、その改良に全力を注いだが、自分にできることはすべてやったという満足感とともに卒業し、以後348を買うことはなかった。「F355」は2台、「512TR」は3台、そして「328」は合計4台も乗ったが、348はあれっきりである。
その後何度か348に乗る機会はあったが、コーナーストーンズ代表のエノテン(榎本 修氏)から、「これは清水さんの初期型とはまったくの別物です!」と自信を持って推された94年式「348スパイダー」でも、根本的な改良はなされていないという印象だったため、「程度の差はあれ、348は全部欠陥車」という私の確信は、逆に確固たるものになった。
が、実はほんの半月ほど前、その件についてエノテンから、いまさらの猛抗議を受けていたのである。
「清水先生が『348はまっすぐ走らない、全部ダメだ』と言ったのは完全に間違ってます! 後期型はまっすぐ走るんですよ! 訂正と謝罪をお願いします!」
逆に私のほうこそ、まっすぐ走る348があるなら乗ってみたいと思っているのだが、新型フィットのプレス試乗会で、あまりにもタイミングよく348オーナーが目の前に現れた。
彼はH社の社員という、自動車に関して責任ある立場であり、かつ、20代で10台以上のスポーツ車両を乗り継いだカーマニア。これは話を聞かねばなるまい。
プレス試乗会終了後、彼とSNSを通じて密に連絡を取り、聞き出した内容は以下のようなものであった。
真っ赤なフェラーリへの憧れ
<フェラーリとの出会い>
H社に入社してからはクルマ好きな同期も多く、彼らに決定的な差をつけるためには初代「NSX」様を買えばよいのでは! とひらめいてすぐ、当時ヤフオクに出ていた真っ赤なNSXの現車確認を依頼しました。
炎天下の熊谷駅でNSXを待っていると、真っ赤なボディーと素晴らしすぎるエンジンサウンドが聞こえてきました。その時点でもう買おう! と決めましたが、目の前に止まった車はNSXではなく、フェラーリの「360モデナ」だったのでした。
僕は一瞬で当初の目的を忘れ、このフェラーリ試乗できますか? と聞いたところ、「H社の方なら安心でしょう!」と快諾を得ました。
このモデナに乗ってから5年間、それ以外の何に乗ったか、僕はほとんど覚えていません。それほどのインパクトでした。
どうしたらフェラーリが買えるか、清水さんの『フェラーリの買い方』『そのフェラーリください』を枕兼バイブルにして5年間熟考しました。
当時はリトラクタブルヘッドライトや、一体何の意味があるか分からないサイドフィンに惚(ほ)れて、「テスタロッサ」をターゲットに定めていました。
<348の購入>
2017年、意を決してコーナーストーンズに足を運びましたが、当時テスタロッサの値段はほとんどピークに達していて、カーセンサー で500万円の売り物があった時代を知っている僕としては、ハードルが高すぎました。
するとエノテンが、イエローの極上348をすすめてくれました。テスタロッサと同じような形をしてるし、8気筒だから12気筒より故障の確率も低いんじゃないか! と心が動きました。しかし初めての操は真っ赤なフェラーリに捧(ささ)げたいという思いはあまりにも強かったので、数週間後に真っ赤な348にハンコをつきました。
その時たまたまコーナーストーンズに清水さんがいらっしゃって、運命を感じた次第です。
今回は紙数が尽きてしまった。果たしてタカフミの348はまっすぐ走ったのか?
(文と写真=清水草一/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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