第663回:ドゥカティが「DREレーストラック・アカデミー」を開催 サーキットでの走りをレース界の名門に学ぶ
2021.11.10 エディターから一言![]() |
ドゥカティジャパンがサーキットでのライディングレッスン「DREレーストラック・アカデミー」を日本で初開催した。スタイルの面でもパフォーマンスの面でも、独自の哲学とテクノロジーをもってレーシングマシンを開発し、そこで得た経験をもとに魅力的なスポーツバイクを輩出し続けるドゥカティ。彼らが世界中で展開する「DRE」とはいかなるものか? そのプログラムに参加した。
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講師陣には世界選手権の参戦経験者も
DRE(ドゥカティ・ライディング・エクスペリエンス)とは、その名の通り2003年から続くドゥカティのライディングレッスンだ。
その内容は多岐にわたり、
- ビギナーやリターンライダー、またはライディングに自信が持てないライダーを対象とし、安全に走行するための技術や心構えを共有する「ルーキー・アカデミー」
- 安全意識を高めながら、一般道におけるライディングのレベルを向上させたいビギナーからエキスパートのライダーを対象にした「ロード・アカデミー」
- オフロードを走るテクニックと楽しさを提供する「アドベンチャー・アカデミー(旧エンデューロ・アカデミー)」
- 初心者にはサーキット走行におけるテクニックや心構えを、タイムアップを目指すエキスパートにはプロフェッショナルなライダーのスキルを伝授する「レーストラック・アカデミー」
……の、4つのセミナーが用意されている。今回筆者が参加したのは、冒頭でも触れた通りサーキットでの技術を高めるレーストラック・アカデミーだ。
イタリア本国で行われるDREレーストラック・アカデミーは、MotoGPやスーパーバイク世界選手権も行われるミサノやムジェロなどが会場となる。そして、ロードレース世界選手権やMotoGP、スーパーバイク世界選手権への参戦経験もあるドゥカティのファクトリーライダーを含めた、プロフェッショナルなメンバーが講師を務めることも特徴だ。
電子制御を理解することで走り方が変わる
間口が広いのもDREレーストラック・アカデミーの特徴で、サーキットビギナーを対象にコースでの心構えや加速・減速・コーナリングといった基本的な技術をレクチャーする「トラック・ウォームアップ」、より強いブレーキングや加速、より速いコーナリングスピードを維持するための技術をレクチャーする「トラックEVO」、明確なレースでのパフォーマンス向上を目指し、具体的なテクニックを教授する「トラックマスター」の3つのレベルに分かれて開催される。
さらには、受講者一人ひとりに専属のインストラクターがつき、詳細なレッスンを行う「One to One V2&V4(レッスン車両には「パニガーレV2」や「パニガーレV4」を使用する)」という、よりリッチなプログラムも用意されている。今回、袖ヶ浦フォレストレースウェイで開かれたレーストラック・アカデミーは、これらのなかの「トラック・ウォームアップ」だった。
朝一番に行われたブリーフィングでは、動画や図を使って、レッスンのポイントとなるブレーキングやシフトダウンによる減速、アクセル操作やシフトアップによる加速、基本的な走行ラインなどが説明された。同時に、それらの操作と連動してトラクションコントロールやコーナリングABSといった電子装備が、どのように作動し、ライダーの操作や走行をサポートするかも解説。スピードレンジが高いサーキットでは、一般道に比べこうしたデバイスの介入頻度が多くなる。普段の走行では体感する機会が少ないだろうこれらの技術も、がぜん身近な存在となるのだ。もちろん、こうしたデバイスがどのような環境でどのように作動するかを理解することで、ライダーの意識やライディングそのものも大きく変化する。こうしたレッスンで電子制御の仕組みを理解できるのは、非常に有意義なことなのだ。
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学んだことを即座に実践できる
