MINIクーパーSコンバーチブル(FF/7AT)
存在そのものがありがたい 2021.09.30 試乗記 今や貴重な4座のコンパクトオープンカー「MINIコンバーチブル」が、「MINI 3ドア/5ドア」ともどもマイナーチェンジを受けた。モデルライフで2度目の大幅改良は、このクルマにどのような進化をもたらしたのか? 上級仕様の「クーパーS」で確かめた。デビューから7年を経て2度目の大幅改良
通算3代目となる“ニューMINI”のハッチバック系(3ドア、5ドア、コンバーチブル)が、一般的にマイナーチェンジと呼ばれる比較的まとまった改良を受けるのは、今回で2度目だ。1度目は2018年の春。3代目MINIのデリバリーが開始された2014年初頭から、丸4年での手直しだった。2度目となる今回のマイチェンは、最初のそれから3年が経過した時点での実施となる。ということは、現行のハッチバック系ニューMINIも登場からすでに7年が経過して、モデルライフは8年目に突入しているわけだ。
前回は前後ランプの変更と変速機の刷新あたりがハイライトだったが、今回はグリルを含めたフロントマスクの整形のほか、インテリアでは液晶メーターの採用、そして技術的には電動パーキングブレーキ(EPB)の導入が大きい。EPBとなったことで、アダプティブクルーズコントロール(ACC)にストップ&ゴー機能も含まれるようになり、渋滞追従も可能になった。
フロントマスクのイメチェン効果は大きい。グリル形状はいつもの六角形だが、それがブラックアウト化されるとともに、バンパー下端ギリギリまで拡大。今回のクーパーSでは、同グレード特有のディテールである左右のインテークまでをグリルが抱え込むようになっている。さらに、グリル中央を横断するバンパー部分が車体と同色化されたり、フォグ機能をヘッドランプ内に内蔵したことでバンパーから灯火類が姿を消したりしたことも、雰囲気を大きく変えることに貢献している。
ちなみに、従来のフォグランプに代わってバンパー両端にあけられた縦型のスリットは、走行風をフロントホイールハウスに導いて空力的に左右を安定させるエアカーテンで、これは2020年秋にマイチェンされた「MINIクロスオーバー」などと同様である。全長も少し伸びていて、今回試乗したクーパーS同士だと20mm長くなっているが、そこには立体的な造形になったリアバンパー分も含まれる。
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相変わらず優秀な電動ソフトトップ
ざっくりとしたシートの肌ざわりは、なんとなく昭和を感じさせるチェック柄を含めて、中高年の筆者には懐かしくも心地よい。試乗車には新しい試みとして設定された4つの内外装トリムから「クラシックトリム」が採用されており、ほかにもモダンな「MINI Yoursトリム」やスポーツ系の「ジョンクーパーワークス(JCW)トリム」というトリムパッケージがオプションで選べる。JCWの文字に反応するマニアもおられようが、これとは別に、全身専用仕立ての高性能グレード「ジョンクーパーワークス」はちゃんと健在である。
眼前の5インチ液晶メーターはデザイン的にはクロスオーバー系とよく似たものだが、センターディスプレイを囲むLED間接照明の、ニューヨークだかトーキョーだかのビル群を思わせる図柄は新しい。しかも、それが走行モードだけでなくエアコンの温度調整操作などにも呼応してカラフルに変化する。これがオシャレかどうかは筆者には分からないが、凝っていること、そして初ドライブ相手との会話のツカミに好適であろうことは間違いない。
コンバーチブルのキモとなる電動ソフトトップはこれまでどおりだが、頭上のみ開閉も可能な「1粒で何度もおいしい」といえるデキにはあらためて感心するほかない。トップの主要部分はさすがに1層構造で、先日までのトーキョーの炎天下ではさすがに頭上から熱が伝わってきた。ただ、気になる点はそれくらい。つくりや作動感は精密そのものだし、1層構造のわりにクローズド時の静粛性も高く、高速での天井のバタつきも印象的なほど小さい。
フルオープンにすると畳まれたトップでルームミラー視界の3分の2くらいが蹴られてしまう。セダンのような車高の低いクルマにバックを取られるとほぼ見えなくなるが、オープンカーは軽く流すだけで満足できるので、これは弱点にはならない(?)。
可変サスペンションを選ぶときの注意点
乗り味はおなじみのMINIそのものだが、1年1度くらいの頻度で乗るたびに、剛性感や乗り心地が少しずつ改善されているように思えるのは、気のせいではないだろう。それでも、パワーステアリングは今も昔もズシッと重い。今回の試乗時にはロケの都合で「シボレー・コルベット コンバーチブル」と交互に運転したりもしたが、ステアリングだけは明らかにMINIが重かった。これが伝統の“らしさ”といわれればそうなのだろうが、個人的には重すぎだと思う。
オープンにするとステアリングまわりに振動が出るものの、そのレベルはわずかだし、うねりのある路面でちょっと頑張ったくらいでは、車体がきしんだり、前後輪の軌跡がズレるような感覚におちいったりすることもない。ステアリングの反応も少しだけマイルドになるオープン時のほうが、走りのリズム感もいい。車体剛性づくりを含めた入念なチューニングに加えて、サイズが絶対的に小さくてホイールベースが短いことも奏功しているだろう。
足もとが18インチの「ピレリPゼロ」、しかもランフラットであることを考えると、その履きこなしは悪くない。ただ、絶対的には乗り心地は硬めであり、荒れた路面でのバタつきが気になるのも否定できない。調べてみると、このクラシックトリム本来のタイヤサイズは17インチで、今回の試乗車はそこにオプションタイヤを履かせていた。最初から18インチとなるJCWトリムには、さらに改良されたという触れ込みの「アダプティブサスペンション」も含まれる。
