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第19回:地味だけど超重要! 自動車産業の競争力を左右する「モデルベース開発」って何だ?(前編)

2021.10.12 カーテク未来招来
今日のクルマづくりに欠かせない「モデルベース開発」は、エンジン制御のソフトウエア開発から導入が始まったという。
今日のクルマづくりに欠かせない「モデルベース開発」は、エンジン制御のソフトウエア開発から導入が始まったという。拡大

いま、自動車開発の現場で広く導入が進んでいる「モデルベース開発(Model Based Development:MBD)」。私たちにとっては耳慣れない言葉だが、実は日本のモノづくりの未来を左右する、非常に重要な開発手法なのだ。バーチャルとリアルを往復して行われる、最新のクルマづくりを解説する。

オンラインで実施された「MBD推進センター」発足の説明会の様子。同センターには国内完成車メーカー5社、部品メーカー5社が運営会員として、一般財団法人日本自動車研究所が事務局として参加している。
オンラインで実施された「MBD推進センター」発足の説明会の様子。同センターには国内完成車メーカー5社、部品メーカー5社が運営会員として、一般財団法人日本自動車研究所が事務局として参加している。拡大
人見委員長は、MBD推進センターが目指す姿を、料理に例えて説明した。
人見委員長は、MBD推進センターが目指す姿を、料理に例えて説明した。拡大

人の手でプログラムを書いていては追いつかない!

読者の皆さんは、モデルベース開発、あるいはその略称であるMBDという言葉をご存じだろうか。このMBDをテーマとした、一般的にみれば非常に地味な発表が2021年9月24日に行われた。国内完成車メーカー5社、部品メーカー5社が運営会員となって、MBDを全国の自動車産業に普及するための組織「MBD推進センター」が発足した、という内容だ。

なんじゃそりゃ? という読者も多いと思うのだが、実はこのMBDは、今後の自動車産業……というよりも日本の製造業全体の競争力を左右する、非常に重要な開発手法なのだ。MBD推進センターステアリングコミッティ委員長に就任したのは、「ミスターSKYACTIV」として有名なマツダの人見光夫シニアイノベーションフェローである。今回オンラインで行われた発表会では、このややこしいMBDという概念を料理に例え、なんとか分かりやすく解説しようと努力していたのが印象的だった。

このコラムでも、まずは「そもそもMBDって何?」というところから話を始めたい。そもそも、MBDという言葉が使われるようになったのはソフトウエア開発の世界である。従来のソフトウエア開発は、人間が1行1行「プログラムコード」を書いて作成していた。しかし、電子制御の複雑化が進んだ現代のクルマに使われるコードの行数は、一台あたり約1億行ともいわれており、とても人手で作成できる規模ではなくなっている。

そこで導入されたのがMBDである。MBDが最初に導入されたのは、クルマのエンジン制御に用いるソフトウエアの開発だった。

バーチャルとリアルを往復するソフトウエア開発

排ガスのクリーン化や燃費向上のため、クルマのなかで最も早く電子制御が導入されたのがエンジンである。その開発に際しては、どういう条件のとき、どの程度の燃料を、どういうタイミングで噴射するかといった制御を最適化するため、試作エンジンで何度も試験を繰り返して条件を決めていた。しかし、制御が複雑になるにつれてこれでは追いつかなくなり、コンピューター上で「仮想のエンジン」を構築し、このエンジンをさまざまな条件で動作させ、最適な制御条件を見つけ出すという「シミュレーション」の手法が広く用いられるようになった。

そして、コンピューター上である程度エンジン制御を最適化したら、その制御の内容を自動的にプログラムコードに変換する「自動コード生成」という技術が使われるようになった。この自動コード生成も、当初は人間のつくるプログラムに比べて無駄が多いなどの課題があったが、現在ではかなり改善され、先ほど紹介したように巨大化するソフトウエアの開発にとって欠かせない手法になっている。

こうした、シミュレーション技術や自動コード生成技術を活用したソフトウエア開発手法の総称がモデルベース開発、MBDである。ここで言う「モデル」には、シミュレーションで活用する「仮想のエンジン」のような物理的なシステムのモデル(プラントモデルと呼ぶ)と、それを動かす制御の仕方を表現した数式(制御モデル)がある。非常に単純化して言えば、MBDとは、リアルな世界の出来事をいったんバーチャルな世界の「モデル」に置き換え、バーチャルな世界で「モデル」を最適化したのち、その最適化したものを再びリアルな「モノ」に変換する手法といえる。

マツダの「SKYACTIV-G」や「SKYACTIV-D」は、日本で初めて白紙の状態からMBDをフルに活用して開発されたエンジンといっていい。人見氏がMBD推進センターのステアリングコミッティ委員長に就任したのは、この実績を評価されてのことだろう。

MBD推進センターのステアリングコミッティ委員長に就任した人見光夫氏。「ミスターSKYACTIV」として有名な、マツダのシニアイノベーションフェローである。
MBD推進センターのステアリングコミッティ委員長に就任した人見光夫氏。「ミスターSKYACTIV」として有名な、マツダのシニアイノベーションフェローである。拡大
マツダの“SKYACTIVエンジン”は、日本で初めてMBDをフルに活用して開発された。写真は2リッターガソリンエンジンの「SKYACTIV-G 2.0」。
マツダの“SKYACTIVエンジン”は、日本で初めてMBDをフルに活用して開発された。写真は2リッターガソリンエンジンの「SKYACTIV-G 2.0」。拡大

現実には難しいテストも仮想であれば実施できる

なぜリアルな世界の出来事をいったんバーチャルな世界に移すかといえば、そのことに多くのメリットがあるからだ。

例えば自動運転のソフトウエア開発で考えると、実用化のためには実験車両による公道でのテスト走行が不可欠だ。しかし、自動運転ソフトウエアの開発には数億kmに及ぶテスト走行が必要ともいわれており、もしそれを実現しようとすれば、膨大な数の試験車両が必要になる。しかしバーチャルな世界であれば、数万台の仮想の車両を仮想の道路環境で休みなく走らせることにより、数億kmのテスト走行も実施が可能だ。

あるいは、シャシー制御のソフトウエアを開発するために限界走行試験を実施する場合、本来であれば、走行が破綻するかしないかというぎりぎりの状態でのテストが必要となり、ことによってはドライバーを危険にさらす場面も出てくる。この点、バーチャルな世界でのテスト走行なら、ドライバーを危険にさらすことなく限界を超える領域まで試験ができるというわけだ。

こうした、シミュレーション技術を活用する開発手法はすでに広く使われており、何ら目新しいものではない。では、なぜこのタイミングで「MBD推進センター」が設立されたのか? その背景には、これからの日本の自動車産業の競争力に対する危機感がある。次回はそのあたりを解説したい。

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=MBD推進センター、マツダ/編集=堀田剛資)

シャシー制御の開発であれば、本来なら限界領域での走行試験を何度も実施しなければならない。MBDの活用は、そうした負担の低減にもつながっている。
シャシー制御の開発であれば、本来なら限界領域での走行試験を何度も実施しなければならない。MBDの活用は、そうした負担の低減にもつながっている。拡大
鶴原 吉郎

鶴原 吉郎

オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。

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