売上高も純利益も過去最高 コロナ禍でも半導体不足でもテスラが絶好調だったワケ
2021.10.29 デイリーコラム世界的な逆境もどこ吹く風
米テスラが2021年7~9月期の決算を発表。売上高は137億5700万ドル(前年同期87億7000万ドル)、純利益は16億1800万ドル(同11憶4200万ドル)と、いずれも過去最高を記録した。
この1、2年で、世界の産業は大きく揺らいだ。長引くコロナ禍がもたらした、グローバルに広がったサプライチェーンの寸断、デジタル化の急進による半導体の不足など、自動車産業への影響も大きく、いまも大手の自動車メーカーやサプライヤーでは生産調整が行われているほどだ。それでもなおテスラは絶好調。その理由はなんなのだろうか。
テスラの設立は2003年7月のことだが、このときのボードメンバーにイーロン・マスク氏の名はない。PayPalの前身となるベンチャー企業や宇宙ビジネスのスペースX社で名を挙げていた彼が、テスラに出資しCEOに就任したのは翌年のことで、これがひとつ目の転換点となった。
筆者が最初にテスラの存在を目にしたのは、2007年のフランクフルトモーターショーだ。当時は車体がロータス製で、そこにパナソニックのバッテリーなどを搭載した電気自動車(EV)を展示していた。業界全体としては新興の一社という扱いで、EVへの注目度が集まるなかで出てきた泡沫(ほうまつ)ベンチャーのひとつ、くらいの見方をしていた人もいたと記憶している。
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EV用バッテリーにみるテスラの特色
その後、テスラのテクノロジーについて注目が集まり始める。「三菱i-MiEV」や「日産リーフ」を含め、既存の自動車メーカーが製造するEVにはオリジナルのバッテリーが搭載されていた。EVのバッテリーはガソリン車のエンジンに相当する重要なパーツで、EVに最適なバッテリーは自動車メーカーが開発するべきとの意見が多く聞かれた。
しかし、テスラが採用したバッテリーは「1865」というパソコン等に使用される汎用(はんよう)品で、それを大量に接続することでEVに要求される出力を実現した。キモになったのは独自開発の「BMS(バッテリーマネジメントシステム)」。メーカーがハードウエア志向であるのに対して、テスラは当初からソフトウエア志向だった。ITのエンジニアリングを熟知するイーロン・マスク氏ならではの選択だったと言えるかもしれないし、ばく大な投資が難しい当時の立場では、それしか選択肢がなかったと言ってもいいのかもしれない。
いずれにしても、ソフトウエアの重要性はいまやあらためて説く必要もないほど周知されるに至っている。テスラはその間もエンジニアリングの開発を緩めることなく、いまも新しいEVの可能性に挑戦を続けている。さまざまな物議をかもしてはいるが、運転支援システムのソフトウエアやOTA(Over The Air=通信)更新などに関しては、彼らが技術開発と社会受容性の進展に貢献したことは間違いないだろう。
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巧みなマーケティングとソフトウエア志向
いまやEV界の象徴のように扱われることも多いテスラだが、ハードウエアに軸足を置いたものづくりや量産化は志向しておらず、生産台数は既存の自動車メーカーに遠く及ばない。それでもテスラの経営が好調なのは、マスク氏が技術を知るエンジニアであると同時に、時流の見極めにたけた経営者でもあるからだ。トヨタとゼネラルモーターズの合弁で設立された「NUMMI」工場の取得による生産体制の強化、“対EV”ではなく“対高級スポーツカー”に絞ったマーケティング戦略、既得権益に縛られない若き経営者というフロントマンとしての魅力などを巧みに打ち出しながら、市場で存在感を発揮して多額の資金調達を成し遂げていく。
冒頭で世界の半導体不足について触れたが、EVはハイブリッド車等と同様に、純エンジン車の比ではないほど多くの半導体を必要とする。長引くコロナ禍でテレワークが進み、DX(デジタルトランスフォーメーション)に追い風が吹いているため、半導体の世界的需要は今後も高まり、争奪戦が続くだろう。しかしテスラは当初からソフトウエア志向で、半導体に対する意識も極めて高く、自社で専用の半導体を開発できるほどの体制を敷いている。そのため、こうした現状にも他社ほど影響を受けていないとみられる。
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高まる期待にどこまで応えられるか
ただ、こうしたアドバンテージを踏まえても長期的な成長については未知数だ。先般、レンタカー大手の米ハーツがテスラからEV 10万台を調達すると表明した。これを受けてテスラの株価は上昇し、その資金調達力の高さをあらためて目の当たりにしたわけだが、10万台ものEVを順当に納品できるかどうかは分からない。テスラの2021年7~9月期決算では、EV生産台数は前年同期比2倍以上の23万7823台となった。そこから計算すると年間の販売台数は100万台ほどで、10万台といえばその1割にも達する数なのだ。
これから世界は、コロナ禍からの復興に向けて動き出す。産業体制の強化が図られ、半導体と資材の争奪戦が加速するなかで、テスラは市場の期待に応え続けていけるだろうか。いずれにせよ、マスク氏がTwitterで注目を集める発言をしたときは要注意だ。市場の動向と照らし合わせながら、テスラ社の動向を見守っていきたい。
(文=林 愛子/写真=テスラ、newspress、パナソニック/編集=堀田剛資)
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林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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