第731回:伝統アピールか裸一貫からの出直しか!? どうなる新生MG
2021.11.11 マッキナ あらモーダ!ショッピングモールに突如降臨
2021年10月下旬に、イタリア中部フィレンツェのショッピングモールを訪れたときのことである。
この施設では、2つあるエントランスで、地元の自動車販売店が期間限定で車両を展示しているのが常だ。ファッション業界で言うところの「ポップアップストア」である。
普段は、買い物客がつい足を止めそうな「フィアット・パンダ」「ランチア・イプシロン」もしくは「ルノー・クリオ」といったポピュラーカーの、当たり障りがない車体色の特売車が展示されている。だが、その日ばかりは、もっと派手なブランドのクルマが置かれていた。
なんとMGであった。
英国を発祥とし、今日では上海汽車集団(SAIC)のいちブランドであるMGがヨーロッパ大陸市場に再進出した話は、2020年5月の第657回に記した。
その時点ではフランス・パリにショールームを開設したというニュースだったが、いよいよイタリア各地でも本格展開が始まった。
その日の展示車は、プラグインハイブリッド車(PHEV)「EHS」(前回は「eHS」と表記したが、欧州法人の新たな表記に従いEHSとする)であった。ボディーカラーは「ファントムレッド」と名づけられた鮮やかな赤である。
ひとりのセールスパーソンの手が空いたので聞いてみると、出展していたのは地元フィレンツェおよびトスカーナ州内のアレッツォでジャガーやランドローバーを扱うディーラーだった。
彼らが新たにMGを選択したのは、より幅広い価格レンジを網羅し、さまざまな顧客に対応したいがためであることは明らかだ。例えば、筆者が住むシエナ地域ではマツダとともにヒュンダイを扱っている販売店がある。
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まずは北欧で順調な船出
自動車ブランドとして約15年ぶりにヨーロッパ大陸に復帰したMGは、まずは北ヨーロッパ地域で、それなりに頭角を現すことができたようだ。以下はオランダのアムステルダムに本社を置くSAICモーターBVのリリースによる2020年のデータである。
主役は電気自動車(BEV)「ZS EV」である。ノルウェーではBEV市場で4.85%のシェアを確保し、BEV販売順位で7位を確保している。内燃機関車を含めた総合でも8位にランクインした。
オランダでもMG ZS EVがBEV市場で2.90%のシェアを達成。2020年BEV販売ランキングのトップ10入りを果たした。
デンマークではBEVセグメントで2.54%のシェアを確保。「最もポピュラーな10台のEV」の1台となった。アイスランドでもシェア2.13%を達成し、BEVのなかでは11位だったという。
これらの数字を読むには2つのことを念頭に置く必要があろう。第1はいずれの国も自動車市場の規模が小さいこと、第2はBEV普及先進国であることだ。例としてノルウェーやオランダでは、パワーユニット別に分類しない総合ランキングで、「テスラ・モデル3」が月間最多販売車になることがたびたびある。
ただし、欧米系ブランドのBEVが群雄割拠するなか、中国系として切り込んだMGのこうした結果は、奮闘ととらえることもできる。
必勝フレーズは?
