ホンダ・シビックEX(FF/CVT)/シビックEX(FF/6MT)
渾身の一球 2021.09.24 試乗記 世界的な人気を誇るホンダのグローバルモデル「シビック」がフルモデルチェンジ。約半世紀にわたり歴史を重ねてきた伝統の一台は、この新型でいかなる進化を遂げたのか? ホンダがもてる力の限りを尽くして世に問う、11代目シビックの実力をリポートする。マニアを泣かせる6段MT
新型シビックの国内仕様は「爽快シビック」という合言葉(ホンダ流にいうと、グランドコンセプト)のもと、2021年9月3日に発売となった。車体はハッチバックのみ。エンジンもひとまず1.5リッターターボのみ。装備グレードは2種類あるが、タイヤその他の走行性能にまつわる部分はすべて共通。どちらのグレードでもCVTと6段MTが選べる。
さて、その新型シビックの初期受注だが、MTが全体の4割近くに達したという。ハッチバックに6段MTが用意されていた先代も3割という高比率だったが、新型はそれ以上ということだ。もっとも、これは正式発売から10日前後時点の数字である。つまり、その大半が実車も見ずに予約した熱烈なファンによるものであることは想像に難くなく、そこは差し引く必要はあるだろう。
しかし、それにしても……である。考えてみれば、いま国内で入手可能な新車で、このように適度なスポーツ性と日常性を両立していて、しかもそれなりの所有欲を満たしてくれるMT車は希少である。そうした、絶対数は少ないが確実な需要を集められれば、日本市場でもまだビジネスとして成立する余地はある。新型シビックがそれを示唆してくれているとすれば、ありがたいというほかない。
そんな新型シビックのMTは、縦横ともにほぼ手首の返しだけで決まるクイックな操作量と、コクッという小気味いいゲート感が心地よい。先代シビックのMTもいいデキだったが、今回はさらにいい。実際、新型シビックのMTは変速機本体こそ先代と同じものだが、シフトノブからレバー、アルミ製ブラケット、横方向の動きをつかさどるバネのレートやピンの精度まで見直されている。最近のモデルでは、MTのラインナップだけはかろうじて残されていても、MT自体の開発はほぼ止まってしまっている例も少なくない。それと比較すれば、新型シビックにおけるホンダの姿勢は、マニア的にはステキというほかない。
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そこここに進化を感じるパワートレイン
そんなMTだけでなく、今回のパワートレインはエンジンもCVTも既存ユニットの改良型なのだが、その仕上がりはどれも良好だ。1.5リッター直噴ターボは今のホンダで屈指の量販ユニットなので、エンジンそのものは毎年のようにアップデートされており、新型シビックで新しくなったのは基本的に高応答ターボチャージャーのみという。しかし、先代シビックに搭載されていたそれと比較すると、ヘッドからクランクシャフト、オイルパン、ピストンまでが変わっている。
2000rpmも回せば十分といえる柔軟性はいかにも最新の直噴ターボだが、新型シビックでは3000rpmあたりでけっこう明確なさく裂感をみせるのがマニア好みだ。そこから4000rpmまでの最常用領域で、小気味いいピックアップと爽やかな快音を味わえるのが心地よい。
さらに4500rpm、5000rpmと回転上昇に伴ってレスポンスはさらに高まり、リミットの6500rpmまでアタマ打ち感はほぼ皆無。こうした“回しがい”はさすがホンダのエンジンで、これならあえてMTを選ぶ価値もある。また、これほどパワフルで抑揚のあるトルク特性ながらも、過給ラグがほぼ体感できないのは高応答ターボチャージャーのおかげか。
先代ではCVTだけエンジンの最大トルクが絞られていたが、トルクコンバーターが強化された新型では、どちらの変速機でもエンジンスぺックは共通となった。それもあってか、日常域におけるCVT仕様のピックアップ感やパワー感はMT仕様を上回るほどで、開発陣も今回のCVTの制御には絶大な自信があるようだ。個人的には、「スポーツ」モードでなくても小気味よすぎて、エコモードにあたる「ECON」に入れてちょうどいい。それでも、慣れるにしたがってクルマと気心が通じるようになり、最終的には現行CVT車のなかでも、速度の微調整が屈指にやりやすいことが分かった。
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明確に“ドライバーズカー”
ホンダはこれまで明確なプラットフォーム戦略をうたってこなかったが、新型シビックは、複数車種への展開を想定して主要部分をモジュール化したプラットフォームをもとに開発されたという。とはいえ、そのヒナ型となったのが、ほかでもない先代シビックで新開発されたプラットフォームだ。というわけで、新型シビックそのものの骨格設計やサスペンションの基本形式は、従来モデルの改良型となる。
新型シビックはそのうえで、高張力鋼板の使用比率拡大や、アルミボンネットと樹脂バックドアを採用した上屋構造、格子状のフレーム設計に構造用接着材の適用を拡大したフロアなど、高剛性化と軽量化を促進させた車体構造となっている。またサスペンションでは、各部の徹底したフリクション低減策が目をひく。
その走りはというと、8代目が日本上陸したばかりの競合車「フォルクスワーゲン・ゴルフ」にも似て、“熟成の味”という印象が強い。今回の試乗ルートには中央自動車道・小淵沢IC付近のアップダウンと高速コーナーが連なるルートも含まれていたが、そこでのヒタリと安定した直進性と絶大な接地感は、見事というほかない。新型シビックのダイナミクス性能は、全方位で要求水準が高い欧州の交通環境でまず仕上げた後に、各マーケットに合わせて微調整するという手法で開発された。新型シビックの高速性能も、そうした環境下での開発のたまものといわれれば納得したくもなる。
国内向けのシビックが18インチの「グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック2」を履いていることからも分かるように、それはけっこうスポーツ寄りの仕立てである。街なかでの乗り心地は基本的に引き締まり系であることは確かで、クルマ全体の剛性感が高いので不快ではないが、クルマに興味がない家族にウケがいいタイプとはいいがたい。やはりドライバーズカーであることが第一義といえる。
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熟成の進んだプラットフォームの恩恵
だが、ドライバーズカーとしての新型シビックの味わいは、なかなかの逸品である。基本的には動きの少ない引き締まった挙動ながらも、加減速や操舵でカツを入れたときの、滑らかな荷重移動と潤いのあるストローク感は素直に美味だ。ステアリングはロック・トゥ・ロックで約2.2回転というクイックな設定だが、操舵反応そのものが過敏でないのも好印象。それでいて、S字の切り返しなどではフワピタと路面に吸いつく。
