フォルクスワーゲン・トゥアレグV6(4WD/8AT)【試乗記】
突っ込みどころなし 2011.03.28 試乗記 フォルクスワーゲン・トゥアレグV6(4WD/8AT)……694万4000円
グッと高級感がアップした新型「トゥアレグ」。大幅に軽量化されたV6モデルでその走りと乗り心地を試した。
燃費向上の功労者
新型「トゥアレグV6」のエンジンは、先代の後期型エンジンの改良版である。つまり、バンク角10.6度という狭角V6エンジン(正確には“変形直列6気筒”だが)だ。ちなみに、「ハイブリッド」もV6エンジンだが、こっちのバンク角はアウディ系の90度。つまり、トゥアレグに搭載される2種類の“V6”に関連性はない。
フルモデルチェンジなのでボディ構造などはもちろん新しいトゥアレグだが、動力システムも完全新開発の「ハイブリッド」とは異なり、「V6」の場合は、エンジンも含めた各要素技術のほとんどが先代からの改良版といっていい。とりあえずスペックシート上において、新旧トゥアレグV6で明らかにちがうのはATが8段になったことくらいだ。
トゥアレグV6は、先代に対して大きく燃費を向上させているが、その最大の功労者はおそらくトランスミッションだろう。このアイシン・エイ・ダブリュ製の8段ATは、ほほ笑ましいほどけなげに繊細で、100km/h以下で普通に走るかぎり、1000〜2000rpmという狭い回転域をまず外さないのだ。
ここで結論めいたことを書かせてもらうと、少なくとも今回のようなオンロードでの乗り味は、このV6のほうがハイブリッドより好印象である。その大きな理由は2つ。ひとつが重量の軽さ、そしてもうひとつが、タイヤサイズとサスペンションのちがいである。
軽量化が効いている
新型トゥアレグはボディが大型化したにもかかわらず、軽量化に成功しているのが最も特筆すべき売りだ。ただし、「ハイブリッド」の場合は動力システムの重量がかさんで、事実上の前身となる先代「V8」比で絶対的には軽くない。それに対して、「V6」は先代よりきちんと70kgも軽く、ハイブリッド比ではじつに150kgも軽い。
また、トゥアレグには先代同様に、電子制御可変ダンパーとエアスプリングを組み合わせた「CDCエアサスペンション」があり、それはハイブリッドに標準装備だが、V6ではオプション扱い。今回の試乗車はそのCDCエアサスペンションが装着されていたが、タイヤサイズはハイブリッドより1インチ小さい18インチに変わりはない。
トゥアレグV6の体感的な動力性能は、意外なほどハイブリッドとの差が少ない。パワートレイン単体ではハイブリッドのほうが明らかに強力なものの、その軽さが奏功して、モーターアシストがなくても軽快な加減速レスポンスを味わえる。それに、トゥアレグのハイブリッドは走行状況やモードによってモーターアシストが入ったり入らなかったり、アシストが入っても瞬間的だったり……で、良くも悪くも素直にパワー供給するV6のほうが自然。体感的にもパワフルで、とても心地よい。
乗り心地で選べばエアサスなし
18インチという、ほどよいホイールサイズの「V6」は乗り心地やハンドリングでも、同じく自然な心地よさがある。とくにトゥアレグの可変ダンパーはロール抑制に重点を置きすぎの感が強く、「ハイブリッド」の場合はさらにタイヤが薄い(=タイヤ単体の衝撃吸収力が弱い)19インチを履くので、V6とハイブリッドは動力性能以上にシャシーのフィーリング差が大きい。
もちろん理論的にはロールやピッチングはないのが理想だし、限界は19インチ+CDCエアサスペンション付きが最も高い。しかし、こういう大きく重いクルマでは、タイヤのグリップ情報は非常に重要だ。その意味では19インチより18インチのほうがグリップ感も濃厚。もっといえば、CDCエアサスペンションなしの標準仕様はさらに自然で、それでいてロールスピードや量のチューニングも絶妙だ。また、エアサスは細かい突き上げで突っ張るクセが出るので、総合的な乗り心地でハイブリッドよりV6、さらにエアサスなしのV6に軍配を上げる人は多いだろう。
トゥアレグV6の車両本体価格は623万円。対してハイブリッドはその275万円高(!)の898万円。燃費はハイブリッドのほうが良好だが、それでも一般的な乗り方でモトが取れるようなレベルにはない。まあ、900万円近いトゥアレグ ハイブリッドを経済性だけで買う人はいないだろうし、上級モデルとして装備類もV6より充実しているので、ハイブリッドが不当に高いとは言わない。
しかし、先代より明らかに高級になった内外装、ハッキリと広がった室内空間、そしてハイブリッドより完成度の高い乗り味……を考えると、トゥアレグV6は“安いなあ”と思わざるをえない。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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