個人的にもMINIのコンバーチブルで18インチを履くなら、単体価格6万8000円のアダプティブサスペンションは最優先で備えておきたい。しかし、それもトリムによって選択できない場合もあり、今回のクラシックトリムもそうだった。MINIを自分好みに細かくオーダーする向きは、ご参考までに……。
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ロングライフがもたらす弊害
MINIはコンバーチブルでも快活な乗り味を披露してくれるが、このクーパーSはとくに小気味いい。その最大の理由はエンジン。性能自体は「クーパー」でも十二分だが、3気筒はやはり好き嫌いが分かれるところだし、それにも増して、このBMW製2リッター4気筒ターボそのものが心地よいからだ。
最新の直噴ターボらしく低中速でも柔軟で力強いのだが、高回転に向けてさらなる盛り上がりがきちんとある。走行モードに応じて、スロットル特性とサウンドもさらに豪快になっていく。そして、そのサウンドも実の詰まった快音なのである。
そこに組み合わせられる7段DCTは、MINIでは“スポーツ変速機”の位置づけではない。盛大なブリッピングをかますこともなく、変速スピードもゆるめだ。しかし全域でトルキーかつ高反応のエンジンが補ってあまりある。これがBMWブランドだと「なにはともあれシルキーシックス」という観念論に引っ張られがちなのだが、MINIなら素直にいいエンジンと思える。
今回のマイチェンは先進運転支援システム(ADAS)のアップデートも大きな売りとされている。実際、ストップ&ゴー機能付きACCをはじめ、レーンキープ機能も追加されるなど、これまでより進化しているのは確かだ。しかし、そのレーンキープは逸脱警告だけで、ステアリングアシストや積極的なトレーシング機能にまでは踏み込んでいない。さらに、斜め後方を監視するブラインドスポットモニターや道路標識の認識機能など、大衆ブランドのコンパクトカーでも常識化しつつある機能もまだない。
このあたりの追加には、プラットフォームレベルの設計変更が必要なのかもしれない。現行MINIは冒頭のようにすでに8年目。長いモデルライフは観念的には歓迎したいが、反面、こういうデメリットもあるわけだ。
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今や希少な“手ごろなオープンカー”
海外のメディアなどを見ると、ハッチバック系のMINIは2023年にフルモデルチェンジという説が有力らしい。そういうことなら、この段階で2度目のマイチェンを実施したのも納得だが、結果的に現行MINIはほぼ10年の長寿モデルになるわけだ。そして、次のMINIは「内燃機関を積む最後のMINI」になるともウワサされる。
コンパクトカーのモデルチェンジは、どんどん難しくなっている。当局が電気自動車(EV)に一気にカジを切らせたがっている欧州では、大型車よりEV化しやすいコンパクトカーはどんどんEVに追いやられているが、市場が追従してくれるかは不透明だ。実際、MINIのライバルである「フィアット500」などはフルモデルチェンジでEV専用車に転身しつつも、いまだに旧型も生産を続けている。メーカーの負担は大きい。
MINIはもっとモデルチェンジしにくい。MINIは欧州と日本のほか、北米、中国、中東、南アフリカ、東南アジア、中南米でも売られており、世界でも指折りの超グローバル商品である。時代の流れからいってEV化は避けられないが、おいそれとEV専用車に先走るわけにもいかない。
つい10年くらい前までは、多くのメーカーが手ごろなオープンカーを出したり消したりしていたが、環境対応に手一杯の現状では、遊んでいる余裕などないのだろう。こういうクルマは今ではすっかり少数派となり、MINI以外に300万円台かそれ以下の新車価格で手に入るオープンカーは、日本では「マツダ・ロードスター」と「ダイハツ・コペン」くらい。4座となるとMINI以外の選択肢はない。
欧州でもMINI以外は最近発売された「フォルクスワーゲンTロック カブリオレ」くらいしか思いつかない(そして、これはぜひ日本にも輸入してほしい)。いずれにしても、MINIコンバーチブルは、もはや存在するだけでもありがたい。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
MINIクーパーSコンバーチブル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3880×1725×1415mm
ホイールベース:2495mm
車重:1370kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:192PS(141kW)/5000rpm
最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/1350-4600rpm
タイヤ:(前)205/40R18 86W/(後)205/40R18 86W(ピレリPゼロPZ4)
燃費:14.8km/リッター(WLTCモード)
価格:453万円/テスト車=504万6000円
オプション装備:スポーツシート<クロス/レザレッド ブラックパールライトチェッカード>(1万4000円)/デジタルパッケージプラス(14万1000円)/クラシックトリム(17万円)/18インチアロイホイール パルススポーク2トーン<7J×18>+205/45018タイヤ(8万2000円)/MINI Yoursソフトトップ(10万9000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1671km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:459.3km
使用燃料:35.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.9km/リッター(満タン法)/13.8km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。