こうした敏感すぎず、軽快なのに安定した身のこなしをあえて擬音化すると“カキカキ”というより“スイスイ”といったイメージか。なるほどキャッチフレーズどおり、爽快と形容したくなる味わいだ。さらに、ほぼフルバンプに近い状態で激しい凹凸に遭遇しても、涼しい顔でフラットに吸収してみせる体幹の強さも、乗り味としては爽快である。
こういう、リアルに鍛えられて練り込まれたダイナミクス性能は、同じくプラットフォームをあえて継続使用しつつ徹底して熟成を図った現行「フィット」や「ヴェゼル」にも通じるところがある。
かつてのホンダといえば、モデルチェンジごと、あるいはクルマごとに新機軸や専用設計を入れるのが使命みたいな、よくも悪くも技術者の心意気が最優先の社風だった。それはそれで、ファンがいうところの“ホンダらしさ”の一面だったのだろう。それに、今回も車体のスリーサイズがほとんど変わらないのに車重が先代より増えているあたりは、完全新設計ではない継承・改良型プラットフォームの影響といえそうだ。しかし、その操縦性や乗り心地、そしてパワートレインの一体感を見るに、少なくとも新型シビック(個人的には、現行フィットやヴェゼルもそこに含めたい)では、プラットフォームを継続した利点のほうが大きかったと思う。
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まさに“爽快”の2文字につきる
なんだかホメ殺しみたいな内容になってしまっているが、少なくとも今回のような高速や山道を中心とした短時間試乗で、即座に指摘できる弱点や課題が新型シビックの走りに見当たらなかったのは事実。ただ、新型シビックに乗ってなんともポジティブな気分になるのは、そうしたシャシーやパワートレインのデキだけでなく、視界性能や車両感覚が素晴らしいからでもある。
新型シビックはファストバッククーペ的なプロポーションを先代から受け継ぎつつも、視界性能がハッキリと向上している。それは「ノイズを排除した」というシンプルな内外装デザインに加えて、低く水平なベルトラインに先代比で50mm後方に引かれたAピラー、6ライトのウィンドウ、そしてドア直付けとなったサイドミラーなどによるものだ。
低く水平基調のダッシュボードデザインは、世界的なターゲットである20~30代の若者の美意識に沿ったものでもあるそうだが、1980年代から90年代の低ボンネットなホンダ車を肌身で知る中高年は「これこそホンダ!」とヒザをたたくことだろう。50代のオッサンである筆者が新型シビックにシンパシーを抱く理由は、いうまでもなく後者だ。
またAピラーは、その根元の延長線がフロントタイヤの中心に着地する位置・角度となっているのが、デザイン上のポイントらしい。それが、新型シビックを先代より伝統的なクルマらしく見せるキモとなっている。同時にそんなAピラーは、フロントタイヤの位置を直感的かつ正確に把握させる一助にもなっていて、新型シビックを爽快に乗りこなせる車両感覚につながっている。
新型シビックはあらゆる部分が“爽快”という合言葉に収斂(しゅうれん)している。ここまで統一された世界観を表現できている国産車はめずらしい。さすがはホンダのベストセラーだけに、新型シビックはホンダの地力をいかんなく発揮したかのようなクルマだ。そして、ゴルフ8をはじめとする最新の欧州勢力と比較しても、ニヤリとできる力作である。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ホンダ・シビックEX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4550×1800×1415mm
ホイールベース:2735mm
車重:1370kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:182PS(134kW)/6000rpm
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1700-4500rpm
タイヤ:(前)235/40R18 95Y/(後)235/40R18 95Y(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック2)
燃費:16.3km/リッター(WLTCモード)
価格:353万9800円/テスト車=368万8850円
オプション装備:ボディーカラー<プラチナホワイトパール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー フロント用 16GBキット<DRH-204WD>(3万9600円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(4万8400円)/取り付け工賃(2万2550円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1415km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
ホンダ・シビックEX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4550×1800×1415mm
ホイールベース:2735mm
車重:1340kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:182PS(134kW)/6000rpm
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1700-4500rpm
タイヤ:(前)235/40R18 95Y/(後)235/40R18 95Y(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック2)
燃費:16.3km/リッター(WLTCモード)
価格:353万9800円/テスト車=368万8850円
オプション装備:ボディーカラー<ソニックグレーパール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー フロント用 16GBキット<DRH-204WD>(3万9600円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(4万8400円)/取り付け工賃(2万2550円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1485km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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