いっぽうイタリア市場では2021年3月に当初12店舗でディーラー展開を開始。年末までに40店舗の開設を予定している。目下の目標は、3年以内にイタリア乗用車市場におけるシェア1%確保だ。イタリア版ウェブサイトの1ページは「代理店募集」に割かれている。
フィレンツェのショッピングセンターでのMGに話を戻せば、展示されていたのは北欧諸国で人気のZS EVではなく、前述の通りPHEVのEHSであった。
2021年10月のイタリア全国の新車登録台数におけるBEVの比率は7%(7134台)で、PHEVの5%(5123台)を上回っている(データ出典:UNRAE)。
しかし航続距離や充電インフラ、価格などの観点からBEV購入をためらうユーザーが多い地域では、PHEVを前面に押し出すのは正しい作戦といえる。
観察していると、平日昼間ということで、足を止めるのは高齢者が多めだ。それでも熱心に話を聞く人が少なくない。
先ほどのセールスパーソンに、「やはりかつてのMGを知っている世代が中心ですか?」と聞くと、「そういう方もいらっしゃいますが、世代は幅広いですよ」と教えてくれた。
このモデルは中国製ですねと聞くと、彼は率直に「はい」と答えたうえで、こう続けた。
「しかし、現地でフォルクスワーゲン(VW)も製造しているSAICのプロダクトです」
なるほど、VWの名を出すのは、欧州のユーザーを安心させるには極めて効果的だ。彼らのセールスマニュアルにそう記されているに違いない。
歴史的ブランドゆえの難しさ
ところで前回MGについて記したときは、歴史あるブランドが再生する可能性をスポーツ用品のアディダスに例えて記事を締めた。
ただし、ヨーロッパにおける顧客の志向を考えた場合、筆者は若干の心配を抱くようになっているのも事実だ。
参考になるのは、スマートフォンやスマートTVの市場シェアである。これらの動向から分かるのは「歴史的ブランドに依存できない」ということだ。
若干古いデータだが、スマートTVの2020年第1四半期の世界シェアは1位がサムスンの14%で2位がソニーの12%、3位がLGの8%だった。以下はハイセンス、TCLなどが続く。いっぽうで、ヨーロッパで見られるテレフンケンやトムソン、サバ(SABA)、セレコといった、継承した企業が復活・再生を図ったブランドは、「その他」に分類されてしまっているのだろう、まったく統計に表れない(データ出典:Statista)。
スマートフォンも見てみよう。
ヨーロッパにおける2021年10月の市場シェアは、Appleが36.24%でサムスンが30.44%、シャオミが11.31%、ファーウェイが11.25%、オッポが1.55%と続く(データ出典:Statcounter)。
シャオミ、ファーウェイ、オッポの中国系3社は、数年前までは携帯通信会社が格安プランと抱き合わせで販売するスマートフォン専用ブランドのような立場だったが、今や家電量販店でApple並みのコーナーが見られるようになっている。対して、2000年代初頭、欧州でまだ“一流”として市場の一角を占めていた日本ブランドで名前が残っているのは、もはやソニー(0.71%)のみである。ただし、先に書いた通りソニーはスマートTVの分野では強みを発揮している。
クルマに関しても、昔の名前を復活させるより、新鮮なブランドを立ち上げるほうが一定のインパクトを得やすいかもしれない。
マイバッハやDS、そしてアルピーヌが相次ぐ方針転換を迫られたり、もしくは成功が限定的だったりするのをみれば、それは分かる。
いっぽうで欧州におけるテスラは自動車ファンのみならず、クルマに関心がない人の間でもかなり知られるようになっている。つい数週間前にシエナで茶飲み話をした元F1ドライバー、アレッサンドロ・ナンニーニ氏も「最近、ウチの息子が関心のあるクルマといえば、テスラだけだ」と笑いながら明かしてくれた。
ブレてはいけない
MGに話を戻せば、欧州版のウェブサイトではブランドの歴史を語っている。ところが、今回ショッピングモールに置かれていたZS EVの24ページ版カタログでは、ヘリテージには一切触れていない。
電動化車両による新しいライフスタイルのイメージをふくらませている傍らで、早くもイタリアの公式ウェブサイトには今月の特売品が記されている。今回のショッピングモールの展示でも、フロントウィンドウには、どういった支払いプランの、どういった一部であるのか聞くのを失念したが、「MGは1万3900ユーロ(筆者注:183万円)から」の文字がアイキャッチとして貼られていた。
MGはこれからも伝統を語り続けて戦いに挑むのか、それとも新たなブランドとして、いわば裸一貫から勝負し直すのか。自社の電動化車両は新しい生活の提案なのか、手軽なエコ手段なのか。最初のブランディングが大切な気がしてならないのである。ブレてはいけない。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、SAICモーター・ヨーロッパ/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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