座学が終わると、いよいよセミナーの舞台はコースへ。今回は参加者のライディングスキルと、参加者が持ち込んだモデル(筆者はドゥカティジャパンの広報車を特別にレンタル)によって5つのグループに分けてレッスンが行われた。各グループは最大でも5人の受講者に対し1人のインストラクターがつく少人数制。20分のレクチャーと20分の走行がセットとなったセッションが、午前と午後に2回ずつ、合計4回行われた。
走行前にホワイトボードのコース図で学んだブレーキ/スロットルのポイントや、レッスン用に固定された車両にまたがり、身ぶり手ぶりを交えて教わったアクションを、そのすぐ後にコースで体感。そこで生まれた新たな疑問を、再度インストラクターに聞いて確認するかたちだ。
今回、われわれのグループのインストラクターを務めたのは、『webCG』でも試乗インプレッション等を展開する伊丹孝裕氏。イギリスで行われているマン島TTレースや、アメリカの歴史あるヒルクライムレース「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」、そして鈴鹿8時間耐久レースに参戦経験がある、国際ライセンス保有のフリージャーナリストだ。
反復練習で覚えた技術は公道でも役に立つ
彼が走行前に徹底して伝えたのはペース管理。ブレーキや車体の向きを変えるポイントを決め、コーナーを走る速度やラインを自分自身で管理することだ。
走行前、インストラクターからはコース図を使い“オススメの走り方”のアドバイスを受けるが、個々の車両の特性やライダーの技量、走り方が異なるため、それにとらわれすぎることなく、自分でイメージする走行ラインをトレースするためのポイントやアクションを決めてトライすることが重要だという。うまくいかなければポイントやアクション(=操作のタイミングやそのやり方)を修正し、トライを繰り返す。コースにはさまざまなコーナーがあるため、そのなかで1つか2つのコーナーに絞ってトライを繰り返し、そこで納得のいく走りができたら、別のコーナーにトライする。
こうした、走行イメージの想像と実践の反復で培った走行技術、ライダーのアクションに伴う車体の反応とそれに対する対処の理解は、別のサーキットでも生かせるのはもちろん、一般道での走行でも役立つという。
特に筆者個人としては、体と視線をシンクロさせたわずかなボディーアクションに関するアドバイスにより、不安定になりがちなブレーキング時の車体とライダーの上体が安定し、かつフロントタイヤがクルッとコーナーの出口へ向きを変える感覚が味わえたことが新鮮だった。
アレンジしつつもコンセプトは世界共通
2021年、ドゥカティジャパンは日本におけるDREプログラムを一気に充実させた。6月には新型「モンスター」の発売に合わせ、静岡県の「バイカーズパラダイス南箱根」で日本で初めてとなるDREロード・アカデミーを開催。10月上旬にはその第2回も開催され、ドゥカティ本社お墨付きのオフィシャルインストラクターがプログラムしたレッスンを受けることができた。そして今回は、ロードレース世界選手権GP250の元世界チャンピオンである原田哲也氏をはじめ、国内外のさまざまなレースで活動してきた経験豊かな5人のインストラクターを招請。DREレーストラック・アカデミーが開催された。
ドゥカティジャパンの代表であるマッツ・リンドストレーム氏は、日本でDREレーストラック・アカデミーを開催するにあたり、日本の環境に合わせてプログラムの細部をアレンジしたものの、そのコンセプトは、イタリア本国はもちろん世界中で開催されるDREとなにも変わらないという。
「DREは、オープンなイベントです。ドゥカティオーナーはもちろん、ドゥカティを持っていないけれど興味があるライダーにも、そのドアはいつでも開いています。特にサーキット走行を決意するにはさまざまなハードルを乗り越える必要がありますが、DREはそのお手伝いをしたいと考えています。サーキットは、レーシングDNAを持つドゥカティの核心を、最も強く感じることができる場所です。このレーストラック・アカデミーを含め、DREは2022年も開催する予定です。より多くのライダーにこのプログラムに参加していただき、ドゥカティワールドを体験していただきたいと思います」
(文=河野正士/写真=ドゥカティジャパン/編集=堀田剛資)

河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
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